617話 第三形態
ボスのパターンが変わってから約10分。
俺たちは何とか戦い続けていた。それというのも、弾幕自体の攻撃力が大したことなかったのだ。
俺も何発か被弾したが、HPが2割くらい削れただけだった。俺でそうなんだから、他のメンバーはもっと軽傷だろう。
どうやら、威力は低くとも回避が難しい攻撃をばら撒き、こちらを確実に消耗させる作戦であるらしい。
実際、モンスの入れ替えはまだ必要ないが、回復アイテムの使用量はだいぶ増えていた。
「そろそろか……」
「ム?」
「ボスのHPだよ」
あとちょっとで、HPが残り6割を切る。ふーかの説明通りなら、そろそろ行動パターンに変化が表れてもおかしくはないはずだった。
最初が様子見。2段階目が、弾幕ゲー。次はなんだろうな?
見守っていると、サーベラスライオンが足を止めた。そして、咆哮を上げる。
「グオオオォォォォォォッ!」
麻痺効果がある咆哮だったが、戦闘に入る前に耳栓アイテムを使用して対策はばっちりだ。獣型ということで、用心しておいてよかったな。
咆哮がパターン変化の合図だったのか、サーベラスライオンの動きがガラッと変化した。走り回りながら火炎弾を吐き出すだけだったのが、接近攻撃も仕掛けてくるようになったのだ。
近くにいるプレイヤーに近寄り、前足で攻撃。同時に、周囲には相変わらず火炎弾を吐き出す。そんな感じだ。
これ、咆哮で数人でも麻痺っていたら、結構ヤバかったかもな。盾役が落ちていたら、確実に終わっていた。
今まで以上に攻撃重視。だが、こちらの攻撃も当たりやすくなっていた。より激しい削り合いになったということだろう。
「てりゃああぁ!」
「ガアアアッ?」
「よし! クルミくんが弾きに成功したぞ! チャンスだ!」
「いくっすよぉ!」
前衛たちはメチャクチャ激しい戦闘を延々と繰り広げている。なんか、未だに弾幕を必死に避け続けている俺たち後衛とは、やってるゲームが違う気がするね。
回復と支援を行いながらコクテンたちを見守っていると、不意に合図がきた。コクテンがこちらに向かって軽く手を振ったのだ。
ボスのHPを見ると、5割を切っている。
つまり、事前に用意してきたアイテムの出番という訳だった。
「よし! ついに俺たちが活躍できるかもしれない! きっと!」
まずはこいつから試そう。
「毒入り魚料理。無臭バージョンだ!」
「フムー……」
「そんなもの欲しそうな目で見るなって! 食いしん坊だな! この戦いで生きて戻れたら、好きなだけ食わせてやるから!」
「フム?」
「おう! 男に二言はない!」
「フムー!」
喜んでいるねぇ。でも、俺は生きて戻れたらって言ったんだぜ?
どうせ初見突破なんて無理なんだから、この約束が果たされることはないだろう。汚いって? くはははは! ルフレ君! 大人というのは汚いものなのだよ!
「フム?」
「おっと、何でもない。それより、毒料理を設置するぞ」
罠は後回しだ。両方同時に設置したら、訳分からんことになりかねないからね。最初は毒の効果を調べる。
広間の中央付近。最初にサーベラスライオンが寝転がっていた辺りに、毒料理を3つばかり設置してみる。
だが、ボスの動きには全く変化がなかった。鼻がいいって聞いていたから、すぐに見つけて寄ってくるかと思ったんだがな。香水の効果はもう消えているはずだし……。
「スケガワ! コクテンたちに、ボスをこっちへ誘導するように頼んできてくれないか?」
「了解!」
伝令スケガワが駆け出していった直後、コクテンたちが早速動き出していた。話が早くて助かるねぇ。
鶴翼の陣と言えばいいのだろうか? V字に並んで後退しながら、ボスを餌の近くまで誘い込んでくれた。
さすがに、この距離までくれば匂いに気付いたらしい。しきりに鼻を動かし、辺りを見回している。
コクテンたちは上手く毒料理を避けて後退し、匂いのもとがサーベラスライオンの視界に入るように誘導する。
「グル?」
よし! 見つけたな! 明らかにその目が毒料理を捉えたぞ! あの料理にタイトルを付けるならば『タイと白トマトのアクアパッツァ、魔力毒を添えて』だ!
美味そうだろ? ルフレが摘み食いするかどうか悩むほどの逸品だ! 是非、お召し上がりよ!
「グルルル……グル」
「食った!」
「おお、さすが白銀さん」
「おっきい猫。可愛い」
前衛さんたちがどよめく中、サーベラスライオンは毒料理を一口で平らげていた。ろくに咀嚼もせず、ゴックンチョだ。
「グルルゥ……ガアァァ!」
「毒ったな! しかも苦しんでる! 今がチャンスだぞ!」
「うりゃああ!」
「ハイヨー! いきますよ!」
「くくく……爆殺チャンス」
「ハナズオウ! 奴の尻をこの槍で掘ってやりましょう!」
チャンスと見て、トッププレイヤーたちが動き出す。数人、不穏な奴らもいるけどね。
サーベラスライオンの頭上に毒を示すマークが出現し、その動きが鈍っているな。本当にボスにも効いたらしい。ダメージは僅かかな? いや、ボスのHPバーが僅かにでも減っていると分かるんだから、相当なダメージか。しかも、毒だからしばらく継続するしな。
これ、めっちゃ強いんじゃ……。
「おっと、視てる場合じゃなかった。俺たちも攻撃するぞ!」
「クックマ!」
「デビー!」
サーベラスライオンの元ネタが知りたいという感想やメッセージを複数いただいたのですが……。
ケルベロスを、なんか強そうなライオンに変えただけです。以上!
正直、それ以上に言いようがありませんwww サーベラスはケルベロスの意味ですので。




