663話 ワンパクモノ
水臨樹が急成長を遂げてから半日。
俺は南の第11エリアへと向かうと、エルフの住む都市、エルファンを散策していた。そして、遂に目当てのものを発見する。
「いた! 猫だ!」
「ペペン!」
「キキュ!」
俺たちが探していたのは、わんぱく邸へと導いてくれたヒントの猫である。やはり、南にもいたな!
前回と同じように、ペルカ達が猫を追って壁を登っていく。ただ、その道順は北の都ヒュルンとはかなり違っていた。
あっちは屋敷の壁の上とか家の屋根の上だったが、こちらはさすがエルフの住む都市。しゃがまないと進めない獣道とか、池の上の飛び石の上を進むルートだったのだ。
結果、俺たちはわんぱく屋という森のレストランを発見していた。エルフのパクさんというお婆さんの店だ。
施設は、わんぱく邸とほぼ同じである。ただ、こちらは森の中の庭なので、ゲームの筐体はない。その代わり、樹上アスレチックなどが用意されていた。ビリヤードなどは一応屋根の下に置かれているが、数は少ない。よりアウトドア派のためのお店なんだろう。
その後、俺はわんぱく屋で遊びながら、様々なわんぱくイベントに出場してポイントをためていった。
ゆっくりボーッとしているだけでいいのんびりイベントと違って、かなり忙しい。
それでも、アスレチックとかパルクールとか頑張って、なんとかWPを溜める。おかげで、秘伝書と交換できるようにはなったのだ。
まあ、まだ保留中だけど。
なんせ、交換したところでまだ転職できんしね。それに、2つあってもどちらかは無駄になる。だったら、転職した人たちからの情報が集まるまでは、様子見しておこうと思う。
「さて、次は妖怪が出現するはずなんだが……」
「ム?」
「どうしたオルト?」
「ムム!」
「おお! ついに来たー!」
わんぱく屋の木々に囲まれた庭に、いつの間にか二足歩行の動物が立っていた。名前はワンパクモノ。間違いない。ノンビリモノの対となる妖怪だ。
「パックー!」
「おお、よろしくな」
「パク!」
ちょっとこちらを睨むような眼をしているんだが、普通に握手を求められた。目つきが悪いだけで、怒っているわけではないらしい。
にしても、なんの動物だ?
「パク?」
フォルムはイタチっぽい。でも、色味が見たことない色だ。背中側は灰色っぽい白で、腹側が顔から足先まで黒。
スカンクっぽい色だが、スカンクじゃないだろう。もう少し毛が短くて硬い感じだ。白黒のイタチって言うのが、一番しっくりくる。
でもどっかで見たことある気が……。
あ! あれだ! ラーテルってやつだ! 世界一怖れ知らずだとかなんとかって、テレビで紹介されてた!
確かに、ワンパクモノには相応しいチョイスなのかもしれないな。
「パク!」
「おっと、すまん。よろしくな!」
「パック!」
「お? なんだ? 遊びたいのか?」
「パク!」
ノンビリモノは、のんびりしていたら仲間になってくれた。じゃあ、ワンパクモノは? わんぱくにしなきゃいけない=遊びまくるってことかな?
「パクー!」
「ムッムー!」
「トリー!」
うちの子たちとワンパクモノが、ゲームで対戦をし始めた。ダーツをやったり、エアホッケーをしたり、楽しそうだ。
俺も加わってワンパクモノと対戦するんだが、これがなかなか勝てない。ワンパクモノは、メチャクチャ運動神経がいいのだ。
エアホッケーとか、鉄壁過ぎて2人がかりでも1点も取れなかった。ワンパクモノの反復横跳びで、残像が生まれてたよ?
ダーツは半分ブルに入れてくるし、アスレチックは超スピードで攻略する。
もしかして、もっとステータスが高い戦闘職じゃなきゃ、ワンパクモノを仲間にできない設定になっているのか?
それでも運よく勝てることを願って、俺はワンパクモノと遊び続けた。途中からは意地である。絶対に1勝してやるのだ。
すると、遊び始めて2時間近く経った頃。
「パクー」
「お? これはもしかして?」
「パク!」
ワンパクモノが光り輝いたかと思うと、その姿が消えていた。そして、アナウンスでワンパクモノと友誼を結んだと告げられる。
勝利できなくても、遊び続けていればよかったらしい。時間的には1時間42分? 中途半端だから、遊んだ回数とかが切っ掛けになっているのかな?
「スキルが解放されたな」
解放されたスキルは、『腕白』と『せっかち』と『疾風陣』の3種である。
腕白は、セーフティゾーン外にいればいるほど、ステータスにボーナスが入るというスキルだ。長時間フィールドで戦い続ける場合には有用なんだろう。
せっかちは、セーフティゾーンでの自然回復速度が上昇するが、Maxの8割からは回復速度が激減するという尖ったスキルである。
WPで交換できるスキルにせっかち休憩っていうスキルがあったけど、あっちはログアウト中の自然回復が早くなるっていうスキルだったはずだ。
で、最後の疾風陣は、敵味方関係なく周囲の者全てに速度上昇効果が入るバフスキルだった。ノンビリモノの鈍重陣とは正反対の効果である。やはり、使い所が難しそうなスキルだな。
「さて、つぎはどうしようかなー。のんびりイベントにでもいくかね?」
「ムム!」




