67話 馬鹿への報い
タゴサックと話していたら。何やら無人販売所の前に人だかりが出来ていた。
「おや、何かあったかな?」
「うーん、ちょっと見てくるよ」
「俺も行こう」
で、何があったのかと言うと、ハーブティーが買えなかったプレイヤーが、買えたプレイヤーにイチャモンをつけているらしかった。
最後のプレイヤーに、1つしか買わずに自分たちにも回してほしいとお願いしたのに、全部買われたと怒っている。
勘弁してくれよ。なんでこんな事態になってるんだよ。俺の困惑を感じ取ったのか、タゴサックが肩を叩いてくる。
「ハーブティーに関しては、俺も気にはなってたんだ。入手先とかな。ただ、さすがにマナー違反かと思って聞きはしなかったが……。正直、今は祭り状態だからしばらくはこの騒ぎが続くと思うぞ」
「まじか」
最初に飲んだ人たちが散々掲示板で煽ったらしい。超絶美味いとか、ここだけでしか買えないとか。
そして、買いに来たのに買えなかった人たちがどうしても飲みたいと言い出し、そこまで流行ってるなら俺も俺もと欲しがる人が増え。
僅か3日でプレミアム状態なんだとか。
「怖いんだけど」
「過熱し過ぎだとは思うがな」
「キュキュ」
げんなりしていたらリックが肩に乗ってきた。単に肩の上に乗るのが好きなだけで、別に俺を慰めてくれてるわけじゃないのは分かってるけど、このモフモフ尻尾を触ってるだけで癒されるね。
「スーハースーハー。お日様の香りだねー」
「人の趣味をとやかく言うつもりはないが、お前ちょっと変態っぽいぞ」
「……」
「キュイ?」
俺は何も言わずリックの尻尾を掴んでいた手を離した。
首に巻きついたリスの尻尾をクンカクンカして恍惚の表情を浮かべる男の図。うん、確かにアウトだったかもしれない。
そんな事をしていたら、騒ぎの中心にいたプレイヤーが俺に気づいたようだ。こっちにズンズンと近寄ってきた。
ホームに侵入は出来ないから、畑の外で大声を張り上げることしかできないけど。
「おい! ハーブティーとやらを売れよ!」
「もっと作れるんだろ?」
「というか、作り方を教えろよ! 独り占めするなよ!」
うわー、来たよ。最悪だ。こういう馬鹿どもって厄介そうなんだよな。粘着されても嫌だし、掲示板にあることない事書かれても怖いし。
「えーっと――」
「おい! お前ら! 何バカなこと言ってやがる! こいつは自分が発見したハーブティーの茶葉を、善意で販売してるんだぞ?」
タゴサックがかばってくれた。姐さん!
「な、なんだよ! だったらもっと安く売れよ! 高く売ってる時点で善意じゃねーよ!」
「販売してくれてる時点で有り難いって思えよ」
「売ってくださってありがとうございますとでも言えっていうのかよ! たかが茶葉を売ってるだけで偉そうにしてんじゃねーよ!」
たかが茶葉で大騒ぎしてる奴の台詞とは思えんな。そう思っていたら、タゴサックが同じことを言ってくれた。
「たかが茶葉って言うなら、別にいらないだろ? たかが茶葉なんだし。諦めて帰れよ」
「こっちは客だぞ! 神様だぞ! 買いに来てやったんだぞ!」
あー、そこね。お客様は神様って、現実でも言う奴いるけどあれは嘘だね。お客様はお客様だ。神様じゃない。規定内で最大限のサービスはするけど、それ以上のサービスはしないのが当たり前だ。今時お客様は神様とか言う場所、余程流行っていない店舗か、古臭いロジックで動いている老舗、もしくはサービスを売りにしているホテル業界だけだろう。いや、口では言う事もあるよ? でも、理想と建前っていう物があるだろう。
なのにそれを鵜呑みにした頭の悪いクソクレーマーにはそういうこと言う奴いるんだよな。俺は客だ! 神だ! ってね。自分を神とか、恥ずかしくないのかよ? むしろ疫病神――おっと、ちょっと嫌なことを思い出してハッスルしてしまった。
今はこのクレーマーたちだな。
「ないなら今すぐ作れよ! 材料あるんだろ!」
「これだから生産の苦労も分かってない奴は」
がなり立てるクレーマーを見て、タゴサックが心底馬鹿にした表情でため息をつく。
「ああ? たかが生産職如きが舐めた口叩いてるんじゃねーよ!」
「俺たちは攻略組だぞ!」
「おおー」
「何でユートが感心するんだよ」
「いや、実際に「俺は攻略組だぞ!」とかいうテンプレ台詞を吐いて威張る奴を初めて見たからさ。思わず」
「て、てめー! 舐めてんのか!」
やべ、思わず言っちゃった。喧嘩を売るつもりはなかったんだけどな。
すると、周囲のプレイヤーが怒りの表情で、馬鹿どもに対して声を上げ始める。馬鹿5人対30人くらいのプレイヤーだ。
彼らの話を聞いてみると、生産職が自分が見つけたレシピを秘匿するのは当然だと言う意見や、馬鹿どもの横暴な態度を非難する意見、お前らなんか前線で見たことが無いと言う言葉がほとんどだった。
こいつら自称攻略組だったのか。より痛いな。
「だいたい、これで白銀さんがハーブティーの販売を止めちゃったらどうするんだよ!」
「そうだそうだ! 白銀さんが可哀想だろ!」
あ、やっぱり俺の正体は知られてたのね。まあ、もう諦めてるけどさ。それに、こんなに庇ってもらえるとは。不覚にもちょっとジーンとしてしまった。
怯む馬鹿どもに、タゴサックが再度凄む。
「おい、お前らさっき生産職を馬鹿にするような発言をしたな? 生産職のネットワークを舐めるなよ?」
おおー、意味深な脅し文句。ただ、後で話を聞いたところ、ブラックリストのような物が生産職でも自分で商売をするようなプレイヤーの間に出回っており、まともにプレイヤーズショップを利用できない奴らが存在しているらしい。
詐欺行為を働いた者や、毎回クレーム騒ぎを起こす者。こいつ等みたいに生産職を見下してアイテムを脅し取ろうとするようなプレイヤーの名前が20人程リストに載っているんだとか。
そのことを知ってか知らずか、馬鹿どもはタゴサックの迫力に気圧されるように後ずさりする。
「く、くそ! もう二度とハーブティーなんか買いに来ないからな!」
「後悔するなよ! 他のプレイヤーにも不味かったって言いふらしてやるからな!」
いや、それはむしろ有り難いけど。どうぞそうしてください。
結局、馬鹿どもは捨て台詞を残して逃げ去っていくのだった。
他のプレイヤーさんは慰めてくれたし、もう運営にも通報してくれたらしい。今のやり取りも全部記録していたらしく、それも運営に送ってくれたそうだ。
今まで運営が下したペナルティから予想すると、リアルで5~7日程度のログイン禁止にはなるのではないかという事だった。しかも次に騒ぎを起こしたらアカウント停止という警告と共にだ。
ゲームを続けたければもう俺に接触してくることはないだろうと慰められた。うーん、馬鹿もいるけど、良い人たちもいるよな。
まあ、あいつらがもう来ないならそれでいいや。にしても、リアルで7日もログイン停止になったら、ゲーム内では28日も経過してしまうぞ。大きすぎる報いだね。俺だったらゲームを辞めちゃうかもな。
書籍化にあたり、エタらせたり、長期間放置と言う事にはしないつもりです。多分……。
前回の書籍化作業時にもほぼ以前と変わらない速度で更新し続けられたので、今回も大丈夫だと思います。ちょっと頑張りすぎて体調を崩して、更新速度が落ちた週があったくらいでしたし。
出来る限り更新ペースは維持していくつもりですので応援よろしくお願いします。




