625話 生き残りたち
「ガアアアアアアァァァァ――!」
「や、やった! HPを削り切った!」
「モグ!」
ジークフリードたちの決死の攻撃によって、ついにサーベラスライオンのHPバーが砕け散っていった。断末魔を残し、その姿がポリゴンとなって砕け散る。巨体がはじけ飛ぶ様は、まるで花火のようで壮観だった。
「ガァァ――」
サーベラスライオンの姿が消え去ると同時に、周囲を包んでいた炎も消え、灼熱のエフェクトも収まる。危ない。あと一分はもたなかっただろう。
だが、大爆発が収まると、そこにジークフリードたちの姿はない。唯一、倒れ伏すアカリだけが残されていた。
ジークフリードとレーに彼らの愛馬は、サーベラスライオンとの接触で死に戻り、フィルマは自爆ダメージで死に戻ったのだろう。
「アカリ! 大丈夫か!」
「ユートさん。とりあえず回復してください~」
「残りHPが1ってなってるぞ」
「ド根性が発動したみたいです」
「あー、あのスキル持ってたのか」
ド根性というのは、プレイヤーのHPが2割以上の状態から即死した場合、HP1の状態で生き残るというスキルだ。ただ、発動確率が非常に低いため、あまり人気のスキルではない。
「ランダムスクロールでゲットしまして。初めて発動しましたよ」
アカリも、初発動だったらしい。ここでくるとは、持ってるねぇ。
「それよりも、勝っちゃいましたよ! 信じられません!」
「凶悪レイドボス初見撃破か~。いや、マジで?」
「マジです! やったんですよ!」
アカリは素直にはしゃいでいるが、俺は困惑の方が大きかった。だって、勝てるだなんて思ってもみなかったからさぁ。
そこに、生き残ったみんなが駆け寄ってくる。
「やりましたね!」
「勝利」
「勝ちましたー!」
全員が満面の笑みだ。それで、俺もようやく実感がわいてきた。
「そうか、勝ったのか」
「そうですよユートさん! 勝ったんです!」
「勝った……。うおぉぉぉぉ! 勝ったぞぉぉぉ!」
「いえーい!」
「いやっほー!」
ソーヤ君とハイタッチなんかしちゃったりして。
いやー、ピンチの連続だったけど、奇跡が起きたな! まあ、一番大きかったのは蘇生薬の存在だろう。あれがなければ、とっくに全滅していたのだ。
「ソーヤ君のおかげだ!」
「え? いえいえ、僕なんてチョコチョコ援護してただけですから……。ユートさんの方が貢献してたじゃないですか」
「蘇生薬がなければ勝てなかった。つまり、蘇生薬を発見したソーヤ君のおかげ! ソーヤ君無双!」
「いえいえ! 僕が発見しなくったって、誰かが発見してましたよ! それより、ユートさんの罠や爆竹、大活躍でした!」
「いやいや――」
「いえいえ――」
なんか、お互いの褒め合いになってきちゃったんだけど。そんなやり取りを止めてくれたのは、コクテンだった。
「それよりも、今はリザルトの確認をして、移動しましょう」
「お、おお。そうだったな」
「ごめんなさい」
俺たちはすっかり元通りになったボス部屋を歩きながら、インベントリを確認した。そこには、大量の素材がこれでもかと入っている。
「三つ首炎獅子の皮に、三つ首炎獅子の爪。サーベラスライオン素材がすごいな」
皮×8、爪×4、牙×2、毛×6、炎鬣×2、炎尾×1。そして、炎宝珠っていういかにもレアっぽいアイテムが1つ入っていた。案の定、レア度が高い。
名称:炎宝珠
レア度:6 品質:★10
効果:炎の力を秘めた宝珠。
素材として、色々なことに使えそうだった。ボス素材以外には、何故か銀鉱石や鉄鉱石など、鉱物系の素材が大量だ。
洞窟を攻略したからなのだろうか? ともかく、赤字にはならずに済みそうだった。
他のメンバーも皮、爪、牙、毛、炎鬣は確実に入手しており、炎尾、炎宝珠の部分が違っていた。この2つがレアドロップっぽいな。
他には、大牙、炎爪、魔眼、頭部剥製・右、頭部剥製・中央などが存在している。これって、チャガマの招福の効果は出ているんだろうか? 初撃破だから、分からんね。
レア枠が2種というのは他のレイドボスでもあることなので、ここも特別感はない。さすがに、レア報酬の数が増えるような効果はないってことなのだろう。
ホランド辺りはコクテンと素材を見せあいながら、これでどんな装備が作れるか話し合っている。
彼らクラスのプレイヤーにとっても、強力な装備になることは間違いないだろうしね。
「そう言えば、コクテンは良く生き残れたな。HPゲージギリギリだったと思うけど」
「酔拳のアーツ、『活性法・酩酊』のお陰ですね。育てておいて本当によかったですよ」
なんでも、酩酊時にだけ使える自己回復スキルで、印を結んでジッとしている間、HPが回復するという技であるらしい。
他のメンバーも、特殊なアイテムやスキルを駆使して、ギリギリ生き残ったそうだ。これだけ色々なスキルがあれば、知られていないマイナーなアーツなんかも多いらしい。
「ここが、部屋の出口だな」
「普通の扉ですね」
「ああ、だが、先がどうなっているかは分からない」
一分ほど歩けば、入り口とほとんど同じ外見の扉を発見する。この先は、高確率で第11エリアへと繋がっているだろう。
「戦力的には不安だけど。進まないわけにはいかないしなぁ」
セキショウのぼやき通り、ここで引き返すことはできない。なんせ、今は俺たちしかいないけど、他のプレイヤーがいつやってくるかは分からないのだ。
ここで引き返してまごまごしている間に、他のプレイヤーに一番乗りを取られる可能性はゼロではなかった。実際、過去のエリア解放戦では、似たことがあったらしい。
それ故、俺たちもこの洞窟を抜け、セーフティゾーンを登録するところまでは進みたかった。
しかし、死に戻り多数で、戦力はガタガタだ。現在生き残っているのは、俺、アイネ、ドリモ、リック、幽鬼に加え、コクテン、セキショウ、アカリ、クルミ、KTK、ホランド、ヒューイ、ソーヤ君だけなのだ。
「とりあえず、この部屋を出よう。白銀さん、お願いします」
「え? 俺?」
ホランドが何故か俺をご指名だ。ホランドが開けるなら、文句ないよ? 大活躍だったし、勇者っぽいんだもん。竜の大冒険なら、勇者が先頭だし。
ただ、皆が俺を見ている。まあ、レイド発起人が開けとく方が、揉めなくて済むか。アカリでも良いと思うんだけど、アカリも俺に「どーぞどーぞ」とやっている。
「……じゃ、開けるぞ」
俺が扉に触れると、勝手に外側へと開いていく。その先は、やはり洞窟だ。ただ、その先からは、明らかに光が射していた。あれが出口なんだろう。
ピッポーン。
《獣人の隠れ里の交易路を攻略したプレイヤーが現れました。最初に第11エリアに到達したプレイヤーたちに、称号『新世界』が授与されます》
『第11エリアに到達しました。称号『突破者』が授与されます』




