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659話 水臨樹とネモフィラ


 急成長を遂げた水臨樹は、非常に存在感があった。


 幹の太さは倍近くなり、樹高も20メートルを超えているんじゃないか? 普通の果樹が5メートル、神聖樹などでも10メートル少々であることを考えると、1本だけ異常に巨大なのだ。


 しかも、流れ出る水に太陽光が反射して、キラキラと輝いている。薄っすら虹も出てないか? いやー、綺麗だな!


「ただ、根元が少し寂しいよなぁ」

「――?」


 大興奮状態で冷静さを欠くサクラは気づいていないようだが、水臨樹の周辺は土がむき出しでちょっと侘しい感じがするのだ。


 今までは俺も見栄えとかあまり気にしていなかったんだが、植え替えを行って畑を整えることを知ってしまうと、もっと綺麗にしたいと思ってしまう。


 映えってやつ? それが気になるのだ。


 それに、水臨樹はただでさえ美しいんだから、勿体ないよね。


「うーん。足元に花を植えたり、草を生やしたりはできんもんかな?」

「ム!」

「トリ!」

「オルトたちも賛成か」


 となると、アレだな。


「これはどうだ? ホームの庭を整えようかと思ってたんだけど、ここで使えるんじゃないか?」

「ムム!」

「トリリー!」


 どうやら問題ないらしい。畑担当の2人の許可が出たのだ。


 俺が取り出したのは、地面を花畑に変えるというオブジェクトである。採取はできないかわりに、畑の栄養なども必要とせず、1年中花が咲き続けるというアイテムだった。


 その名も『花の絨毯・ネモフィラ』。まあ、一見農業の範疇っぽいけど、部屋の中でも使えるというし、実態は花の形のオブジェクトがたくさん出現するだけなんだろう。


 設置型の大型絨毯などと、同じ系統のアイテムってことだ。でもいいんだ。だって、絶対に綺麗だもん。


「それじゃあ、設置!」

「ムー!」

「トリー!」


 突如、自分たちの足元を包み込んだ薄群青色の花の絨毯に、オルトとオレアも飛び上がって喜んでいる。


 この花の絨毯の良いところは、どれだけ踏んでも花が散ったり、折れたりしないところだろう。お陰で、花畑で駆け回っても問題ないのである。


「やべー、幻想的過ぎる」

「ムームムー!」

「トーリリー!」


 オルトとオレアが楽し気に花の上で踊り始める。相変わらずへたくそだけど、楽しそうだ。それに気づいたサクラも、満面の笑顔で合流したな。


 水臨樹や精霊様関係のことになると、サクラもテンションが上がってはしゃいだりするんだよね。


 俺も花畑に寝っ転がってみる。絨毯の名前に相応しく、草がフカフカで非常に気持ちいい。


 ネモフィラの香りに包まれながら、巨大に育った水臨樹の木陰に吹く爽やかな風を感じていると、耳にはモンスたちがはしゃぐ声と水音だけが聞こえてくる。


 天国ー。ここに天国はあったんだー。


「クマ?」

「キュ?」

「ヤー?」


 どうやら、楽しげな雰囲気を聞きつけたらしい。他のモンスたちも集まってきた。


 水臨樹を背に座り込むクママと、俺の横に寝転がるヒムカ。リックは育った水臨樹の木の上で丸くなり、アイネとメルムとリリスが空中でワチャワチャしている。


 ペルカとルフレは新しくできた池でプカプカと浮き、ドリモは水路を気にしているようだ。その姿は配管工にしか見えんな。


 キャロは日当たりのいい場所で座り込み、ファウがその背の上に腰かけて落ち着く曲を奏でてくれる。


 ネモフィラの中を走り回っているのはスネコスリかな? ノンビリモノはポケーッと水臨樹を見上げ、チャガマと幽鬼、サトリ、ハナミアラシはオルトたちの踊りの輪に加わった。妖怪なだけあって、盆踊りが得意なようだ。


 河童はルフレたちの仲間に入り、魂繭は我関せずな感じで空中に浮いている。そこにマスコットたちも加わって、水臨樹の周囲はあっという間に大賑わいだ。


「はっはっは! 楽しいなー」

「ヒム!」

「あいー」

「お、どうしたマモリ」

「あい!」


 しばらくボーッとしていると、マモリが俺の顔を覗き込んだ。急に視界に現れたマモリの顔面に、ちょっとだけ驚いてしまったぜ。


「あい」

「立てって?」

「あいー」

「はいはい。ちょっと待ってな。よっこらしょっと」


 マモリは俺だけではなく、他の皆も呼び集めているようだ。


「あいあい」

「ム?」

「フマ?」


 全員を水臨樹の根元に並べて、立たせる。なんか、集合写真みたいな感じだな。いや、実際に集合写真を撮るつもりらしい。


 俺以外の皆はそれが理解できているのか、各々ポーズを取ったり、キメ顔をしたりしているのだ。


「あい、あい、あいー」

「お、おう」


 最後にマモリが俺の前に立つと、3、2、1と指で合図を出してくれる。そして、パシャリと音がした。


 カメラが見えているわけではいないが、マモリが日記帳で使っている撮影用の能力だろう。


「あい!」

「お、くれるのか?」


 ウィンドウが立ち上がると、マモリからメールに添付した数枚のスクショと動画が送られてくる。


 うんうん。皆楽し気で、いい写真じゃないか。俺も一杯スクショ撮ったし、あとで整理しよう。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 他の精霊ダンジョンって攻略するかな?
[一言] こ、これはまた特大の爆弾が投下された予感…。アリッサさんの悲鳴が街中に響き渡るかもwww
[一言] 数日ぶりにログインした人とかは、水臨樹が2本に増えてて混乱しそうだなw
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