626話 第11エリア
《獣人の隠れ里の交易路を攻略したプレイヤーが現れました。最初に第11エリアに到達したプレイヤーたちに、称号『新世界』が授与されます》
『第11エリアに到達しました。称号『突破者』が授与されます』
称号か。確認してみると、悪くはない内容だった。名誉称号に近いだろう。
称号:新世界
効果:ボーナスポイント4獲得。一部のNPCからの好感度上昇。新しい世界への扉を、最初に開いた証。
称号:突破者
効果:ボーナスポイント2獲得。一部のNPCからの好感度微上昇。
新世界は俺たちだけのユニーク称号ってことらしい。
皆は称号を確認しながら、歓声を上げている。称号はもうそこまで珍しいものではなくなってきてると思うけど……。NPCの好感度上昇が嬉しいの? 他の称号でも似た効果はあるけど、そこまで効果を実感したことはないけどな。
まあ、好感度って狙って上げるのは難しいのかもしれんし、有難い人は多いのかもしれん。
ついでにステータスなどを確認すると、モンス全員がレベルアップしてる。ただ、進化に至った者や、新スキルをゲットした者はいなかった。残念。
洞窟を進みながら、コクテンがパーティの割り振りを提案してくる。ボス部屋を出たことでレイドが解散したため、全員がソロ扱いになっているからね。
そこで、この先の探索のために、チームを組み直そうというわけだ。
現在、プレイヤーは9名。まずはホランド、ヒューイ、クルミ、コクテン、セキショウ、ソーヤ君で1パーティ。バランスがとれているよね。
そして、俺、アカリ、KTKで1パーティ。一見貧弱そうだが、KTKの察知能力と、アカリの攻撃力があればなんとかなるという編成だ。幽鬼は送還しているので、ドリモ、アイネ、リックの構成になっている。
まあ、バランスがいいと言えばいいのだろう。
隊列を組み直して、改めて洞窟を進む。そうして闇を抜けた俺たちの前には、緑豊かな大地が広がっていた。
どうやら、小高い山の中腹辺りに出たらしい。眼下には、森林と、緑の中を縫うようにして走る無数の川が見えている。
背後を振り返れば、そこは雪を被った高い山脈だ。多分、プレイヤーの行く手を阻んでいた大山脈だろう。頂上まで登ろうとしても、雪崩などで全く先へと進めなくなるという山である。
洞窟を通ることで、その山脈の中を通り抜けることができたんだろう。
「あそこに見えるの、村じゃないですか?」
「え? あ、本当だ!」
先頭にいたアカリの声に釣られて前を見ると、確かに小山の麓に村らしきものがあった。道は一直線のようだし、あそこまで行けば補給ができるだろう。
距離的にも相当近そうだ。皆がホッとした顔をしている。そんな中、KTKが違う方向を見ている。
「あそこ」
「うん? どうしたKTK」
「あっちの森の中、何かある」
KTKが指差す方を見つめると、確かに遥か遠くの森林の中、埋もれるように建造物のようなものが見えていた。
尖塔や壁のようなものが確認できる。ただ、周辺の樹木の密度が高すぎて、全貌は上手く見えないな。かなり距離もあるし。
あそこが、第10エリアでの都に相当するような、このエリアの中心部なのかもしれない。結構遠そうだ。
「さて、ここで景色を見ていたいのも分かるが、まずは安全圏だ。このまま道を下って、村を目指そう。死に戻った仲間も、早くこちらに来たいだろうしね」
さすがコクテン。いつでも冷静だね。確かに、ここからの観察はいつでもできるのだ。まずは転移門を登録せねば。
一応、コクテンが全員にメールを送り、獣人の隠れ里で待機するように伝えている。死に戻ったことでステータスも下がっているしね。
そして、生き残った俺たちがセーフティポイントを発見して、改めて皆を案内するというわけだ。
向こうも、新世界の称号はゲットできているらしい。突破者の方はアナウンスを思い返すに、第11エリアに足を踏み入れれば自動的にゲットできるんじゃないかね?
俺たちはもうボスに一度は勝利した扱いだから、戦わずともあの洞窟は通り抜けられる。称号ゲットは簡単だろう。
今頃は大喜びで宴会でもしているかもしれないな。俺なら絶対に大騒ぎをする自信があるのだ。
「ここからはどんな敵が出るかもわからない。慎重に行こう」
「了解」
コクテンが言う通り、雑魚敵でも初見の相手なのだ。しかも、新世界の第11エリア。場合によっては、敵が急激に強くなっていても驚かない。
俺たちは一塊になり、全方位を警戒しながら山道を下っていった。道自体は結構しっかりしていて、戦闘になっても普通に戦えるだろう。
しかし、俺たちの警戒は、全て無駄になる。なんと、何事もなく山道を下りきれてしまったのだ。村の入り口はもう目の前だった。
「運営の慈悲でしょうか?」
「あー、レイドボス戦の後だし、村までの道で敵が出現しないようにしてるのかもな」
死にかけの状態では、村に到着する前にあっさり死に戻りしかねんからね。ただ、俺たちが慎重に行動したおかげというのもあるらしい。
「山道からちょっと離れた場所に、モンスターの気配があった」
「え? まじ?」
「うん。多分、山道を少しでも外れてたら、戦闘になってた」
「うおー! まじでセーフ!」
実は、道から見えるところに、幾つか採取ポイントはあったのだ。ただ、コクテンが森に入るのは危険かもしれないと主張したことで、今回はスルーしたのである。
コクテン! 君の冷静さがチームを救ったぞ!
まあ、比較的リーダーの言うことに従うタイプばかりが残っていたこともよかっただろう。これがムラカゲとかスケガワがいたら、ちょっとくらい大丈夫だとか言って採取に行っていたかもしれない。
いや、やつらがいなくてよかったとは言ってないよ? ただ、可能性の問題としてね?
村には門番などがいる風でもなく、普通に入ることができた。村人たちがこちらを警戒する様子もない。
ただ、数歩ほど進んだところで、慌てて駆けよってくる人影がいる。NPCだが、着ている服が少し豪華かな?
「あの! もしや、洞窟を越えてこられたのでしょうか?」
虎獣人の男性である。背が高くて強そうな外見だが、腰はメチャクチャ低かった。この虎さん、なぜか先頭のコクテンじゃなくて、俺を見ているんだが?
それが分かったのか、皆がサッと道を譲る。すると、虎さんはズイッと俺に顔を近づけてくるのだ。
「えーっと、そうだな。サーベラスライオンを倒してきた」
「やった! ついにやつが倒されたのですね! こうしちゃいられない! 報告に行かなきゃ!」
「え? あの!」
行っちゃったよ。まあ、すぐ目の前に転移陣があるから、まずはそれを登録しちゃおうか。




