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62話 タゴサック

 畑に戻って孵卵器を設置する。


 赤が基調となったSFチックな外見をしている。やや丸みを帯びた、酸素カプセルチックな外見だ。これはどんなモンスターが生まれるのか、今から夢が広がるな。


 孵卵器を見ていると、オルトとサクラが近寄ってきた。どうしたのかと思ったら、卵を撫でたりしている。


 自分たちの卵だと分かっているみたいだな。俺は卵を愛でるオルト達を残して、納屋から出た。好きにさせておいてやろう。


 そうだ、ヒカリゴケとかどうなった? インベントリを確認してみよう。


 いつも通りの薬草や毒草類とハーブ。その中に混じってヒカリゴケの名前があった。問題なく育ったみたいだな。


 残念ながら赤テング茸・白変種の名前はない。まあ、そう簡単に出来る訳ないか。のんびり待とう。


「ヒカリゴケの調合でも試してみるか?」


 ヒカリゴケは雑草だから期待はあまりできないけどね。


 納屋の前で考え込んでいたら、誰かに声をかけられた気がした。


「うん? 誰か呼んだか?」

「キュ?」

「クマ?」

「―――い! おーい!」


 モンスたちじゃなかった。


 畑の外を見ると、誰かが手を振っている。明らかに俺に対してだよな?


「えーと、俺に何か用ですか?」

「そうなんだ。ここの持ち主さんだよな?」

「はあ。そうです」

「俺はタゴサック。お隣さんに挨拶をしておきたくてな」

「お隣、ですか?」

「ああ。そこ、俺の畑なんだ」


 タゴサックが指差したのは、うちの畑から一番近い畑だった。例の、いつの間にか誰かが買っていた、見たこともない草が植えられていた畑だ。

 

 なるほど、確かにお隣さんだな。


「えーっと、タゴサックさん?」

「タゴサックでいいぜ? あと、敬語も不要だ!」

「女性、だよな?」

「そうだぜ? ああ、名前か? まあ気にすんな。趣味だ!」


 そう。タゴサックは見紛う事なき女性であった。


 身長は俺より高い。170くらいはあるだろう。ツナギのような服に身を包んだ、黒髪ロングストレートの美人さんだ。男口調と相まって、姐さんとでも呼びたい雰囲気である。


 ロールプレイなのか、素なのか、微妙なところだ。板についている気もするし。まあ、不快ではないし、気にしないでおこう。


「おっと、自己紹介もせずにすまないな。俺はユートだ」

「よろしくな。畑仲間は貴重だから、知り合いが増えて嬉しいよ」

「やっぱり多くないのか?」

「まあな。それにここまでの畑を維持できてるファーマーはもっと少ない」

「俺の場合はテイマーだから、本職って訳じゃないんだけどな」

「だよな。白銀さん、だろ?」

「む」

「あ、すまない。言われたくなかったか?」


 タゴサックも俺の事を知っているらしい。


「どこで分かった?」

「実はファーマーの間では有名なんだよ。ここの畑は白銀さんの畑だってな。本職のファーマーじゃないのにスゲー、どうやったのか知りたいってな」


 そりゃあ、本職のファーマーだったら興味を持つか。育樹はなかなか貴重なスキルみたいなことをアリッサさんも言ってたし。これだけ樹木が生い茂ってれば目立つからな。


 少しでも俺の情報を持ってるプレイヤーだったら、オルトを見ればこの畑の所有者が誰なのか直ぐに当たりが付くだろうし。


「で、折角姿を見かけたことだし、挨拶がてら話が聞きたいなーと思ったんだよ。どうやって樹を育ててるのか、とかな」

「別にかまわないけど、俺の真似は難しいと思うよ?」


 何せ、ノームを探してテイムするところから始めなきゃならないからな。


「やっぱりノームか?」

「なんだ、分かってるんじゃないか」

「いや、それ以外の理由があるかもしれないだろ? 掲示板で可能性が語られていたのが、育樹を持ったNPCを雇ってるんじゃないかっていう説だな」

「NPCなんて雇えるのか?」

「ギルドランクが6まで上がると可能だぞ」


 5に上がったばかりなんだが。でも、ちょっと気になる。畑を手伝ってもらえるのか?


「まあ、初期に雇えるNPCは最低限のスキルを持ってるだけだから、あまり使えんけどな」

「だったら、何で俺がNPCを雇ってるなんて思ったんだ?」

「噂の白銀さんだったら何か特別な方法で高レベルNPCを雇ってるかもしれないだろ? まあ、数日ここを観察させてもらって、NPC説はないと分かったが」

「っていうか、俺ってどんなイメージなんだよ」

「うーん。人とは違うプレイを楽しみつつ、面白い発見をたくさんしてるプレイヤー? そんなイメージかな」


 おや? そんなに悪いイメージじゃなかった。もっとこう、テイマーのクセに農業プレイしてる変わり者的なことを言われてるのかと思った。


 そう聞いてみたら、タゴサックが笑い出す。


「だはははは。そりゃあ被害妄想だって。ファーマーの間だと好意的な意見が多いぜ?」


 それは嬉しい言葉だ。まあ、同業者的な感じで親近感を持ってくれているのかもね。


「そうだ。ついでにもう1つ聞いても良いか?」

「なんだ?」

「あの樹なんだが、見たことが無くてな。何か特殊な木なのか?」


 タゴサックが指差したのは水臨樹だった。そういえば人のホーム内は鑑定が効かないんだった。確かに鑑定が出来ないと見分けるのは難しいかもな。


「あれは水臨樹の木だ」

「はあ? 水臨樹って、あの水臨大樹のことか?」

「ああ、あるイベントで水臨樹の実を手に入れてな。オルトに渡したら苗木化してくれたんで、育ててるんだ」

「それは凄いな。何か収穫物とか穫れたのかい?」

「収穫物はまだだな」

「そうか。にしても、どこまで育つんだろうな?」


 タゴサックがそう言って、水臨樹と水臨大樹を見比べる。俺と同じことを考えたらしい。


「……あんなデカくならないよな?」

「さあ? 俺には分からん。むしろ今後もしっかりと育ててもらって、経過を教えてもらいたいくらいだ」

「だよな」


 大きくなりすぎないことを祈るばかりだぜ。


「結局、育樹を手に入れるには農業スキルを上げなきゃならないってことか」

「頑張ってくれ」

「貴重な情報をありがとうな。これは情報のお礼代わりだ。受け取れ」

「苗か? これは――魔力草じゃないか! こっちは解毒草? いいのか?」


 魔力草とは、俺が渇望していたマナポーションの材料である。これはマジで嬉しい。


「ああ、俺にとっては普通に栽培してる作物だからな。一応、ユートの畑には植わってないと思うが、それでいいか?」

「ああ! メチャクチャ助かる! 大した情報を教えてないのに、良いのか?」

「お近づきの印って奴だ。それに、面白い畑を見せてもらったしな」


 タゴサックみたいなファーマーに興味を持たれるとはな。


「俺の畑って、そこまで悪くはないのか?」

「むしろ本職じゃないのにこんな畑を作り上げてよ。凄いと思うぜ?」


 そう言われると、ちょっと申し訳なくも思うんだよな。俺の力じゃないし。


「うちのノーム。オルトって言うんだが、初期ボーナスで最初から育樹スキルをもっててさ。それで緑桃や胡桃も育てられるんだよ。俺の力じゃないさ」


 だから褒められても微妙に困るんだよな。そう言ったら、タゴサックがちょっと怒ったような顔で言い返してきた。


「いや、それは違うぜ? 確かにノームの力もあるんだろう。だが、そのノームの力の使い道を選択をしたのはユートだ」

「いや、でもさ……」

「畑を作るのだって、木を植えたのだって、ユートがその道を選択したからこそだろ? 今のユートがあるのは、ユート自身が努力した結果だ。その過程で称号を手に入れたり、何か新しい発見をしたのだって、運のおかげだけじゃない。お前が人とは違う、特別な行動をしたからこそだ。もっと誇れよ」


 俺のこと結構知ってる感じだな。まあ、掲示板で何度か名前が挙がってるみたいだし。称号を複数持ってるとかは、もう知られてるのか。


 それにしても、タゴサックみたいな姐さんキャラから励まされると、妙に説得力があるよな。少しだけ自信が湧いてきた。


 最初はスタートダッシュに失敗して、躓いたところから始めたけど、今じゃそれで良かったと思っている。ファーマーとしてはそこそこ頑張っている方だとも思うし。ナンバーワンじゃないけど、オンリーワン的な?


「なんか、サンキューな。ちょっと自信が湧いてきたよ」

「おう。もっと胸を張れよ。トップじゃないかもしれないが、十分面白いプレイをしてるんだからよ! 俺たちがやってるのはゲームなんだ。それが一番重要だろ?」

「ああ、そうだな」

「へへ。なんか臭いこと言っちまったな?」

「いや、かっこよかったぜ?」

「女に恰好良いはないだろ?」

「それ以外にどう言えと?」

「はは、ちげえねえ!」


 タゴサックは一しきり笑った後、フレンドコードを送ってきた。


「なあ、フレンドコードを交換しないか? 何か面白い情報があったら交換し合うってことで」

「こっちこそ、有り難い」


 タゴサックは格上のファーマーだ。樹木以外に関しては俺よりも断然進んでいるだろう。これは良い相談相手ができたな。良い奴だし。


 タゴサックが去って行った後、俺はオルトに魔力草と解毒草を渡して株分けしてもらった。


「これでマナポーションが作れるぞ!」


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― 新着の感想 ―
 善き隣人…
タゴサックまじで良い奴よなぁ
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