638話 城塞都市ビステス
3次職であるキャプテンテイマーに転職したことで、第11エリアの攻略も進むかと思ったんだが……。
「そう簡単にはいかないか」
多少楽にはなったけど、攻略が楽勝というほどではなかった。普通にハンマーピッグ3匹以上の場合、死にかけるし。それ以外のモンスターにも殺されかけるし。
リスの上位種による狙撃とか、どう躱せって言うんだ! 猿はトリッキーだし! スライムは気配ないし!
「ここで楽勝だったら、他のエリアにもいってみようと思ってたんだがなぁ。これじゃ、無理っぽいな」
ここ5日で、第11エリアは全て解放されている。やっぱり、ヒントがあればトッププレイヤーたちなら簡単に見つけてしまうらしい。
レイドボス戦の動画も観たけど、メッチャ派手だったのだ。それに、村でしっかりと聞き込みをして準備をしたらしく、罠などをしっかりと活用できていた。
因みに、ホランドとヒューイは解放レイドボス戦皆勤賞である。毎回、攻略を狙う発見者に誘われて、レイドに参加していたのだ。誘った人たちの気持ちは分かるけどね。頼もしさがハンパないし。
俺たちが解放した西の第11エリアに獣人の村があったように、他の3エリアにもそれぞれ種族固定の村が存在していた。
東の山地にはドワーフ。北の雪原にはヒューマン。南の熱帯雨林にはエルフと、特にメジャーな4種族だけが住む村と、その種族に転生できる神像があるのだ。
ヒューマンとか必要なのかと思ったが、獣人やエルフからヒューマンになりたいって人も結構いるらしい。プレイスタイルに種族が合わないって場合もあるんだろう。
俺のハーフリングみたいなマイナー種族の村は、まだ発見されていない。第11エリアのどこかにあるのか、先のエリアなのかも分かっていなかった。
「とりあえず、都には行っておこう」
「ニュー!」
「メルム、おまえ結構ピンチだったんだからな? 前に出過ぎるなよ?」
「ニュ?」
「なんでそんな不思議そうな顔なんだよ!」
メルムはその可愛らしいモチモチの外見とは裏腹に、意外に好戦的な性格だ。前に出たがりなんだよね。
その後、俺は敵の少ない街道沿いを進み、なんとか森を踏破した。森の中を切り拓いて通された道を抜けると、驚くほど巨大な壁が見えてくる。
ここが第11エリアの中心地。城塞都市ビステスだった。名前は、獣人のビーストから取っているんだろう。
入り口を通って中に入ると、そこには重厚な石造りの街並みが続いていた。今までの都市に比べて華やかさには欠けるが、その分非常にリアルな感じがする。
「革や骨製品、食品系の店が多いって話だったよな」
ドワーフの都市が金属製品。エルフの町が木工と薬品。ヒューマンが錬金術と布製品に強いという。
革製品は軽くて丈夫だし、いいアイテムが手に入るといいね。うちは皮革要員が俺しかいないから、いい革製品を自作できないし。
「まずは町を歩き回ってみるか」
「ニュ!」
「トリリ!」
メルムとオレアは町に出る経験が少ないから、メチャクチャワクワクしているようだ。キラキラした目で町を見つめている。
俺も、アリッサさんからは町の特色までしか聞いていないので、メルムたちと一緒に楽しみたいね。
いや、最初は詳しい情報を買おうと思ったんだよ? でもアリッサさんから「ユート君は情報を買わない方がいいと思うな~。ほら、新鮮味がなくなっちゃうし? 何も知らない状態で歩き回った方がいいと思うの。ね? ね?」と強めに言われて、情報を買わなかったのだ。
確かにアリッサさんが言う通り、情報がない方が楽しそうだしね。
大きな石が敷き詰められた灰色の道を歩いていくと、左右には様々な店が並んでいる。この大通りがビステスのメインストリートなのだろうし、基本的にはこの場所で大抵の物が揃いそうだ。
面白いのは、剣だけの店や斧だけの店など、かなり細分化されていることだろう。
「ニュ?」
「お? 装飾品の店が気になるのか?」
「ニュ!」
俺の肩の上に乗っていたメルムが、ニューッと体を伸ばして、ある店舗を覗き込んでいる。窓から中を見ると、様々な装飾品を売っているようだ。
メルムは装備品がなかったので、一応色々と試してみた。だが、当然ながら武器防具は装備不可だったし、スカーフや腕輪、指輪などの装飾品も装備できなかったのである。
てっきり、装備を身に着けることができないのだと思っていたんだが……。
俺は、メルムが興味を示した店に入ってみることにした。中では、骨と革、貝や石で作った装飾品が売られている。自然由来の素材って感じなのだろう。
「メルム、欲しいものはあるか?」
「ニュ!」
「これか?」
「ニュー」
メルムが指し示したのは、一つのペンダントであった。細長い革を編み込んだ紐に、骨を削って作ったペンダントトップが付けられている。
名称:大鹿のペンダント
レア度:4 品質:★7 耐久:480
効果:防御力+7、跳躍スキルに微ボーナス
重量:1
非常に綺麗ではあるが、効果は微妙だ。そもそも、浮遊可能なメルムにとって、跳躍にボーナスは完全に要らない効果だしな。
「というか? 装備できるのか?」
「ニュ!」
装備可能であるらしい。このお店の装飾品なら、装備可能なのか?
「だったら、こっちとかの方がメルムに合うと思うけど」
俺が手に取ったのは、ペンダントトップに赤い宝石がはめ込まれたものである。防御力も+20されるし、HP自然回復力が僅かに上昇する効果も強い。
しかし、メルムは首を――いや、体を横に振って俺の意見を却下した。
「これのデザインが嫌なのか?」
「ニュ」
「違う? じゃあ、装備できない?」
「ニュー」
「宝石が付いてるとダメ?」
「ニュ!」
どうやら、宝石がアウトだったらしい。石や鉄などもアウトで、骨、革、貝など、生物由来の素材なら装備可能だった。
それでも、武器は駄目っぽいけど。あと、布も駄目であった。生物由来のはずなんだが、形状的に無理なのかもしれないな。
「じゃあ、今日はこの大鹿のペンダントを買っておこう」
「ニュー!」
いずれ、もっと強い装備品を用意してやればいいさ。皮革と彫刻があれば、自作できるだろうし。
因みに、メルムの装備方法は、ペンダントを完全に飲み込んで体内に取り込むという感じだった。完全に見えなくなってしまったし、メルムの装備は装飾にこだわる必要はないかもね。




