664話 ロクロネック
ネモフィラの花畑でモンスや妖怪たちと遊んでいると、フレンドコールが鳴るのが聞こえた。
「浜風? もしもし?」
『白銀さん。お久しぶりです』
「どうしたんだ?」
『実はお願いがありまして――』
コールの相手は浜風だった。
なんでも、達成するのが難しいクエストがあり、それを手伝ってほしいという。浜風が手こずるようなクエスト、俺が力になれるとは思えんがな……。
まあ、わざわざ頼ってくれたんだし、力にはなりたいと思うけどさ。
とりあえず会って話を聞くことになり、浜風が畑へとやってきた。
「どーもです」
「おう! それにしても、急にコールなんてどうしたんだ?」
「先日、陰陽師専用のクエストを受けたんですけど、どれだけ挑戦してもなかなか達成できなくて……」
「陰陽師専用? そんなクエストがあるのか?」
「第11エリアの従魔ギルドの奥には行きましたか?」
「ラウンジみたいなところか?」
「はい。あそこで受注できるんです」
そう言えば、ラウンジは職業ごとに違うんだったな。陰陽師専用ラウンジでは、陰陽師に対して様々なサービスがあるようだった。
「でも、俺は陰陽師じゃないぞ?」
「受注は陰陽師しかできませんけど、パーティやチームなら誰でも参加できますから」
「なら問題ないか」
浜風が受けたクエストの内容は、妖怪の探索である。
最近になって、第11エリアの各所で謎の妖怪の目撃情報がある。それを探し出して、危険な相手なら調伏せよ。
そんな内容の依頼だそうだ。
「今まで何度も挑戦しているんですが、中々上手くいかなくて」
そもそも、手掛かりすら得られずに諦めること3回。妖怪らしきものを発見したのに、追いつけずに諦めること4回。
追いついたのに、黒い影のような謎の相手と、戦闘になって死に戻ること3回。
すでに10回もクエストに失敗してしまっているらしい。
「とりあえず、パーティメンバー全員が妖怪召喚や妖怪知識といった、妖怪系統のスキルを所持していなければならないっていうのは分かったんですけどね」
「あー、それなら俺でも大丈夫なのか」
「はい。確か、妖怪探索とかも持ってましたよね? 陰陽師でも、そこまで所持している人間は珍しいですから」
浜風が俺に声をかけてきたのは、謎に妖怪系統のスキルが充実しているからだった。確かに、妖怪召喚、妖怪知識、妖怪察知、妖怪探索、妖怪懐柔と、5つもスキルを持っている。
妖怪懐柔とかは、ハナミアラシクエストのホストにならなきゃ解放されないんだったっけ? 普通には取得できないっぽいし、陰陽師でもないのに所持しているプレイヤーは珍しいんだろう。
「でも、浜風たちが勝てないような敵に、俺が役立てるとは思えないが?」
「実は、敵の戦闘力にバラつきがありまして、妖怪スキルの数か、友誼を結んでいる妖怪の数か、その辺が影響していると思うんです」
妖怪好きで、妖怪召喚を覚えたサモナーと一緒だった場合と、スネコスリの召喚だけが使えるトッププレイヤーと一緒だった場合では、謎の影の強さがかなり違っていたそうだ。
「明らかに前者の時の方が、影が弱かったんですよ」
「なるほどなぁ」
だとすると、確かに力になれるかもしれん。妖怪も、今判明してる奴はほぼ入手済みだし、妖怪系スキルもそこそこ多いからな。
「分かった。一緒に行こう」
「やった! ありがとうございます! 恥を忍んで頼んだかいがありました!」
恥って……。そこまで大事か?
同行者は、浜風と、浜風の陰陽師仲間が1人来るらしい。
第11エリアのビステスに移動して少し待っていると、すぐに浜風の友人がやってきた。
「は、初めまして! ロクロネックといいます!」
「よ、よろしく」
現れたのは、長い黒髪に和風のローブが似合っている、美女だった。純和風の美人さんである。
だが、その挙動は変だ。なんか、周囲をキョロキョロと見回し、怯えたような表情を浮かべているのだ。
命でも狙われているのか?
「あの、大丈夫か?」
「ひゃ、ひゃい!」
「浜風?」
「ごめんなさい。白銀さんに初めて出会えて、舞い上がってるみたいです」
俺に出会えてって……。同じテイマーさんに、褒めてもらうことは最近ある。まあ、運よく色々と発見できたりもしてるしね。でも、陰陽師のロクロネックが、何で舞い上がる?
というか、絶対に怯えてるよな?
浜風がロクロネックを少し離れた場所に連れていくと、何やら小声で話をしている。
「何やってんのロクロ!」
「だって、白銀さんです! 白銀さんなんですよ! ま、周りが全部見守り隊に思えます! しょ、処される!」
「見守り隊なんて都市伝説だから!」
「い、いない?」
「いや、いるにはいるけど、そんな過激な組織じゃないってば。フレンドの私と一緒に話するくらいなら、全然平気だって! ほら、深呼吸して!」
「ふっふっふっふ……」
「それ深呼吸じゃない!」
何をやっているんだろうな? 数秒ほど何か言い合いをしていたんだが、すぐにこちらに戻ってきた。
「ごめんなさい。もう落ち着いたみたいなんで大丈夫です」
「いや、とてもそうは見えんが……」
「はぅ!」
背が高い美人がビクンと震える姿、少しだけいけない扉が開きそうになってしまうぜ。
「あの、調子悪いんなら無理して参加しなくても大丈夫ですよ?」
「い、いえ! 大丈夫です! 妖怪と陰陽師を見つけてくれた白銀さんに、恩返しのチャンスですからっ!」
あー、なるほど。まあ、確かに俺が発見したし、それを恩に感じて気合が空回りしちゃってる感じなのね。
「い、いい! 行きましょう!」
「あ、ちょっとロクロ! そっちじゃない!」
うーん、大丈夫かね?




