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615話 第二形態


 レイドボスとの戦闘開始からおよそ10分。


 サーベラスライオンとの戦いは、予想外に想定通り進行していた。


 もっと、敵のおかしな行動や攻撃で、翻弄される自分たちを予測していたのだ。だが、サーベラスライオンはその場をほとんど動かず、こちらの思惑通りに戦闘が進む。


 ここまで、ダメージはほぼないと言っていいだろう。そりゃあ、無被弾とはいかないが、回復が間に合う程度のダメージで、全員がHPほぼ満タン状態であった。


 しかし、誰も気を抜いていない。自他ともに認める能天気な俺でさえ、これで終わるとは微塵も思っていないのだ。


「そろそろかもしれませんね」

「そろそろ? どういうことだ?」


 俺の横で皆にバフアイテムや回復アイテムを投げていたふーかが、何やらシリアスな顔で呟いた。


 その視線が見ているものは、サーベラスライオンのHPバーだろう。


「レイドボスってだいたい、3回か5回、パターンが変化するんですね。HPが8割6割4割2割瀕死で5回変化するタイプと、5割1割瀕死で3回変化するタイプがいるんですけど……」

「もう少しで残り8割か」

「はい。これだけ温い戦闘ですし、確実に8割でパターン変わると思います。気を付けてください」

「分かった」


 魔術を放ちながら戦闘を見守っていると、KTKの奇襲攻撃がそのお尻に炸裂して、HPバーが一気に削れた。


「うわー……」


 めっちゃ痛そうだ。思わず、お尻がキュッとしてしまったぜ。だが見た目はコミカルでも、起きた変化は笑えないものだった。


 ふーかの予測がばっちり当たってしまったのだ。


 唸り声を上げたサーベラスライオンの動きが、大きく変化する。


「グルルルル……!」


 今までその場からほとんど動かずに戦っていたサーベラスライオンが、大きくその場から飛び退いていた。


「う、動いた!」


 思わず驚いちまったが、そりゃそうだよな。これだけ広いフィールドを用意しておいて、ボスが移動しないなんてありえない。


 今までの移動せずに戦う状態が、おかしかったのだろう。


 様子見から、本気になったってことかな?


「グルオオォォォ!」


 サーベラスライオンはそのまま攻撃を仕掛けてくるのではなく、大広間を駆け回り始めた。その状態で、口から火炎の玉を吐き出し始める。


 アクションゲームのボスでありがちな、地蔵状態から急に弾幕ゲームだよ! この後きっと弱点以外無敵状態になるんだぜ!


 先ほどまでとは、全く違う戦闘が始まった。無数の火炎弾を躱しながら、遠距離攻撃を放たなくてはならなくなったのだ。


 魔術は詠唱があるせいで移動が遅くなるし、弓も動きながら狙いを付けるのは難しい。それなりの速度で動く相手に当てるのは、結構難易度が高かった。


 そんな中活躍したのが、ソーヤ君とスケガワであった。ソーヤ君の場合、魔本を使う為詠唱が必要なく、相手の僅かな隙に即座に魔術を叩き込めるのだ。


 威力は低いが、確実に相手を削っている。それに、弱点属性であるおかげなのか、時おりサーベラスライオンに硬直を与えていた。


 あれがなかったら、皆がもっとダメージを受けていただろう。


 スケガワの場合、投擲を育てているらしい。走って火炎弾を躱しながら、鉄の玉を豪快なフォームで投げつけている。スキルの補正により、ほとんど外れがなかった。


 ホーミングしながらボスに向かって曲がっていくのは、見ていて面白いほどだ。そして、こちらも投げているのは特殊な砲丸であるらしく、ボスをノックバックさせて動きを邪魔することがあった。


「くくく……爆!」

「ちょ。リキュー! もっと威力が小さいの使ってって言ってるでしょ!」

「あれが手持ちで一番小さい」

「あー、もう!」


 リキューの爆弾は相変わらずだな。鍾乳石が落ちてきたせいで、あわやクルミがぶつかりそうになっていた。あれだと、フレンドリーファイアはどうなるんだ? 気になるが、試す気になれないデカさだった。


 生産職が思いのほか活躍してるな。よし、俺も頑張ろう!


 ただ、何をしようかな? 罠と毒餌は、相手のHPが半減するか、こちらのメンバーが半数を切ってからということになっている。切り札の扱いだ。


 これを使うのはまだ早いだろう。


「なら、こいつだな!」


 俺が取り出したのは、香水の瓶だった。実は、鼻が良いという話を聞いてから、密かに秘密兵器を作っていたのである。


 まあ、効くかどうかは分からないが、試してみるのもいいだろう。コクテンたちからも、生産職の面々は色々なアイテムを試す許可は得ているのだ。


 直接ぶつけるのではなく、広範囲に香水を撒いてサーベラスライオンの嗅覚を無効化してやろうという狙いである。


 鼻がいいんなら、嫌がらせくらいにはなるかもしれんしね。


 ただ、俺の投擲力じゃ、全然狙ったところに飛ぶ気がしない。サーベラスライオンに直撃させる必要はないが、近くに落とさないといけないからね。


 リックを喚ぶか? でも、いま入れ替えちゃうのは従魔の宝珠の無駄使いだしな……。


 俺がどうするか悩んでいると、スケガワが近づいてきた。


「白銀さん、ずっとその瓶持ったまま右往左往してるが、使わないのか?」

「投げて使う系のアイテムなんだよ」

「そういうことか。じゃあ、俺に任せておけよ!」

「なるほど。それじゃあ――」


 俺は、香水瓶を差し出しながら使い方を説明しようとしたんだが――。


「おりゃぁ!」


 スケガワは俺の手から香水瓶をサッと受け取って、流れるような動作で投げ放っていた。


「あ!」

「え?」


 止める間もなかった!


「蓋取ってなかった!」

「ま、まじ?」


 瓶が回転しながら飛んでいくが、香水が振りまかれることはない。失敗したか? そう思っていたら、香水瓶がブーメランのようにカーブして、サーベラスライオンに直撃していた。


 なんと、サーベラスライオンの真ん中の顔の鼻面に、寸分たがわず直撃している。瓶が割れる音とともに、中の液体が奴の顔面にまき散らされていた。


 あれはあれで、効果がありそうだな。災い転じて福となす的な?

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― 新着の感想 ―
[一言] ライオンさん ・・・ KTKに掘られちゃいましたか・・・ (どこを?w)
[一言] リアルでスッッッゴイ香水臭いおばさんが近くを通っただけ(他の人はむしろしっぽ振って喜んでてた)で、大人しかった子犬がギャンギャン吠えてたの思い出した
[気になる点] 香水というか強い匂いが鼻やその周りにかかった効果はどうなるかな。 距離感が定まらなくなったりして。 [一言] ナイスコントロール
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