番外 another ending 2
これは、マズイんじゃないか?
そう思った瞬間、勝手に体が動いていた。
「ごめんな!」
「えっ?」
突き飛ばすことになる子供に謝りつつ、オープンカーの方を見る。運転席の男は相変わらず馬鹿笑いを上げながら、こちらを見てはいなかった。
はい、ながら運転ですねー。楽しそうに笑っていますねー。でもこっちは全然楽しくないんだよこのクソ野郎!
ダメだ。どうやっても車は回避できん!
あー、これは死ぬな……。
そう覚悟を決めた俺に向かって、赤い車体が突っ込んで――。
「ムムー!」
ドガシャン!
凄い破砕音が響いたのに、衝撃は一切感じない。というか、今の声って……?
「うん?」
「ムー!」
まただ! え? なんでオルトの声が? 死ぬ間際に聞いた幻聴?
慌てて振り返ると、そこにはあり得ない光景が広がっていた。
突っ込んできていたオープンカーが、急カーブでもしたかのように道を逸れ、電信柱に突っ込んでしまっている。バンパーが砕け、相当な勢いで追突したのだと分かった。
だが、俺が最も気になったのは、その横でクワを振り上げている1人の子供だ。緑の髪の毛の、背の低い少年である。
「や、やっぱオルト……?」
「ム?」
間違いない! オルトだ! でも、なんで? 現実世界だぞ? それとも、実は俺は事故で意識を失っていて、夢を見てる? もしくは、医療用のVRマシンに繋がれてるとか? いやいや、家の近所が再現されている意味が解らん。
パニック気味に色々と考えていたら、周囲がおかしいことに気付いた。車から上がる黒煙が、まるで停止映像のように動きを止め、音が一切なくなったのだ。なんというか、世界が止まっていた。
「えっと……?」
『こんにちは』
「だ、誰だ!」
『やあ!』
誰? というか、何? なんか、光の球みたいなのが浮いてるんだけど。口も目もないのに、何故かこの球が喋ったのだと理解できる。
『察しがいい子は好きだよ。さすが特異点』
「とくいてん? 俺のことか?」
『うん。そうだよ。僕のことは、球でも光でも管理者でも超越者でも神でも天使でも、好きなように呼んでよ』
今、聞き逃せない単語が入ってたぞ!
「え? 神?」
『似たようなもんかな? とりあえず、そう呼ばれることがあるくらい、凄い力を持った存在だって思ってくれればいい』
「は、はぁ。えーっと、球神様が、いったいどのようなご用件で?」
『急にへりくだったね! 最初の話し方の方がいいかな? とりあえず、この世界はダンジョンコアに支配されてしまった!』
「は、はぁ?」
ダンジョンコアに支配された? なにその超絶急展開! 不人気漫画のテコ入れか! いや、それにしたって、ここまで急な展開は珍しいぞ!
『君は無関係じゃないから、説明しておこうと思って』
「え?」
意味わからん。無関係じゃないって?
首を傾げている俺に、神様は色々説明してくれた。
なんでも、この世界と異なる世界っていうのは意外とたくさんあり、その中には魔法やらダンジョンやらが存在する世界もあるそうだ。
そんな異世界のダンジョンの中に、神様でも力を抑えきれないくらいに成長したダンジョンが現れた。で、そのダンジョンは異世界の神によって亜空間へと隔離されたのだが、神の予想を超えた力を発揮して地球へと脱出してしまった。
そして、その習性としてダンジョンマスターを選んだのだが、それがLJOの管理AIであったらしい。
元々凄まじい力を持っていたダンジョンコアは、一瞬で地球全土を支配。さらに、ダンジョンマスターの願望を叶え、LJOの世界と地球が融合してしまったのだという。
『ゲームの世界が混ざった結果、AIが特に注目していたプレイヤーたちは、強い力が与えられてしまったんだよねぇ。そんなプレイヤーたちを、僕らは特異点と呼んでいるんだ』
球神様は地球とも、ダンジョンコアが元々いた世界とも違う世界の神様で、今回の事件による混乱を最低限に抑えるために行動しているらしい。
『とりあえず――』
「とりあえず?」
『言葉だけじゃ説明しづらいし、この先に出現するダンジョンに行こうか? 白銀さん』
「な、なんでその名前を?」
『はっはっは! 神みたいなものだからね! それよりも、急ぐよ』
「ちょ、ちょっと待って! 会社に休むって連絡しないと!」
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本日、630~633話まで一気に更新しています。
テコ入れ案その2。631話と比べて、なんか色々と粗いですね。多分こちらは使われなかったでしょう。




