622話 鍾乳石
目の前のサーベラスライオンを狙って、唐辛子爆弾を投げつける。まあ、爆弾とついているが、爆竹だな。
「てい!」
だが、放物線を描いた爆竹は、予想を大きく外れた軌道で飛んでいく。形が変則的なせいなのか、思ったよりも外れた。
「やっちまった!」
サーベラスライオンの脇を通り抜けた爆竹が、天井付近で爆発を起こす。
赤い唐辛子の粉がサーベラスライオンに降りかかるのが見えた。
「こ、これは……!」
ワンチャンあるんじゃないか? そう思ったが、何も起こらない。元から意味がないのか、罠や状態異常が効かないようになっているからなのか。そう都合よくはいきませんよねぇ!
ただ、爆竹によって起きた変化は、唐辛子の粉だけではなかった。
天井から、メキメキという重低音が聞こえてきたのだ。俺たちだけではなく、サーベラスライオンも上を見上げているな。
そして、大きな鍾乳石の根元にひびが入り、そのまま勢いよく落下した。その真下にいたのは――。
「グオオオォォッォォォ!」
「うわ、痛そっ!」
メキャッという音とともに、鍾乳石がサーベラスライオンの頭部に直撃していた。漫画チックな星のエフェクトが飛び、僅かにダメージが入る。
だが、その真価は状態の方にあるだろう。何と、サーベラスライオンが気絶状態になり、周囲にまき散らしていた炎が弱まったのだ。
「チャ、チャンスだ! みんな、やれ!」
「そ、そうでした!」
「いきます!」
コクテンが慌ててサーベラスライオンに駆け寄るのを見て、フィルマやアカリが後を追う。皆、突然のことに驚きすぎて、一瞬固まってしまったらしい。
「う、うちも行くぞ! 大チャンス過ぎる! ファウ! ここでもうぶっ放しちまえ! 地魂覚醒だ!」
「ヤー!」
ファウの姿が光に包まれると、大きく成長した姿へと変貌を遂げる。
「ヤヤ! ヤー!」
まあ、中身は一緒だけどね。ファウが両手を突き出すと、虚空に2つの魔法陣が描き出され、そこから巨大な岩石が打ち出される。
「ガオオォォォ!」
「回避された!」
サーベラスライオンの気絶が回復するのが、一瞬早かったらしい。右の1発は回避されてしまった。だが、残った左の岩塊はサーベラスライオンの腹に直撃し、その体を大きくノックバックさせていた。
以前、プレデターはひっくり返すことができていたんだが、こちらはその場でのけぞるだけか! まあ、レイドボスだし仕方ないけど。
さらに、リキューの爆弾が炸裂して、サーベラスライオンに悲鳴を上げさせる。
「グオオォッ!」
「また鍾乳石が!」
なんと、先程よりも小ぶりではあるが、再び鍾乳石が落下していた。まあ、当たりはしなかったが。
他の鍾乳石には影響がないのに、あれだけが落ちたのか? ランダム? それとも、サーベラスライオンの近くにある場合だけ?
首を捻る俺の横で、違いに気づいたのはソーヤ君である。ふーかも頷いていた。
「どうやら、白い鍾乳石は、衝撃を受けると落ちるみたいです」
「少し前にリキューが爆弾使った時には、白い鍾乳石がなかったってことですか」
さ、さすがトップ生産職たち! 観察眼が違うね!
つまり、爆弾とかで鍾乳石を落下させて上手くサーベラスライオンに当てたら、ダメージプラス気絶で、チャンスになるってこと?
よし! 試してみるか!
「ファウ!この爆竹をあの白い鍾乳石に巻き付けること、できるか? 衝撃に弱いから、慎重にだ」
「ヤー!」
俺から爆竹を受け取ると、ファウがビシッと敬礼をして、鍾乳石へと飛んでいった。あとは、ボスの誘導だな。
「ペルカ、回り込んで、これをサーベラスライオンに当てられるか? で、こっちに引き寄せてほしいんだが」
「ペペン!」
これで、最後の香水だ。考えたら、かなり役立ってくれたな。
「ヒムカ! あの鍾乳石の下で、ボスを受け止めたい! お前が頼りだ」
「ヒム!」
炎熱耐性もあるし、カウンタースキルの逆襲者は、相手の突進を受け止めるには最適なのだ。俺たちが準備をしていると、ふーかとソーヤ君、他のプレイヤーたちが近寄ってくる。
「僕たちも手伝います!」
「あいつ受け止めるのは、私も一緒にやります! 炎耐性あるんで!」
「頼む!」
俺たちが移動する中、移動を終えたペルカがペンギンハイウェイで飛んだ。
「ペーペペーン!」
すれ違いざま、サーベラスライオンの顔面に香水瓶をぶつけ、ターゲットを取った状態で俺たちがいる方へと飛んでくる。自分のお尻をペンペン叩く挑発もおまけだ。
それの効果があったのかどうかは分からないが、サーベラスライオンがペルカを猛然と追いかけ始めていた。
「よーし! よくやったぞ!」
「ペペン!」
ペルカを受け止めて、褒める。ペルカはヒレをパタパタさせてドヤ顔だ。そこに、ふーかとソーヤ君のツッコミが入る。
「白銀さん! ペンギンさんといちゃつくのはあとにして!」
「きますよ!」
「ヒムー!」
ヒムカ、そんな呆れた目で見ないで!




