654話 キター!
モンスたちを追ってお屋敷の壁の上を歩いていくと、普通に進めてしまった。不法侵入できちゃいそうなんだけど、絶対にお屋敷の人に怒られるだろう。
その前に、夜中にこんな怪しい動きしているところをNPCに見られたら、それだけで好感度とかに悪い影響が出そうだった。
今のところ警備の人とかが飛んでくる様子はないから、壁の上はオーケーなんだろう。そうじゃなきゃ困るし。
落ちないように気を付けながら歩き続けると、そのまま反対側の大通りに出てしまった。
「普通にショートカットルートだったってことか?」
「ペン!」
「ちょ、ペルカ! 待ってって!」
「ペッペーン!」
「ま、また!」
ようやくみんなに追いついたと思ったのに、ペルカ達がまた走って行ってしまった。大通りを並んで横断すると、そのまま反対側の壁に上り始める。
「まだ終わりじゃないのかよ!」
「ペペン!」
「こうなったら、とことん付き合ってやろうじゃないか! サクラ、いくぞ!」
「――♪」
サクラも笑顔だね。モンスたちにとっては、普通のお散歩感覚なのか? まあ、夜にこんなことするのって、妙にワクワクするけどさ。
再び、密集したお屋敷同士を隔てる壁の上をバランスを取りながら進んでいくと、普通の住宅街が見えてきた。
お屋敷のある区画よりも低くなっているらしく、眼下にはヨーロッパ風のレンガ造りの建物が並んでいる。
なんと、ペルカはそんな民家の屋根の上に跳び乗ったではないか。
「ええ? ふ、不法侵入扱いにならない? 大丈夫なの?」
「ペン!」
「うん? あ、人影けっこうあるな! あっちにも、あっちにも」
「ペペン」
ペルカが指し示す方を見ると、民家の屋根の上には歩いているNPCの姿がポツポツとあり、中には屋根に板を渡して通路っぽくしているところもあった。
ここは、もしかして正規のルート扱いなのだろうか?
まあ、とりあえず捕まったりする恐れはなさそうなので、ちょっと安心した。
そのままモンスたちと進んでいくと、壁をよじ登ったり、高いところから飛び降りたりと、まるでアスレチックかパルクールみたいな道である。
ペルカたちに補助してもらいながら壁を登りきると、目の前に突如として人影が現れていた。
「うわぁぁぁ!」
いや、転移とかじゃなくて、段差の下から急にビョーンと飛び上がってきたのだ。
ようやく景色を見る余裕が出てきて「綺麗な街並みだなー」とか思ってたら、いきなりお爺さんのドアップよ? そりゃあ、悲鳴の一つや二つ出ちゃうって。
突如現れたのは、ビリーさんによく似た、白髪白髭の仙人っぽい外見のお爺さんである。
「おっと、すまんすまん。驚かせたかね」
「お、大きな声出してすみません」
一瞬、白い眉の下から鋭い目がのぞいたので、睨まれたかと思ったぜ。でも、普通に良い人そうだった。
「ええんじゃよ。わしは、わんぱく邸の主、ワンというもんじゃ。よろしくのう」
「え? わんぱく邸?」
「うむ。お主はなかなかの腕白坊主と見た」
ワンさんのこのセリフ、どっかで聞いた覚えあるな~。
「ぜひお主を、儂の店に招待したいんじゃが、どうかね?」
キター!
「あ、はい。よろしくお願いします」
「ほっほっほ。ではついてくると良い」
そうしてワンさんに連れていかれたのは、住宅街の一角であった。なんと、四方が民家に囲まれており、屋根の上からでないとたどり着けないようになっている。
壁の中にある緑の芝生が、秘密基地感があってテンション上がる。
わんぱく邸は、洋風のハンバーガー屋さんだった。アメリカのロードムービーなんかに登場する、ちょっとレトロなダイナーズ風?
非常にオシャレである。
そして、地下に行くと、薄暗いプレイスペースのような場所があり、ダーツやエアホッケー、カードゲームなどで遊べるようになっていた。壁にはボルダリングまである。
腕白っていうか、やんちゃ系な感じかな? 1プレイが短い遊びが多いようだ。
一番目立つのは、ボルダリングと反対側の壁際に並んだ、ゲームの筐体だろう。そこだけまるでゲームセンターだ。
前に立ってみると、遊べるゲームのラインナップが表示される。いくつものゲームが入っており、好きなものを選べるようだ。
往年の伝説的ゲームや、LJOの制作会社が作っている有名格闘ゲームなど、100近いゲームを遊ぶことができる。
さらにさらに、ここでもちゃんとアイテムをゲットすることが可能だった。わんぱくポイントの略であろうWPを溜めることで、交換可能である。
スキルには『せっかち休憩』や『大急ぎ』、『パルクール』など、不思議な名前のものが揃っていた。のんびりとは逆のコンセプトっぽいことは分かる。
「ここでNPCと出会えたら、交換可能アイテムが増えるのか?」
わんぱくテイマーの秘伝書とか?
のんびり庵では、のんびりしていたらNPCが登場した。じゃあ、わんぱく邸だったら、わんぱくな行動がキーになるのか?
とりあえず、わんぱくな感じに動いてみるか。俺はモンスたちと一緒に、いろんなゲームをやりまくってみた。考えるな感じろ的なムーブで、とにかく結果とか勝敗を無視して、ひたすらいろいろなゲームを早く終わらせることを意識しながらプレイし続けたのだ。
エアホッケーとか、せわしなさ過ぎて訳わからなくなったね。
そうしてわんぱくに遊ぶこと15分。
「こんにちは。君は大分わんぱくさんみたいだね!」
キター!




