表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
622/871

621話 最終形態

 サーベラスライオンとの戦闘は、一進一退であった。


 こちらもそれなりにダメージを与えているが、向こうの攻撃で何人も蘇生を繰り返している。そしてついに、蘇生が間に合わずに犠牲者が出てしまった。


 コクテンパーティの斥候役であったトードーと、槍士のジオである。ずっと前線を支えてくれていたのだが、サーベラスライオンの奥義で複数人が同時に死んだ時に、蘇生薬の使用が間に合わなかったのである。


 全身の炎が激しく燃え盛り、一歩ごとにやつの周囲のどこかで強力な爆発が起きるという、超恐ろしい突進攻撃だった。運営の殺意が垣間見えるのだ。


 さらに、うちのメンバーも実は入れ替わっている。クママが火炎弾に当たってしまい、死に戻ったのだ。だってあいつ、調子に乗ってボスに近づきすぎたのだ。慌てて戻れって言ったけど、遅かったね。


「クックマー!」

「クママー! だから出過ぎるなと言ったのにぃぃぃ!」


 なんか、あまり悲しくならなかったのは、クママの普段の行いのせいだろうか? 死に際の余裕のサムズアップのせいだろうか? 今はヒムカが穴を埋めている。


 ただ、クママが死に戻ったことでアシハナがブチギレて、ボスに特攻して死に戻りやがった。


「こんクソネコがぁぁぁぁぁぁ! なにしてんじゃぁぁぁぁ!」


 メッチャ一人だけ突出してしまい、蘇生薬の有効範囲外だったのだ。主の俺よりも怒ってるの何でだよ! あと、どっかの方言使ってたな。


 ともかく、少しずつ戦力が減ってきてしまっていることは間違いなかった。それでも、絶望している者は1人もいない。


 このままいけば勝てる可能性があるからだろう。今のペースなら、全滅する前にやつのHPを削り切れるのだ。


 レイドボス戦は、パーティが勝利すれば死に戻ったプレイヤーも突破した扱いで報酬がもらえるからね。誰が生き残ろうとも、最後に勝てばいいのである。


 初見で突破できるとは全く思っていなかったが、蘇生薬があると難度が段違いであるらしい。やっぱ、復活アイテムは偉大だってことなんだな。


 だが、希望の後には、絶望がやってくるものだ。


 笑顔でボスと戦っている俺たちは、最悪の事態を目撃することとなる。


「グルオオオォォォォォ!」

「え? なんか姿が変わったな?」

「だ、第六形態ですよ!」

「まじ? そんなのあるの?」

「私も初めて見ました!」


 アカリだけではなく、全員が混乱した様子で、サーベラスライオンを見つめている。なんと、このレイドボスは今まで確認されたことのなかった、残りHP1割での第六形態を持っていたのだ。


 全身に纏っていた炎が消え去る。そして、その四肢が急速に赤く輝き始めていた。足に炎を集中させたらしい。


 まるで、赤いブーツでも履いているかのようだ。


「長靴を四肢にはいた獅子!」

「駄洒落を言ってる場合ですか!」


 スケガワのつまらん駄洒落に、ソーヤ君が突っ込んでくれたね。グッジョブだソーヤ君!


「グルル……ガアァァァァ!」

「はっや!」

「うぎゃぁぁ!」

「ああ! ムラカゲさんが!」


 止まった状態から急に動いたサーベラスライオンに驚いていると、コクテンの悲鳴が聞こえた。黒尽くめの忍者が吹き飛ばされ、天井近くまでかち上げられるのが見える。死に戻ってはいないが、HPが一気にレッドゾーンだ。


 回避上級者のムラカゲが逃げられないほど速いってことか! それに、隠れていても普通に見つかってしまったようだ。まあ、ムラカゲはKTKと違って、消臭スキルを持ってないからなぁ。


 鼻がいいサーベラスライオン相手には、匂いを消せるKTKの方が有利だったらしい。


「ここまで速いと、陣形は意味をなさない! 皆、気を付けろ!」


 気を付けろって言われても! 攻撃を当てられる気も、避けられる気もしないんだけど!


「ガアアアオォォォ!」

「ニャニャー! 来るんじゃないニャ!」

「猫は私が守る」


 KTKスゲー! ニャムンちゃんを庇ってあえてターゲットになったかと思ったら、連続攻撃を回避したぞ!


 いや、攻撃が掠ったか! それにニャムンちゃんも、鞭のような尻尾は回避し切れていなかったらしい。どちらもダメージを受けている。


 今回のメンバーでも回避力が上位に入る2人が、回避に失敗するレベルとか……。俺なんか、狙われたらそれで最後じゃないか!


 ならば、死ぬ前にやれることは全てやってしまおう。まずはアイテムだ。唐辛子爆弾を温存したままだったから、これを使いたい。


「キャロ、透明化してくれ」

「ヒン」


 月魔術で姿を消す俺たち。だが、サーベラスライオンの鼻を騙すことはできないだろう。そもそも、キャロをテイムした時、リックがその鼻で発見したからな。


 そこで、一計を案じる。まあ、香水を使うだけだが。香水を振りまいて一帯を強い臭いで包むことで、その中にいる俺たちの匂いを誤魔化そうという計画だ。今まではサーベラスライオンにぶつける方法で使用していたが、本来はこの使い方を想定している。


 どうだろう。透明化していることは確かだし、周囲を香水の匂いが覆っているが……。


「キャロ、そのまま待機だ」

「ヒン」


 香水の範囲から出る訳にはいかないので、その場でじっと機会を待つ。すると、すぐにチャンスが訪れる。


 サーベラスライオンが、俺たちのすぐ前で足を止めたのだ。視線は周囲をキョロキョロと見ているが、俺たちを捉えることはない。


 変な匂いに違和感を覚えているが、俺とキャロには気づいていないらしい。


 その距離は15メートルほど。


 俺はドキドキしながら爆竹を構えると、サーベラスライオン目がけて、思い切り投げつけた。


「てい!」


 当たれー!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 「猫は私が守る」 ずっと隠密してたのか活躍が見られないな〜と思ってたら、やはりブレないKTK www [気になる点] クママは、オルトやヒムカが白銀さん庇って死に戻りのサムズアップに憧れて…
[気になる点] アシハナの方言が、気になって仕方無い。(何処?w)
[気になる点] 最後に出てきた飛び道具がどんな結果を迎えるかな。 まさかとは思うけど、初討伐メンバーに対して、マスコット化したボス(テイム成功したモンスのように)が全員手に入る、なんてことないよね。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ