637話 キャプテン
第11エリアは、俺の想像以上の場所だった。まずは素材。今までのエリアに比べ、種類がかなり豊富である。
管理がかなり難しくなりそうだが、生産の幅が広がるだろう。アリッサさんも言っていたが、第10エリアまでは初心者用のエリアで、ここからが中級者というか、本当のゲーム開始ってことであるらしい。エリア解放の速度も、一気に落ちるだろうな。
「品質にばらつきはあるけど、中薬草が大量だ」
「ムム!」
「おお、見たことない草だぞ!」
「ム!」
オルトが見つけたのは、青い葉っぱの美しい草だった。形状は露草っぽいかな?
潤い草というらしい。名前の通り、表面がしっとりとしている。明らかに水属性の素材だろう。
「これ、育てられるか?」
「ム!」
「おお! 久々の新作物だな!」
「トリ!」
さすが新エリア。いきなり大発見だ。これで調子に乗った俺たちは、さらにズンズン遠くへと進んでいった。
潤い草以外にも、乾き草や中毒消し草など、新作物が幾つも手に入った。もう、ウハウハだね! 笑いが止まらん!
「うはははは! もっと新しい作物を――」
「ムッムー!」
「トリリー!」
オルトとオレアと一緒になって、高笑いしながら採取をしまくる。
「キュ!」
だが、俺たちが笑っていられたのはそこまでであった。俺の頭の上にいたリックが緊迫感のある鳴き声を上げると、モンスたちが一斉に身構える。地面に華麗に降り立ったリックは、右手の方向を睨んだ。
「て、敵か?」
「キュー」
頷いてほしくなかった! しかも、この様子では簡単な相手じゃないんだろう。待つこと数秒。相手が姿を現す。
「げぇぇ! 3匹も!」
「フォゴォォォォ!」
相手自体は、すでに何度も戦っているハンマーピッグだ。しかし、3匹も同時に出たのは初めてだった。
「オ、オルト! メルム! 頼む!」
「ムムー!」
オルトが皆を庇うように前に出る。だが、すぐに後衛へと後退させられていた。なんと、ハンマーピッグたちが連携して、連続攻撃を仕掛けてきたのだ。
1匹目、2匹目の突進でオルトの体勢を崩し、3匹目のヒップアタックでボイーンと吹き飛ばされてしまった。
ヒップアタックによるダメージは少ないが、タンクが後列に下がってしまうのはかなりマズいだろう。
偶然、上手いタイミングで攻撃が集中したというわけではなく、明らかに計算された動きであった。
そもそも、攻撃を仕掛けてくる前に、3匹を青いエフェクトが包んでいたし。ハンマーピッグが3匹集まると、特殊な連携攻撃を使うようになるらしい。
ただ、連携攻撃後に、相手の動きが少し止まった。3匹全員だ。
「今のうちに攻撃だ! 尻に一発ぶち込んでやれ!」
「トリリー!」
「モグモー!」
こちらに尻を向けたままの1匹に攻撃を集中させるが、倒しきることはできない。それどころか、3体のハンマーピッグたちが赤いオーラのような物を纏い始める。
ボスでもないのに、狂化したらしい。しかも、1匹にしか攻撃していないのに、3匹が同時にだ。ズルくね?
「ニュニュー!」
「メルムー!」
打撃に強いはずのメルムが、1発で瀕死だ!
その後、何とかメルムやオルトを回復しつつ、ハンマーピッグを1匹倒す。すると、残り2匹を包んでいた赤い光は消え去り、戦闘力が大きく下がっていた。
3匹集まると、特殊な技や効果を得るようになるらしい。ドロップにも変化がある。今までは鉄槌豚の肉とかだったのが、三連豚の肉に変化しているのだ。
あれか? 3匹の子ブタ的なことなのだろうか? もしくは、三連星? ともかく、3匹の時は注意が必要そうだった。
というか、さらに森を進んでいくと、3匹どころか4匹、5匹とヤバい数で群れている。この場合、三連豚+ハンマーピッグという扱いになるらしい。三連豚の崩し後に攻撃を仕掛けられるので、かなり危険だ。
数度の逃走の末、俺は決断を下していた。
「このまま無理をしても、そのうち全滅するだろう。戻るぞ」
「ム……」
結局、俺は敵が大量に出現する森の探索はそこそこで切り上げ、街道を歩くことにした。敵が出現しないわけではないが、俺たちでも対処できる数しか出ない。
そんな中、待ちに待ったレベルアップの瞬間が訪れる。誰のって? 俺のだよ!
世のトッププレイヤーたちがそろそろ4次職かと騒ぐ中、実はまだ2次職だったんだよね。レベル的にはもう転職可能なのだが、あえて転職をせずにおいたのだ。
その理由がコマンダーテイマーLv40で習得するスキル、『器用な指』であった。所持しているだけで、戦闘時を除いて配下のテイムモンスターの器用に微ボーナスが付くというスキルである。
普通ならそれほど欲しいスキルじゃない。器用が上昇すると言っても、本当に少しだけらしいし。だが、生産メインのうちの場合、かなり有用だった。
アリッサさんから情報を仕入れて以来、ずっと取得を待ちわびていたのだ。
結果、職業レベル30で転職可能なところ、40まで引っ張ってきたのである。
「よっしゃ! これで転職できる!」
だが、ここで転職先のリストを眺めている余裕はない。いつモンスターが出現するか分らんし。そのため、俺は少々強行軍で最も近いセーフティエリアへと急いだ。
焦るあまり、前に出過ぎて死にかけたのはすまんかった。オルトが助けてくれなかったらヤバかったね。でも、それくらい転職がしたかったのである。
セーフティエリアに駆け込んだ俺は、即座にウィンドウを開いてリストを確認した。
「よしよし、キャプテンテイマーが出てるな」
コマンダーテイマーの上位職、キャプテンテイマーがリストに表示されている。他の職業は、エレメンタルテイマーやビーストテイマーといった、見たことがある職業ばかりだ。
やはり、ここはキャプテンであろう。盾を投げて自ら戦いそうな名前だが、相変わらず雑魚であるらしい。本人の成長度は低い代わりに、モンスに頑張ってもらう職業のままであるのだろう。
だが、俺が弱いのなんか、今更だ。
「よし、転職するぞ!」
「ムムー!」
「ニュー!」
「キャプテンテイマーを選択!」
当然ながら、外見的な変化はない。だが、目当てのスキルが無事入手できていた。
「編成従魔+2、ゲットだぜ!」
「モグモ!」
「トリ!」
本人がクソ雑魚なのは変わらないが、さらに連れて歩ける従魔が増えたのだ。
「リリス召喚!」
「デービー!」
成功だ。目の前に現れたリリスが、槍を突き上げてやる気アピールをしている。これで、俺が連れ歩けるモンスは7体。第11エリアの攻略も少しは捗るだろう。
「よし! もう1度森へ突入だ!」
「デビ!」




