632話 メルム
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「昨日は大変だったなぁ」
「ムムー」
ボス戦から一夜明け、俺はホームで寛いでいた。昨日はずっと必死だったし、ドリモとオレアの卵のために孵卵器ゲットしに行ったり、ずっと動いていたのだ。
ちょっとくらいダラダラしてていいよな?
新エリアに関しては、ジークフリードとレーとアカリがパーティ組んで探索中だって言ってたから、あとで少し情報を聞くつもりだ。
それまでは縁側で日向ぼっこをしながら、モンスたちとのんびりタイムである。
そもそも、試練を発生させた後も結構大変だった。
村を軽く回って店の品揃えを調べたんだが、これがとんでもなかったのである。なんと、魚、野菜、肉類などがそれぞれ数十種類あり、第1~10エリアで得られる食材のほとんどが購入できてしまうのだ。
他には薬草や木材に鉱石、モンスター素材を販売する店まであり、レアドロップ以外は購入できた。
生産者にとっては、まさに夢の村と言えるだろう。
俺にとって? そりゃあ、当然買っちゃうよね。
絶対に使わないモンスター素材とかも、持っていない奴はコンプリートしてしまったのだ。あそこ、ヤバイ。
そのおかげで、一週間は籠って生産を続けられるくらいの素材はゲットできたから、明日からは生産三昧が送れるだろう。
戦闘だって最近は少し楽しくなってきたけど、やっぱり俺は生産が好きだね! 実験みたいだし、スキルレベルも上がるしさ。
「この際だから、裁縫とか皮革スキルも取っちゃおうかな」
「フマー!」
「お、アイネも賛成か?」
「フマ!」
アイネと一緒に服作りとかも楽しそうだ。
「ヒム! ヒムー!」
「おわっ! ちょ、ヒムカ?」
「ヒム!」
「分かった分かった! 鍛冶もちゃんと取るから!」
鉱石もかなり買ってきたから、鍛冶に勤しむのもいいだろう。細工や彫刻でアクセサリーを作るつもりだったけど、食器や防具でもいい。
「フム!」
「ルフレは別に飛びついてこなくてもいいだろ! 料理は毎日一緒にやってるんだし!」
「フムー!」
「今日だって、朝から魚料理を作りまくって全部食べたじゃんか」
「フム?」
単に楽しそうだったから、便乗しただけか。
「ラランラ~♪」
「――♪」
「モグモー」
ファウののんびりした歌声が気持ちいいね。サクラとドリモの大人コンビが、歌に聞き惚れながら揺れている。これ、即売会で買ったニャムンちゃんの曲か?
「クックマー!」
「キキュー!」
「ヒヒン!」
庭ではクママ、リック、キャロが追いかけっこをしている。さらに、オレア、ペルカが加わった。というか、妖怪たちも集まってきたな。スネコスリを先頭に、クママたちの追いかけっこに突進していく。
ワッチャワチャだね!
「ポコ」
「ウアー」
「お、サンキューチャガマ。幽鬼もボス戦では頑張ってくれてありがとうな」
「ウア!」
そっとお茶を出してくれたチャガマと、その横にいる幽鬼の頭を撫でる。戦闘中は怖い幽鬼も、普段は大人しくて可愛いよね。
チャガマの範囲回復と、幽鬼の挑発は地味に役に立ったのだ。今はまだ妖怪召喚のレベルが低いから同時に1体しか喚べないけど、複数体妖怪を召喚できるようになったら戦略の幅が広がりそうだった。
「おいおい、なんか凄いことになってるな」
「ムー」
モンス、妖怪に、マスコットたちまで加わったぞ? 小さいマスコットたちが踏みつぶされないかハラハラする! のんびりって感じじゃなくなってきたな。
そんな中、リリスが家の中からこちらへ飛んでくるのが見えた。そして、減速せずに突っ込んでくる。
「どわぁぁ!」
「デビ!」
「ど、どうしたリリス?」
「デビビ! デービー!」
メッチャ焦ってるんだけど……。リリスに引っ張られるがままに立ち上がる。というか、この焦りようって、もしかして……!
「デビ!」
「やっぱ卵か!」
リリスが俺を連れて行ったのは、居間であった。そこに置いてある覚醒孵卵器を覗くと、中の卵にヒビが入っていた。ログアウト中に孵化が始まったのだろう。
「フマー!」
「デビ!」
「フマフマ!」
「デビー!」
アイネが凄まじい速度でやってきて、リリスと何やらやり取りをしている。そして、2人で孵卵器にベタッと貼り付くと、のぞき窓から卵を覗き込み始めた。
2人の大声を聞いて、孵化が近いということを他のモンスたちも知ったのだろう。庭で遊んでいたみんなが、居間へと押し寄せていた。
家に入れるサイズの子たちは、全員集まっているんじゃないか? モンス、妖怪、マスコットで、小さな部屋はギュウギュウ詰めだ。
「え? このまま待つ気か?」
「ム」
「――」
生まれるまで見守るつもりであるらしい。まあ、今日はホームでのんびりするつもりだったから、時間はあるんだけどさ……。いや、この状況で、俺だけ出てくわけにもいかないじゃん?
結局、孵化するまで30分以上、みなで息を殺したまま孵卵器を見守ってしまったのであった。
そして、ついに卵が光を放ち始める。
「生まれるぞ! みんな! 目を塞ぐんだ!」
「クマー」
「キキュー」
よしよし、うちのお馬鹿コンビが目を塞いでるんだから、今回は被害はないだろう。
「ペギャー!!」
ペルカよ! お前もか! 狭い場所でジタバタ暴れるんじゃない! まあ、ペルカは隣にいるオレアに任せておいて、俺は生まれた子をお出迎えだ!
「ニュー」
「えーっと、なんの種族だ……?」
そこにいたのは、宙に浮く黒い塊だった。漫画チックな目と口があるが、種族はなんだ? 一見すると、黒いスライムにも見える。でも、リリスとアイネの子が、スライムにはならんよな? 浮いてるし。
ステータスを確認してみると、種族の項目には闇精という表記があった。しかも、名前が決まっているということは、ユニーク個体である。
「闇の精霊ってことか!」
「ニュー」
名前:メルム 種族:闇精 基礎Lv1
契約者:ユート
HP:18/18 MP:36/36
腕力:5 体力:5 敏捷:5
器用:6 知力:12 精神:12
スキル:隠密、精神耐性、弾力、風魂覚醒、浮遊、不定形、闇吸収、闇魔術、闇守、養蚕
装備:なし
覚醒孵卵器で育ったおかげなのか、風魂覚醒スキルがあるぞ! 闇精なのに風魂なのは、アイネの属性を受け継いだってことなんだろう。
親から受け継いだ力が覚醒するって意味みたいだしね。
養蚕もアイネからかな? リリスから受け継いだのは、精神耐性っぽいな。
「ニュー」
「うん。今までいなかったタイプだけど、可愛いじゃないか! 触り心地も気持ちいいし」
「ニュニュ」
ベタ付く感じは一切なく、サラサラプニプニだ。割れない水風船的な? ともかく、触っているだけでメチャクチャ気持ちいい!
「デビー!」
「フマー!」
「ニュー!」
手を繋いでいるのか? リリスとアイネが、メルムからチョコンと突き出した角のような部分を掴んで、左右から持ち上げて高い高いをしている。
あまり感情は読み取れないけど、声は楽しそうに聞こえるのだ。
「これからよろしくな、メルム!」
「ニュー!」
明日ワクチン接種予定ですので、次回更新がいつになるかハッキリとは申し上げられません。
ただ、1週間以内に更新できればとは考えております。




