624話 ピンチの後のチャンス
「くっそ! ここまできて!」
灼熱の状態異常が、HPをゴリゴリと削っていく。水魔術で水を生み出して体にかけても、消えることはなかった。
どうやら、この部屋を埋め尽くす炎が、常時灼熱を引き起こしているらしい。ならばそちらを消そうと水をかけるんだが、すぐに炎が回って元に戻ってしまった。
せっかく追いつめたって言うのに! やっぱ初見突破は難しかったのか? いや、ここで諦める訳にはいかない! 何か、できることはないか?
俺のこの気持ちは、他のメンバーと同じであったらしい。少し離れた場所にいるコクテンが、ジークフリードたちに回復アイテムを使用するのが見える。まだ諦めてはいないのだ。
「レーさん! ジークさん! フィルマさんとアカリさんも! 君たちに託します!」
「任された!」
「くふふふふふ! 命果てるその時まで、敵の息の根を止めるために全力を尽くしましょう!」
他のプレイヤーたちもコクテンに続き、自身の回復魔術やアイテムをジークフリードたちに使用し、死に戻っていった。
その代わり、ジークもレーも馬たちも完全回復だ。
また、鍾乳石が盾になったおかげで炎の直撃を回避していたフィルマとアカリが、ジークフリードたちに招かれてそれぞれの馬へと飛び乗った。
タンデムで、手数を増やそうというのだろう。ボスへ特攻を仕掛けるつもりなのだ。
俺も何かしたかったが、これ以上使えるアイテムがない! リックが回復してくれたおかげで皆よりも余裕があるのに!
「そ、そうだ! チャガマ送還! 幽鬼召喚! アイネも召喚だ!」
「ウウゥ!」
「フーママー!」
「幽鬼、アイネ、こっちだ! 移動して、まずは幽鬼の絶叫を使うぞ!」
「ウア!」
ジークフリードたちと離れて、幽鬼の絶叫を使う。状態異常の効果はなくとも、ほんの少しでも俺たちに意識を向けさせることができればいい!
「ウウウウウアアアアアアアアアアアアァ!」
「ガアアッ!」
絶叫が不快だったのか、サーベラスライオンの視線がこちらを向く。
「アイネ! あいつをこっちに引き付けるぞ!」
「フママ!」
「あちしもやるニャ!」
アイネが飛び出すと同時に、近づいてきたニャムンちゃんも手伝ってくれる。
「名付けて、ジャンピンキャットフラッシュだニャー!」
ジャカジャカとギターをかき鳴らしてジャンプしながら、光を放ったのだ。舞台演出用の発光スキルや拡声スキルを組み合わせているらしい。
「にゃははは! あちしのクリア報酬のために、みんな頑張れだにゃ!」
ニャムンちゃんがそう言って笑った直後、彼女のHPバーが砕け散る。だが、仕事はしっかりこなしてくれたな!
ニャムンちゃんに注意を引かれてしまった結果、サーベラスライオンは大きな隙を晒していた。
なんと3つ首中、2つの首が俺たちを見ているせいで、足元の鍾乳石に躓いたのだ。足元が疎かになっていたらしい。やつの移動が止まった。
「ペーペン!」
すると、ペルカが不敵な顔で前に出る。やる気満々だ。
「行けペルカ!」
「ペーン!」
ペルカが再度テイクオフだ。今度は香水をぶっかけるのではない。光の道に乗って、巨体へと向かって一直線に突っ込んでいった。
「ペペペペーン!」
「ガアアア?」
さすが超激レア技、ペンギンハイウェイ! 驚きの吹き飛ばし力! サーベラスライオンの右の首が、勢いよく真横に弾かれたぞ!
小さなペルカがぶつかったとは思えない、驚きの威力である。これで、完全に俺たちにヘイトが向いたのだ。
「ペルカ! 戻れ!」
「ペーン」
「え? ペルカ?」
地面に着地したペルカは、自身を見下ろす鋭い6つの眼を前に、仁王立ちで睨み返す。それどころか、泡沫スキルを使用し、泡をサーベラスライオンにぶつけていた。
ダメージはほぼないが、完全に相手を怒らせただろう。ペルカは逃げきれないと判断し、攻撃に切り替えたのである。いや、下手に動いて、サーベラスライオンが自分から視線を外すことを怖れたのかもしれない。
「グオオォォォ!」
「ペルカ!」
「ペペーン!」
ペルカがやられた! サーベラスライオンの3つ首が吐き出した凄まじい炎に包まれて、ポリゴンと化すのが見えたのだ。
だが、仕事は完璧だったぞ! 目の前の敵に集中し過ぎたのだ。
それが、やつの命取りである。
「突っ込め! ハイヨー!」
「ハナズオウ、死ぬ覚悟で行きますよ!」
「「ヒヒーン!」」
ジークフリードたちが、もうやつの目前へと迫っていた。
体当たりで少しでもダメージを与えるつもりなのか、2頭の馬がサーベラスライオンに正面から突っ込んでいく。
そして、その背に乗ったアカリとフィルマが、それぞれ何かを投げ放った。
「これを食らいなさい!」
「リキューの新作です!」
放物線を描いて飛ぶ、2つの銀の球体。
ドゴオオォォォォォォォオ!
それが、大爆発を起こしていた。




