623話 チャンスの後のピンチ
「ヒムムー!」
「てりゃぁぁぁ!」
「はぁ!」
ヒムカとふーか、バイデンが、ペルカを追ってきたサーベラスライオンを正面から受け止める。いや、受け止めきれてはいない。
「ヒムー!」
「きゃぁぁ!」
「ぬわぁぁ!」
3人全員が大きく吹き飛ばされ、大ダメージを食らってしまっていた。しかし、相手の動きを阻害し、足を止めることには成功しているのだ。
「ソーヤ君! 今だ!」
「はい!」
俺の合図とともに、ソーヤ君の魔本から風魔術が放たれる。だが、目標はサーベラスライオンではない。
ソーヤ君が風弾で攻撃したのは、鍾乳石に巻き付けられた爆竹であった。
衝撃を受けた爆竹が起爆し、ボンという音が響き渡る。そして、先程と同じように、鍾乳石が根元から割れて落下した。
ドゴオオォォ!
「ガアアアアアアア!」
「よっしゃぁ! 狙い通り! みんなやれ!」
「モグモー!」
「――!」
「トリリー!」
「キキュー!」
すでに入れ替えてあったモンスたちが、一斉にサーベラスライオンに向かって行く。MPが枯渇寸前のルフレとファウ、攻撃力がまだ低いキャロに代わり、ドリモ、サクラ、オレアを控えさせていた。あと、今大ダメージを受けたヒムカをリックと入れ替える。
サクラとオレアは、正直不安だ。なんせ、火が弱点なのである。下手をしたら、サーベラスライオンの火球一発で、死に戻るような危険性すらあった。
だが、2人ともうちの中では攻撃力が高い方であるのだ。使いどころは、今しかないだろう。ああ、一応、火炎耐性薬は使ってあるぞ? ランタンカボチャや、火炎草などを元に作り出した渾身のアイテムだ。
ソーヤ君にレシピを貰っていたのである。プレイヤーと違って、ランタンカボチャのクッキーなどで耐性を得られないモンス用にと、ソーヤ君が考えてくれたのだ。
さすがソーヤ君だぜ!
ただ、元々が火に弱い2人が、これでどこまで弱点を克服できるのかは分からない。即死級の弱点が、大ダメージの弱点に変わっただけの可能性もあるしね。
「ドリモ! 竜血覚醒! 剛体、追い風、貫通撃だ!」
「モグモモモー!」
「サクラとオレアはひたすら攻撃!」
大きな竜と化したドリモが凄まじい速度で地面を滑るように駆け抜け、ズゴオォォン! という轟音とともにサーベラスライオンの前足を跳ね上げる。
残った足にサクラの鞭とオレアの鎌が襲い掛かり、ボスのバランスを完全に崩した。数秒後、サーベラスライオンの巨体が横倒しになる。
「畳みかけるぞ!」
「キキュー!」
「木の実全部使っていいぞ! 全力攻撃だ!」
「キュー!」
俺の言葉に頷いたリックが、取り出した木の実をサーベラスライオンに向かって投げつける。
「ちょ、ま! リック! やっぱなし! 今のなし!」
「キュ?」
今投げたの! 魔果実じゃねーか! 持ってるのすっかり忘れてた! いつも通り指示しちゃってたよ!
手を伸ばすが、届くわけもない。
魔果実は、本格左腕の投げるストレートばりの速度でサーベラスライオンの頭部に直撃し、爆発を引き起こしていた。
魔果実、強いな! あんなのもう爆弾じゃないか!
「キキュ!」
「はっ! ちょっと現実逃避してたわ!」
俺もボスに攻撃せねば! 皆も、一斉攻撃している。
コクテンが奥の手である酔拳のアーツを繰り出し、アカリも連続攻撃の構えだ。ムラカゲやホランドたちも、アーツを使って少しでもダメージを与えようとしている。
全員が必死の形相だ。数少ないチャンスに、勝負を急いでいるのだろう。
だが、そう簡単な相手であるはずがなかった。
「グルオオォォォォォォ!」
「うわ! やば!」
サーベラスライオンの鬣が大きく光ったかと思うと、炎の波となって周囲に襲い掛かったのだ。皆攻撃偏重であったため、回避などできない。
ほぼ全員が炎に呑み込まれ、大ダメージを負っていた。
「――!」
「トリー!」
「サクラ! オレア!」
やっぱり、炎はダメだったか! 2人があっという間に死に戻ってしまった!
それだけではない。攻撃を受けた全員が、炎に包まれているのだ。燃焼耐性を得ているはずなのに、なんでだ!
「状態異常が、灼熱となっています! 燃焼の強化版でしょう!」
「そういうことかよ!」
ソーヤ君が言った通り、燃焼ではなかった。ここで初見状態異常がくるとは、運営性格悪いぜ!
しかも、サーベラスライオンは最悪の行動をとった。なんと、こちらから距離を取ったのだ。安全圏から、灼熱でのスリップダメージ殺しを狙うつもりか? ボスの癖に卑怯な!
周囲は炎で包まれ、灼熱が自動で治るかどうかも分からん。これでは、ポーションなどで延命を図っても、そう長くは続かないだろう。
やっぱり初見突破なんて、無理だったのか?
「くっそ! ここまできて!」




