662話 水臨樹の成長を知った運営の場合
「戻ったぞー。腹減ったぁ!」
「お疲れ様っす主任。会議の方はどうでした?」
「あー、やっぱり好感度の制限を全体的に見直すことになりそうだ」
「やっぱそうなりましたかー」
「のんびりとわんぱくが発見されるのは予想してたが、他の4次職が発見される気配が全くないしなぁ」
「第11エリアの隠れ里、何人かは見つけてるんですがねぇ」
「先行者が、情報を秘匿するのは当然の権利だ。白銀さんが異常なだけでな」
「一応、掲示板に書き込んだプレイヤーも数人いたみたいですよ? 釣り扱いされて、信じてもらえなかったみたいですけど」
「そりゃあ、証拠がなけりゃそうだよな」
「このままだと、通常の4次職が発見される前に、のんびりとわんぱくに転職するプレイヤーが想定よりも多くなりそうっす」
「正規ルート発見前に、特殊職ばかり増えちまうのは、ちょいとマズイ。だが、隠れ里を発見できても、好感度を上げなきゃ試練が提示されんし、提示されても攻略に時間がかかる場合も多い」
「で、好感度制限の緩和っすか」
「4次職への試練は、隠れ里でキーになるNPCと会話さえすれば提示されることになった」
「いきなりそこまで?」
「プレイヤーの不満の声も大きくなってっからな。仕方ない。この先のトリガーも、見直して変更せんとな」
「うわー、また忙しくなるっす……」
「とりあえず、俺は飯に――」
「ぬあああああぁぁぁぁ!」
「ど、どうした?」
「これ見てください……」
「なんだよって……げぇぇぇぇ!」
「でしょ? そうなるっしょ?」
「いやいや、待て。この時期に? もう? ははは、ありえんだろ? 水臨大樹の遠景の写真加工して、それっぽく見せかけてんだろ? いやー、危うく騙されかけたわー」
「……違いますよ。そもそも、水臨大樹と形状が違うでしょ」
「だよなー。じゃあ、これは……」
「白銀さんの畑です。何か動きがあったら、報告がくるようにしてあったんすよ。まさか、水臨樹がこんなことになるとは」
「なんで?」
「え? いや、俺になんでって言われても」
「なんで?」
「主任?」
「なんでぇ?」
「主任が同じ言葉を繰り返すだけのbotに! 正気に戻ってください!」
「はっ! 余りの衝撃に思わず……!」
「気持ちはわかるっすけど」
「おいー! これは早すぎるだろ! 白銀さーん!」
「いやー、こちらが考えうる限りの最短ですよ」
「そりゃ、可能性としてはあり得るんだがよ。奇跡みたいな確率だぞ?」
「本来は、ゲーム内時間であと2ヶ月は先になるはずだったんですけどねぇ」
「これ、樹木系の神精の覚醒フラグの1つだったよな? 他のトリガーはどうだ? そっちも、結構厳しいフラグがあっただろ?」
「えーっと、待ってください。特定のダンジョンの攻略実績は……達成してますね」
「精霊の街があんだけ早く見つかっちまったらなぁ」
「白銀爆弾の影響が未だに! で、あとは、特定のボスの撃破数ですが……これも達成してますね」
「まじか?」
「ギリギリっすけどね。一部のパーティの中には、インしている間、延々とボスとプレデター戦繰り返しているような人たちがいますから」
「刺客は白銀さんだけじゃなかったか!」
「っす」
「で、神精系のイベント実績は、白銀さんの水臨樹が満たしちまったと」
「そうっす。すでに、幾つかの要素が解放されてます。まあ、まだ誰も気づいてないみたいですけど、すぐに気づくでしょうねぇ」
「今の状態で見つかって、チート扱いになりそうなヤバい要素は?」
「うーん? そうっすねぇ。第11エリアで開放されてるのは各都市の隠し祭壇と、各所の聖域。あとは、徘徊NPCに、イレギュラーモンスターくらいっすから」
「聖域の試練をクリアされたらマズいな」
「そうっすねぇ。究極奥義に5次職の秘伝書に神獣の従魔化に……。1人のプレイヤーが飛びぬけて強くなり過ぎますね」
「一応、使用条件を満たせない場合は、ナーフされる形にはなっているが……」
「それでも十分強いっす」
「だよなぁ。まあ、奥義や秘伝書、神器あたりの試練は、現状で達成できんだろ?」
「多分」
「問題は、従魔だよな」
「従魔というか、白銀さんっすね」
「……大丈夫だと思う?」
「……大丈夫だといいなーと思います」
「……大丈夫じゃん?」
「……大丈夫っすかね?」
「大丈夫なわけがないでしょう!」
「あ、副主任」
「これまでも、こちらの思惑をことごとく覆してきたプレイヤーですよ? 何かとんでもないことをしでかす前に、設定を変更します!」
「やっぱそうだよなぁ」
「そうなるっすよねぇ」
「とりあえず主任は――」
「俺は?」
「緊急会議です!」
「さっきまで会議だったのに!」
「いいから、行きますよ。もう他の部署にも連絡済みですから」
「早っ! え? もう連絡したの?」
「はい。こちらでも、白銀さん含めた数名の動向はチェックしていますので。ほら、来てください」
「俺、飯行くところだったんだけど……」
「会議室にお菓子ありますから、それで我慢してください」
「いやだー! せっかくダルイ会議から解放されたっていうのにぃぃぃぃ!」
「叫んでも無駄です! 早急に対処せねばなりませんから」
「ああ! 長引く予感! 絶対に長くなる!」
「長引くのが嫌なら、チャチャっと変更内容を決めてください!」
「今日も家に帰れない予感! 娘の手作り餃子の日なんだぁ!」
「が、頑張ってくださーい」




