618話 第四形態
毒餌は、俺の想像以上に凶悪だった。効果時間は1分ほどだったが、ボスの体力を3%くらいは削ったんじゃないか? レイドボスの3%って言ったら、そこらのモンスターの数倍はあるからね。
しかも、その後2回、同じように毒料理に引っかかってくれた。さすがに学習したようで、4個目の毒料理は前足で叩き潰されたけどね。
この数分だけで、奴のHPを1割近く削れたのだ。さらに、毒が入っている時は相手の動きが僅かに鈍り、攻撃の手が僅かに緩むのである。そのおかげで、こちらの被弾はほぼなかった。
これは、かなり貢献できたんじゃないか? もう役立たずの雑魚とは言わせないぜ!
「ムムー!」
「白銀さん! 危ないでござる!」
「うぇ?」
ムラカゲの警告と共に、オルトに押し倒された。地面に仰向けで転がる俺の顔の真上を、赤橙色に光る何かが高速で通り抜けていく。
それは、炎に包まれたサーベラスライオンの尻尾であった。
サーベラスライオンのパターンが、再び変化したらしい。今度は姿も変わっている。鬣と、尻尾の先の毛が炎と化していたのだ。
その尻尾で、攻撃を加えてくるようになったようだった。こっちに尻を向けた状態だから油断してたぜ。しかも、結構離れてるし。
明らかに尻尾が伸びたよな?
「大丈夫でござるか?」
「あ、ああ。助かったよ」
「もっと離れる方がいいと思うでござるよ?」
「そうするよ」
俺はサーベラスライオンから視線を外さず、小走りで離れるように移動する。戦闘は激しさを増していた。
まだ誰も死に戻っていないから油断していたが、ここからが本気であるらしい。
「あ! バイデン!」
俺の視線の先で、バイデンが思い切り吹き飛ばされるのが見えた。一気に隊列が崩れ、後衛が逃げ散る。
「今まで以上に慎重にお願いします!」
「おう!」
「わかったよ!」
「くるぞっ!」
「ゴオオオアアアァァァァ!」
うわー、口からボウボウ火を吐きながら、前足と尻尾をブンブンだよ。俺なんかちょっと近づいただけで、あっさり粉々になるだろう。
あれ相手に正面からやり合うんだから、コクテンたちはやっぱスゲーよな。クルミやフィルマ、ムラカゲ、ホランド、サッキュンも頑張っている姿が見える。
ただ、明らかに皆の受けるダメージが増えていた。どうやら、鬣から火の粉が飛び、それが少しずつダメージを与えてくるようだ。
前衛のHPが異常な速さで減っていくのが見える。これはヤバいんじゃないか?
どう動くべきか悩んでいると、こちらに近寄ってくる人影があった。
「白銀さん!」
筒状に丸めた紙のようなものを握り締めた、スケガワだ。スクロールだった。罠を封じ込めたオブジェスクロールだろう。
「白銀さん! 罠を設置しよう! うまくいけば、前衛が楽になる!」
「そ、そうだな!」
スケガワの言う通りだ。少し動きを封じるだけでも、かなりの手助けになる。特に、ヤダンに直してもらった巨大罠は、話では10秒くらいはボスを足止めできるのだ。
回復と、隊形の立て直しくらいは可能な時間である。
「白銀さん、どこに設置する?」
「また、マップ中央に設置しようと思う。あそこなら誘い込みやすいし。スケガワはどうする?」
スケガワの場合、自作の罠が10個近くあるのだ。
「俺は、ボスライオンが1回でも通った場所に設置していこうと思う。そこなら、勝手に引っかかるかもしれんからな」
「なるほど」
設置場所が被らないように軽く打ち合わせをしてから、俺たちはそれぞれの目的地へと散った。
サーベラスライオンは、少し離れた場所で咆哮を上げている。どうやら、ムラカゲの使った火遁の術により、ノックバックさせられたらしい。
まあ、火遁というか、爆弾だけどね。火は効きづらいはずなんだが、爆風による吹き飛ばし効果が発揮されたんだろう。
因みに風遁は爆竹で、水蜘蛛、水遁の術、木の葉隠れの術はもう少しで完成しそうだという。忍者のジョブは解放されていないけど、しっかり忍者をやっているよね。
「クマ!」
「おっと、すまんすまん。設置できたか? じゃあ、スケガワの手伝いに回るぞ」
「クマ!」
スケガワからオブジェクトスクロールを半分受け取り、手早く罠を設置しようと周囲に散ったんだが……。
「クママちゃーん! 危なーいっ!」
しゃがんでスクロールを広げる俺たちの耳に、アシハナの叫び声が入ってきた。かなり緊迫した声だ。
思わず振り返ると、彼女が叫んだ理由が理解できてしまう。
「やべぇ! 逃げるぞ!」
「ク、クマー!」
無防備な俺たちに、サーベラスライオンが突っ込んできていたのだ。
なんでだよ! 広間の反対側で、戦ってたんじゃないのかよ!
立ち上がって逃げようとするが、相手はすでに目の前だ。どうやっても逃げきれないだろう。こうなったら、自分を餌にして罠に誘導してやる!
「うぉぉぉぉ! 走れクママァァァ!」
「クマー!」
だが、ボスが速すぎた。このままでは、罠の遥か手前で追いつかれる。オルトが俺たちを助けようと駆けてくるが、間に合わない。
しかし、オルトとは別に、俺たちとボスの間に飛び込んでくる人影があった。
「ア、アシハナ?!」
「ク、クマ?!」
「とりゃあああぁぁ!」
アシハナが巨大な斧を思い切り振り被り、突進してくるサーベラスライオン目がけて振りぬく。
斧がメッチャ光ってたんだけど! も、もしかして奥義なのか?
だが、それを俺たちに説明することなく、巨体に弾き飛ばされたアシハナの体が、溶けるように消えていった。
クママに向かっていい顔しながら、ピースしてる場合か!
「ア、アシハナ死んだー!」
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