636話 メルムの強さ
「さて、久々にやってきました第11エリア」
「ニュー」
生産を満足するまで――というか、飽きを通り越して無我の境地に入るまでやり尽くした俺は、久々にフィールドに出ていた。
しばらくポプリは見たくない。鼻、鈍ってる気がするんだけど、気のせいか?
そんな俺がやってきたのは、第11エリアの獣人村である。
今日こそは本格的に第11エリアを攻略し、あわよくば木々の向こうに見えた都市にまでいくつもりだ。
詳しいことは聞いていないが、都市はかなり栄えているらしい。今からどんな場所なのか楽しみだ。
また、並行してメルムのレベリングもしたいと思っている。内なる声が「お前みたいな雑魚が、最前線でレべリングだと? 調子乗んな!」って言ってるけど、これができたら一番効率がいいからね。
「じゃあ、いくぞ! オルトは俺とメルムを守ってくれよ?」
「ムム!」
「ドリモとオレアも、メルムのレベリングのために頑張ってくれ」
「モグモ!」
「トリー!」
気合を入れるように、それぞれの武器を突き上げるドリモたち。久々の探索に気合が入っているようだ。
「リックとキャロも、メルムのことを気にしてやってな」
「キキュ!」
「ヒヒン!」
みんなやる気満々である。ただ、まずは獣神様の像にお参りだ。村を抜け、細道の先の広場へと向かう。
そこには、以前と同じように、さまざまな動物の特徴を持った獣神の像が佇んでいた。試練を達成できていないので、近づいても特に変化はない。
レア度6以上のモンスター素材を3つ捧げないといけないんだが、第11エリアのモンスターのレアドロップで稀に手に入ることがあるらしい。気長にこれを狙って行けばいいだろう。
「ヒヒン」
「モグモ」
「キキュー」
うちの動物系モンスたちも、一緒に祈りを捧げる。いたずら小僧のリックですら、俺の頭の上で大人しく両手を合わせて拝んでいるのだ。
毎回そうなんだよね。これを見て、水臨大樹の精霊様のところに連れて行ったときのサクラみたいに、ちょっとは好感度上昇効果があったりしないかと思っている。
「……リック、そろそろいいか?」
「キュ?」
お前が上に載ってると、頭上げらんないから!
お祈りが終わったら、いよいよ出撃だ。
「まずは村の周辺を探索するぞ!」
「ニュー!」
「ああ、メルムはあまり前に出ちゃダメだからな?」
「ニュ?」
タンク系の能力があるせいか、メルムは意外と前に出たがりだった。気を付けてないと、あっさり死んじまうかもしれん。
俺がメルムを肩に乗せて、あまり動くなと言い聞かせていると、リックたちが警戒の声を上げた。
「キキュ!」
「ヒン!」
その直後、茂みを掻き分けてモンスターが姿を現した。
「いきなりでたな!」
「フォゴゴ!」
登場したのは、ハンマーピッグという巨大な豚だ。その名前の通り、鼻がハンマーのような形状になっている黒い豚である。その一撃は、後衛が食らえば即死もあり得るというのだから、恐ろしい。
防御力も意外に高く、この森では厄介なモンスターの1つであるそうだ。今回は1匹だったが、複数で襲われるとかなり危険だろう。
まあ、俺たちにとっては、戦いやすい相手なんだけどね。なんせ、こいつらの攻撃は、鼻ハンマー、ヒップアタック、前足での圧し掛かりと、全てが打撃属性ばかりだ。
打撃に対して高い耐性を持つメルムなら、低レベルであっても安心して戦いに投入できるのである。まあ、前衛には出さんけど。
「戦闘開始だ!」
「フォゴゴッゴォ!」
俺の声に反応したのか、ハンマーピッグが動き出す。一歩目から凄まじい速度で、突進をしてきた。
「ちょ、いきなり俺狙い?」
「ムム!」
「ニュー!」
「メ、メルム? なんでそこにいるの!」
オルトだけではなく、メルムまで前に出たぁ! いくら打撃耐性があるって言っても、まだレベル4だぞ?
俺がメルムでも安心して戦えるって考えてたのは、あくまでも後方で控えている場合だ。万が一掠ったとしても、なんとか死なずに済むって意味である。
前になんか出たら……!
「ムムムー!」
「ニューニュ!」
「おぉ?」
意外と、大丈夫? むしろ、ハンマーピッグが弾き飛ばされたんだけど!
オルトと力を合わせたからこその結果だろうが、メルムのHPは半分も減っていない。しかも、ハンマーピッグは暗闇状態に陥っていた。
目の周辺に黒い靄のようなエフェクトが発生し、明らかにこちらを認識できていないようだ。メルムは、俺の想像以上に打撃耐性が高かったらしい。
「よくやったぞ! オルト、メルム! みんな、総攻撃だ!」
「モグモー!」
「トリリ!」
出番だぜーとばかりに飛び出していったドリモたちの攻撃がハンマーピッグの頭部にガンガン突き刺さる。
結局、最初の一撃以外、まともなダメージを貰わずに勝ててしまった。メルム、メッチャ強くね?
「よっしゃ! このままガンガン進むぞ!」
「ニュニュー!」




