619話 罠発動
俺たち――というかクママを助けるために跳び込んできたアシハナが、目の前で死に戻るのが見えた。
全く! 無茶しやがって! でも、おかげで助かったぞ! アシハナの光る斧の一撃によって、サーベラスライオンがノックバックしていたのだ。
俺は大慌てで蘇生薬をショートカット使用する。準備しておいてよかった! アシハナの姿は消えているが、蘇生に成功すれば――。
「蘇生薬使用! アシハナ!」
「助かったー!」
「ガッツポーズの前に、ボスから離れろっ!」
「あ! そうだったー!」
サーベラスライオンの目の前で復活したアシハナは、大慌てで逃げ出した。そうなんだよね。蘇生薬って便利だけど、その場で復活だからボス戦では結構使いどころが難しい。
しかもHPが1割での復活だから、場合によっては復活→即、死に戻りってこともありえるのだ。
今回は、アシハナが叩き込んだ強烈な攻撃によって、ボスがまだ硬直状態だったからなんとかなった。まあ、あと1秒余計なことをしていたらマジで無駄復活になっていただろう。
「クママちゃんありがと! 絶対に蘇生してくれるって、幽霊状態で信じてたっ!」
「蘇生したのは俺だがな!」
「蘇生薬は後で補填するから!」
「必要経費だからそれはいい! それよりも、後ろのアレ、どうにかしてくれよ!」
「グオオオォォ!」
サーベラスライオンの迫力にビビってテンパった挙句、思わず設置した罠とは違う方向に逃げちゃったんだよね。
あと10メートルも走れば、罠に誘い込めたのに!
「さっきの凄い技! あれ、も1度! はよ!」
「むり! 奥義!」
「クマー!」
やっぱり奥義だったか! せっかくの隠し玉だったのに、クママの救援であっさり使いやがったな! クママの主としては喜んでいいやら、愛が重すぎると嘆けばいいのか!
「こうなったら、もう1度私が……!」
「やめれ!」
蘇生薬の無駄使いになるわ!
すると、俺たちの真後ろに迫っていたサーベラスライオンに、何かが当たった。ふわっとフローラルな香りが漂う。
「こっちだ! デカブツ!」
「ス、スケガワ!」
エロ鍛冶師のスケガワだ。俺が渡しておいた香水を使ってくれたらしい。効果は覿面で、ボスがスケガワへと進路変更したのが分かった。
「助かった……!」
だが、アレでは今度はスケガワが! そう思っていたら、スケガワの直前で、ボスの動きが止まっていた。
その足元では、大きなトラバサミが思い切り口を閉じている。上手く罠に誘導したらしい。
「よし! 攻撃を――」
「ガアアアア!」
スケガワたちが反撃に転じようとしたその時、サーベラスライオンはあっさりと罠から脱出していた。2秒くらいしか効果がなかったんじゃないか?
やはり、スケガワの自作罠は、ヤダンの作ったものに比べて効果が劣るらしい。
「ガアアアア!」
「ぎゃああぁぁ!」
背を向けて逃げ出すも、追いつかれて火炎を背中に浴びるスケガワ。火炎耐性があるおかげか即死はしないが、HPが半減した。
もう1度何かされれば死に戻る。そんな時、助けに入ったのは2人の騎士であった。ただ、攻撃を仕掛けたわけではない。
「スケガワ君!」
「私も手伝いましょうかねぇ」
なんと、両サイドからスケガワの腕を取り、そのまま持ち上げて駆け出したのだ。連れていかれる宇宙人ポーズを超高度にしたらああなるのかもね。
「ちょ、引きずられる!」
「足を畳んでおきたまえ!」
「くふふ、面白い恰好ですよ! ああ! いいですねぇ!」
「何がいいんだよ! どうせ腕を組むなら女の子と組みたかった!」
「女性の騎士はあまりいないよ」
「真面目! 真面目に答えなくていいから! 戯言だよ! こんちくしょう!」
「あっはっはっは! やはり面白いですね! まあまあ、一応どちらも中性的な美形ですから。ね?」
「な、何が「ね?」なんだよ!」
ボスに追いかけられてるのに、余裕だな。まあ、気が抜けるようなやり取りのお陰で、スケガワにも本当に余裕が戻ったらしい。
ジークフリードとレーに進路を指示し始める。改めて、罠に誘い込もうというのだろう。
効果時間は短くとも、足を止める場所が分かっていればやりようはある。コクテンたちは設置してある罠の近くに陣取り、攻撃を仕掛ける態勢だ。
そして、その目論見は成功していた。ジークフリードたちによって罠に嵌められたサーベラスライオンに、皆が溜めておいた大技をぶち込んでいるのだ。
ただ、ホランドやヒューイは、奥義を放てずにいる。彼らの必殺技は、溜めに時間がかかるってことなんだろう。
そこで、思いつく。
「ホランド、ヒューイ!」
「白銀さん。どうしました?」
「あっちに、俺が仕掛けた罠がある。その前で、奥義の準備をしていてくれないか?」
ヤダンの罠の前で必殺技を準備しておいてもらい、罠にかかっている状態のサーベラスライオンにぶち込んでもらおうというわけだ。
ヤダンの罠は一応10秒効果があるとなっているから、多少の誤差があっても問題ないはずだ。
俺が説明をすると、2人は即座に動き出してくれた。判断が速くて助かるぜ。
「ジーク! レー! 45秒後きっかりに、中央の罠にかかるように誘い込んでくれ!」
「承った!」
「時間指定ですか! シビアなミッションですね! ですが、それが面白い!」
俺が騎士たちに指示を出した後、罠の前に辿り着いたホランドが、剣を構えて必殺技のチャージを始める。
光る剣を頭上高く掲げるイケメン剣士ってのは、なんでこう絵になるかねぇ? 主人公感満載だぜ。
それから遅れること10秒。今度はヒューイがチャージを開始だ。必殺技のため時間がヒューイの方が短いのだろう。そのため、同時に放つには、ヒューイが少し遅れてチャージを開始する必要があるのだ。
こっちも非常にカッコいい。ホランドが勇者なら、こっちは賢者だろうな。前に突き出す杖に、光が集まっていくのだ。
「さあさあ! こっちだよライオン君!」
「鬼さんこちら! 手の鳴る方へ! まあ、俺は今、手鳴らせないけど!」
「スケガワさん。この体勢に随分慣れましたねぇ?」
さあ! ボスがくるぞ!




