647話 蜂の王
赤い光に包まれたクママだったが、外見的な変化はなかった。蜂の王なんてスキルを得たんだし、羽や触角が生えたり、お尻が縞々模様になったりする可能性も考えていたのである。
ただ、スキルはしっかりとゲットできていた。
「クママ。蜂の王は使えるか?」
「クマ?」
俺の言葉に、クママがポテリと首を傾げる。やはりアクティブスキルではなく、パッシブスキルであるようだ。
「まあ、ハチミツの高品質化に期待するか」
「クマ!」
クママの様子では、やはり養蜂にいい影響が出るらしい。
ロイヤルゼリーが大量採取とかできるようになったら、とても嬉しいね。現状でも、クママが扱える上限まで養蜂箱を増やしているが、採取できる量は多くないのだ。
クママのことを観察しながら、イワンが唸っている。
「モンスによっては、レアなスキルをゲットできる可能性があるんですね」
「ああ。でも、ステータスが上昇したりはしてないみたいだ」
「あくまでも、ブラッドスキルを1つ選べるだけだと」
「あと、まだ確実じゃないけど、今後覚醒系のアイテムが使えなくなってるかもね」
従魔の覚醒や血統の覚醒は、自分が孵化させたモンスターが対象なのは、間違いないだろう。それなのにファウに対して血統の覚醒を使用できなかったのは、すでに従魔の覚醒を使っていたからだと思う。
謎なのは、ドリモとメルムの差だ。どちらも卵から孵化して、覚醒系のスキルを持っている。なのに、ドリモには血統の覚醒を使えず、メルムには使えた。
内部のデータ的に、ドリモはすでに覚醒アイテムを使った扱いになってる? まあ、ドリモの卵はイベントで入手したものだし、違いがあって当然かね?
「悩みますねぇ」
「まあ、全財産使うほどかって言われるとねぇ」
そんな話をしていると、ファウが大きな声を上げた。
「ヤーヤヤー!」
「敵か?」
「ヤ!」
ファウが指さす方を見ると、ハンマーピッグがこちらに向かってくるのが見える。1体だし、ちょうどいいかな?
「よし、クママの蜂の王を検証してみよう」
あと、ノンビリモノの能力も試そうと思ってたんだ。
「ヒムカ送還! ノンビリモノ召喚!」
「……のん」
よし、やる気のなさそうなナマケモノが現れたぞ。戦闘できんのかね? ダメだったら、他の妖怪にチェンジしよう。
「ノンビリモノ、戦えるか?」
「……のん」
頷いたんだよな? 一応こいつの能力には『のんびりギフト』、『のんびりエネミー』の2つが載っている。
のんびりギフトは仲間に使用するタイプのスキルで、一定時間素早さ減少の代わりに、HPの回復効果があるというスキルだ。HPは一気に回復するのではなく、一定時間かけてゆっくりと回復するらしい。加えて、防御力上昇効果もあるので、盾役に使うのはアリだろう。
のんびりエネミーは、単純に敵の素早さを減少させ、さらに攻撃力も下げる効果があるようだ。バフとデバフ、両方使えるのは頼もしいだろう。
ただ、動きが非常に鈍く、近接戦闘はできそうもないかな?
「え? ええ! なんですかこの子! よ、妖怪?」
おっと、イワンが驚いてるな。そう言えば全く説明してなかった。
「すまん。妖怪のノンビリモノだ。仲間になったばかりだから、能力を試してみたくてさ。イワンだったら、大丈夫だろ?」
イワンのパーティはかなり強いから、ちょっと足手まといがいても、何とかしてくれるはず! 相手はハンマーピッグ1匹だけだしな。
「ヤバそうになるまで、見ててもらえるか?」
「わ、分かりました! 白銀さんの信頼に応えて見せましょう!」
そこまで気負わんでも大丈夫よ?
「お、おう。頼むよ」
「はい! 妖怪も守って見せますし、情報も誰にも言いません! それにしても、ここで初見の妖怪を見つけてるとは……。最近は妖怪の発見ラッシュですね」
「ラッシュ? ということは、こいつ以外にも発見されてるの?」
「第10エリアの未発見だった2体が、浜風によって発見されたんですよ」
「へー、後で早耳猫いってみるか」
「なら、俺と一緒に妖怪探しに行きませんか? 情報はもう買ってあるんですよ」
「ええ? いいの? 情報料半分出すよ?」
「いえ、大丈夫です。今回の血統の覚醒の検証に付き合わせてもらっただけでも、いろいろ得るものがあったんで!」
「そう? じゃあ、お願いしちゃおうかな」
「……のん」
イワンとの会話中、ノンビリモノが微かに鳴いた。そして、その体が薄く光り、それに合わせるようにハンマーピッグも同じく光る。
のんびりエネミーを使用したのだろう。結構距離があっても届くんだな。これはいい情報だ。さらに、素早さの低下率も結構大きいようだった。
ハンマーピッグの走る速度が、目に見えて遅くなったのである。
「遠距離攻撃主体で挑む場合は、かなり有難いかもな」
「……のん」
「よし、次はクママの番だぞ!」
蜂の王によって、何が強化されたのか? それを調べたい。
「まずは毒の爪だ! やれるか?」
「クマー!」
効果がありそうなのが、毒関連、養蜂、芳香、昆虫誘引あたりだろう。特に重要なのが、クママのメインウェポンの1つである毒爪だ。
毒針じゃなきゃダメなのか、毒系のスキルであれば全部効果があるのか? それで、蜂の王が当たりなのか、大当たりなのか変わってくる。
「クーママー!」
「フォゴォ?」
「おお! 一発で毒った! しかも、ダメージも増えてるぞ!」
大当たりだ! 毒確率と威力、両方上昇だ! いや、毒にする確率は、もう少し調べて見なきゃダメだろう。だが、攻撃力が上昇するだけでも十分に強い。
しかも、毒爪の強化はそれだけではなかった。明らかに、毒によるスリップダメージ量が増えていたのだ。
毒にはいくつか段階があるが、最初から上の段階の毒が撃ち込まれているらしい。あり得ないくらいの超強化だった。
「スッゲーなクママ!」
「クマー」
クママがドヤ顔だが、今は許そう。それくらい凄かった。結局、半分くらいはクママが削ったのである。
クママが「撫でろ」って感じで頭をグイグイ突き出してくるので、それもしっかり撫でてやった。
「よしよし」
「クマクマ」
毒爪がこれなら、養蜂がどれくらい強化されるかも楽しみだね!
「白銀さんが驚くくらい、強化されているんですか?」
「ああ、かなりね」
俺が説明してやると、イワンもその強化っぷりに驚いているらしい。
「さ、さすが白銀さん。また凄いのを見つけましたね!」
「でも、イワンだって血統の覚醒を使えば、同じようなヤバいスキルゲットできるかもよ?」
「た、確かに……。でも、事前に分からないのは怖いですねぇ」
「まあ、そうだよな」
とりあえずもう少し検証したいね。で、その後は妖怪探しだな。




