646話 血統の覚醒
ギルド牧場でのんびりイベントを終えた俺は、一度ビステスの外に出ようとしていた。
血統の覚醒と、ノンビリモノの能力を検証してみようと考えたのだ。
テイマーラウンジから外に出ると、同じタイミングでラウンジから出た様子のプレイヤーとぶつかりそうになる。
いや、ハラスメントブロックがあるからぶつかりはしないんだけどさ。急に真横に人が現れたことで、俺も相手も驚いてしまったのだ。
俺以外のプレイヤーの姿が見えないと思ったけど、どうやらラウンジはそれぞれ個別に分けられるらしい。
しかも、相手は知り合いだった。
「あれ? イワンか?」
高校生テイマーのイワンだ。相変わらず、蛇系モンスターのスネイクを体に巻き付かせている。
「白銀さん! お久しぶりですね!」
「ああ。なんか悩んでたみたいだけど、どうしたんだ?」
「いやー、あるアイテムを買うかどうか迷ってて」
その言葉だけでもピンときちゃったよ? イワンにウィンドウのスクショを見せてもらうと案の定だった。そこには、血統の覚醒が表示されていたのだ。
「所持金をほぼ全部使い切っちゃうんですよ。装備品とかを整えるつもりだったんですけど、絶対強いじゃないですか!」
そう言って頭を抱える。みんな考えることは同じか。掲示板に載っていないか調べたが、いまいち要領を得ないらしい。使うモンスで効果が全然変わるアイテムであるそうだ。
「俺、今から町の外に出て血統の覚醒試すつもりなんだ。よかったら、一緒に行かないか? それで良さげだったら、買えばいい」
「え? い、いいんですか? そりゃあ、俺にしたら有難いですけど」
「ああ、その代わり、検証中の護衛を頼むよ」
「そんなことでよければ、是非!」
よしよし、検証中は色々と無防備になるかもしれんからね。護衛ゲットだぜ。それに、いざという時に同じテイマーの考察を聞けるのも大きい。
「じゃ、一度町から出るか」
「はい!」
イワンと共にビステスを出た俺たちは、門から少し離れた場所で足を止めた。最初は門の前で検証を行おうかと思ったんだけど、イワンが移動した方がいいと忠告してくれたのだ。
確かに、門の前じゃ邪魔になるかもしれない。そこで、あまり人がいない場所を探して移動していた。
「それじゃ、血統の覚醒を使ってみよう」
「はい! 楽しみですね!」
興味あるのは分かるけど、君が俺の手元を覗き込むとスネイク君も一緒に覗き込むから! 蛇差別する訳じゃないけど、デカい毒蛇の頭が真横にあるのはちょっと怖い。
「え、えーっと、使用可能なのは……。クママとメルムだけか」
従魔の覚醒の時は、クママとファウだけだったが、こちらはファウを選べない。従魔の覚醒とは選べるモンスが違う? それとも、従魔の覚醒を使ったから、もうファウは選べない?
とりあえず、卵から孵化した子が対象かな? 血統って単語から考えるに、親から受け継いだ血が関係してるんだろう。
ペルカは特殊な孵化の仕方だったから、入ってないんだろうな。
推測を語って聞かせると、イワンが何度も頷きながら俺を褒めちぎった。
「さすが白銀さん! 絶対それであってますよ!」
「そ、そう思う?」
「はい! あっという間にそんな推測に辿り着くなんて、凄いです!」
「い、いや、簡単な推測だから」
ファンなのかってくらい、褒めてくれるな。多分、情報を貰い過ぎだと思う後ろめたい気持ちが、ちょっとあるんだろうな。で、無意識に俺を持ち上げているんじゃなかろうか? なんか、逆に悪いことしたかね?
まあ、ここまで来て帰れっていうのは鬼畜過ぎるし、このまま気づかないふりをして進めてしまおう。
メルムが強くなるのもありだが……。とりあえずメルムを選択してみると、リストが表示された。
「ほうほう。スキルのリストか」
「このスキルから選んで習得できるんですか?」
「シャシャー?」
「1つ選べって書いてる。でも、どんな理屈で表示されてるんだろうな?」
メルムが習得可能なスキルは、糸紡ぎ、採取、栽培、機織り、風魔術、防風、裁縫、染色、吸収、幻術、樹木殺し、精霊殺し、悪魔殺し、精神耐性、槍術、魔力探知、急所看破と、かなりの量がある。これは、親であるアイネ、リリスの所持スキルに似ていた。
どうやら親から遺伝する可能性のあるブラッドスキルから、1つ選んで習得するアイテムであるようだ。
選ぶとすれば風魔術だろうが、闇魔術もあるしな。クママの方はどうだろう?
クママのリストも確認してみる。
咆哮、我慢、痛恨、昆虫殺し、採取、採蜜、園芸、巣作り、蜂の王と、メルムよりもかなり少ない。ただ、いくつか気になるスキルがあった。
我慢は一定時間攻撃できなくなる代わりに、防御力が倍加するスキル。採蜜は、蜜系のアイテムの採取数増加。園芸は栽培に似ているが、どう違うのかいまいち分からん。
で、一番気になっている蜂の王だが、これが俺もイワンも初見のスキルだった。イワンが調べてくれたが、掲示板にも載っていないらしい。
実は超レアなスキルだったようだ。スキルの効果は、蜂の王としての力を得るという、少し分かりづらい物だった。
ただ、似たスキルで犬の王というスキルが掲示板で検証されている。咆哮や牙などの犬っぽい感じのスキルが強化され、犬系の敵相手に攻撃力、防御力が上昇するというスキルだ。
「つまり、蜂系統のスキルが強くなる? 毒針とか、養蜂か?」
「あとは、飛行とか巣作りもじゃないですかね?」
「うーむ、養蜂が強化されてロイヤルゼリーがたくさん採れるようになるだけでも十分有難いな」
上手くいけば毒爪なども強くなるかもしれん。それに、レアスキルなら、ここで手に入れなければ二度とゲットするチャンスはこないかもしれないのだ。
「よし! ここはクママにしておこうかな」
「クマ?」
遊んでいたクママが、「呼んだ?」って感じでこちらを振り向く。
「こっちきてくれ」
「クマ!」
ポテポテと歩いてきたクママにアイテムを見せながら、アイテムの説明をする。
「どうだ? この蜂の王ってスキルを覚えてもらおうと思ってるんだが?」
「クックマ!」
「お、やる気だねぇ」
「クマクマ」
腕を組んで、ドヤ顔で頷くクママ。それでいいってことなんだろう。
「それじゃあ、クママに血統の覚醒を使用!」
「クーママー!」




