633話 愛でたい一日
縁側で新たな仲間であるメルムとワチャワチャした後、俺はお茶を飲みながらウィンドウを開いていた。
早耳猫から渡された目録をチェックしているのだ。
以前もあったけど、報酬がお金では支払い切れないってことで、目録から好きなアイテムを貰う形になったのである。
そりゃあ、億超えともなれば、中々支払えんよなぁ。10人以上で割るから、1人1人はさほどでもないんだけどね。
俺は発見者だということで少し多めに貰うことになったので、4000万くらいだった。プレイヤーの頭割りでいいって言ったんだけど、皆がそれじゃダメだって言うからさ。
「相変わらず色々あるね」
「ヤ?」
「ニュニュ!」
「おまえらも一緒に見るか?」
「ヤー!」
「ニュー!」
肩に乗ってそこからウィンドウを覗き込むメルムと、俺の頭の上に寝そべるファウと一緒に、目録をチェックしていく。
以前見た物も多いけど、色々面白いアイテムが増えているな。
そんな中で俺が目を付けたのは、幾つかのスキルスクロールだった。内容は、トスジャグリングやリフティングといった、特別な効果のない面白スキルたちである。趣味系スキルとか、ホビースキルと言われる種類だね。
このゲーム、単純に戦闘や生産をするだけではなく、無駄というか、攻略に関係ないようなスキルも結構あった。
リアルで行うのが難しい趣味やお遊びを、ゲーム内で気軽に究めることが可能なのだ。ジャグリングとかをリアルじゃ諦めたって人も、スキルを覚えれば簡単に習得できるのである。
ゲームをやる上で必要もないんだが、気になってたんだよね。リフティングとか、リアルじゃ5回くらいしかできないけど、ゲーム内でスキルを使えばフリースタイルリフティングみたいなこともできるだろう。
ちょっと面白そうなのだ。
「ニュ?」
「これか? 声帯模写って書いてあるから、声真似ができるスキルだろうな」
メルムの不定形の体は意外に器用で、ニューっと触手のようなものを伸ばして、ウィンドウを指し示すことも可能だった。
「ヤ?」
「それは口キャッチか? マシュマロキャッチが絶対成功するようになるスキル? スッゲーニッチなスキルもあるんだな」
多分、誰かがランダムスキルスクロールで手に入れちゃったんだろう。ご愁傷様。
早耳猫の目録には、かなりの数の趣味系スキルのスクロールがあったんだが、とりあえずその中から、口キャッチを選んでおいた。
いや、俺はリストを眺めてただけで、本気で選ぶつもりはなかったんだけどさ。2人がどうしてもってねだるから。
それ以外でゲットしたのが、ホームオブジェクトの数々だ。これも、いつの間にか集まってきていたモンスたちが選んだやつである。
肩に担いだ瓶から水が流れ落ちる女神の彫像とか、ノームたちが組体操をしているブロンズ像とか、どこに吊るしたらいいのか分からないシャンデリアとか、ねだられるままに購入してしまった。
で、最後にゲットを決めたのが、ホームエリア追加チケット・洋間というやつだ。その名の通り、ホームに新たなエリアが加えられるというアイテムである。
小さな洋間がホームに追加されるというアイテムだけど、完全にシャンデリアのためにゲットすることになってしまった。なんか使い道を考えないとな。
俺は早速アリッサさんに連絡を入れた。ただ、コールに出ないな? 少し待っていると、ようやく折り返しがあった。
『ユートくん! なに?』
「目録で何を貰うか決めたんですけど」
『もう? 早くない? 分かったわ。でも、いま私は手を離せないから、ルインに頼んでくれない? 倉庫からアイテム出す権限はルインも持ってるから!』
「わ、分かりました」
どうやらメチャクチャ忙しいらしい。超早口だった。いや、俺たちのせいだろうか? 我ながら、いい情報売ったからね!
その後、ルインに連絡を取ってアイテムを用意してもらい、早速それを受け取ってきた。色々とアイテムがあるけど、まずはこいつだ!
「ホームエリア追加チケット~!」
「ムムー!」
「――♪」
旧ドラちゃんのモノマネをする俺に、大きな拍手をしてくれるオルトとサクラ。気遣いのできる従魔を持てて、俺は幸せ者だ!
使用すると、ちゃんと追加したい場所に扉が出現した。面白いのは、外からは全く変化がないように見えることだろう。
その後、色々なオブジェクトを合いそうな場所へと設置していく。正直、シャンデリアは小さい洋間には不釣り合いな気もするが、アイネが大喜びだからいいのだ。
「フママー!」
シャンデリアにぶつかりそうになりながら、洋間を飛び回っている。
「じゃあ次は、スキルスクロールを使っちゃうか」
口キャッチって……。とりあえず、クッキーを投げてみる。うん、上手くキャッチできるな。アシストというよりは、クッキーがちょっとカーブして口に入ってきた感じか?
「ニュー!」
「ムムー!」
「クックマー!」
全く意味がないスキルだけど、モンスたちは喜んでるみたいだし、いいか。色々と口でキャッチして遊んでいると、ドリモとオレアの姿が見えないことに気付いた。
「またあそこかな?」
そう思って居間を覗くと、案の定である。ドリモたちが並んで孵卵器を覗き込んでいる。自分たちの卵を見守っているのだ。
俺は、先日のことを思い出す。
メルムが生まれる、少し前のことだった。皆と遊んでいる俺の下に、慌てた様子のドリモとオレアが飛び込んできたのだ。
「モグモー!」
「トリー!」
「どうした2人して?」
「モグ!」
「え? こっちこいって?」
「トリリ!」
どうやら、俺を畑に連れて行きたいようだ。何か緊急事態か? 2人について畑へと向かうと、そこには驚きの物があった。なるほど、俺を慌てて呼びに来るはずだ。
「卵! 久しぶりだな!」
鑑定すると、ドリモとオレアの間に生まれた卵である。また卵とは! 縁起がいいぞ!
「モグ」
「トリ」
「分かった分かった! ちゃんと孵卵器に入れるから!」
その後、メルムが生まれたりして、本当に目出度い一日となったね。
次回更新は11/10の予定です。
レビューをいただきました。ありがとうございます。
みんな大好き「うみゃー!」と掲示板ってことですねwww
何周もしてくださっているだなんて、とても嬉しいです。
今後とも拙作をよろしくお願いいたします。




