613話 いざレイドボスへ
KTKはお礼を言えたことで満足したのか、トコトコと離れていった。猫にまみれて生活してるって言ってたが、マイペースなところはKTKも猫っぽいね。
逆に、アカリとかは人懐っこくて、犬っぽい気がする。
「KTKさんは猫のようですねぇ」
「ひぇ? レ、レー?」
「ぬふふふ」
いきなり声を掛けられて慌てて振り向くと、いつの間にかレーが真後ろにいた。
え? レーさん、心読めるの? ぐ、偶然だよね? でも、レーならもしかして……。
「改めまして、騎士のレーと申します。よろしくお願いいたしますね」
「お、おう」
「こちらは私の愛馬、ハナズオウです」
「ブルル」
さすが暗黒騎士。馬も漆黒だ。
「騎士志望だったのですが、最初にこのハナズオウを引けたので、暗黒騎士を目指すことにしたのですよ」
黒馬ありきだったのか! でも、職業はまだナイトなんだよね。ダークナイトとか、暗黒騎士的な職業には届いていないようだ。
そのことについて尋ねてみると、レーが我が意を得たりとばかりに頷いている。
「そうなのですよ! 実はまだ、ダークナイト系統の職業は、発見されておりません。そもそも、明確に悪とされる職業は、ダークテイマー以外に発見されていないのです」
「へー、そうなのか」
ダークテイマーって、モンスをいじめてたらなれる職業だったよな。
「騎士の場合は……馬をいじめる? いや、それは可哀そうすぎる!」
でも、暗黒騎士を渇望するレーなら、やっちゃうのか? 俺の不用意な呟きでハナズオウがいじめられるようなことになったら、寝覚めが悪い!
「馬は好きなので、その方法は遠慮したいですねぇ」
レー実はいい人説!
「他のゲームのように、プレイヤーのキル数や、所属陣営を裏切ったりすることで開放されるのであれば、いくらでもやるんですがねぇ」
勘違いでした! やっぱ油断しちゃダメ!
「あ、でも、ダークテイマーって他にもルートがあるみたいな話がなかったっけ?」
「最近発見されたようですが、ゾンビやゴーストだけをテイムしていると、転職できるようになるらしいですよ?」
「じゃあ、騎士もそういう方面での開放があるかもな」
「スキル構成とかですかねぇ? やはり、闇魔術が必要なのでしょうか?」
「あー。そうかもなぁ」
うちのリリスも所持している闇魔術だが、まだ習得方法が分かっていない。スキルスクロールなどから、偶然習得するしかないのだ。
聞いた話だと、闇魔術や光魔術といったレアな魔術を習得していると、それ系統の職業が開放されることがあるそうだ。そもそも、ヒューイがダークマジシャンだった。秘匿しているそうなんだけど、今回のレイドのために、明かしてくれたのである。
ホランドは奥義がシャイニングセイバーで光の勇者って感じだし、相棒のヒューイが闇の魔術師とか……。
俺の中二心が激しく躍り出しちゃうね。中二心? 奴なら今、俺の後ろでズンドコ節を踊ってるよ。
でも、ダークテイマーはメチャクチャイメージ悪い、狙うならライトテイマーかな? もしくはシャイニングテイマー? 光の従魔術師。何かの作品のタイトルになりそうだ。
でも、うちって光っぽい子はいないんだよね。サクラとファウはワンチャンありそうだけど。どちらかと言えば、大地や樹木系が多いのだ。
土の従魔術師。もしくは、樹の従魔術師だな。しまらない。登場するとしても、絶対に脇役に違いない。
でも、俺にはそのくらいがお似合いなのかもしれん。
「白銀さんも、何か分かったら教えて下さいね?」
「了解」
「まあ、4次職であっさり解放される可能性もありますがねぇ」
「あー」
単純に3次職までにはそれ系がなくて、特に条件を満たさなくても4次職で普通に転職できる可能性もあるのか。
「だったら、俺の情報なんかなくっても……」
「可能性は、少しでも高くしておきたいので」
「あー、そういうことね」
出発から1時間後。レーが意外と話し上手で、あっという間だった。多分、いいやつだね! 時折、妙な雰囲気になるけど……。
獣人村に辿り着くと、しっかりと全員が集合できていた。
村を見学したい奴らもいるだろうが、それは後回しにしてくれ。冒険者ギルドでレイド依頼を受注し、全員でそれに参加をする。これで、レイドパーティの結成だ。
すでに、基本的な戦い方は共有されており、後は出発するだけである。戦い方と言っても、初見の相手だ。普通に前衛と後衛で分かれて、連携しましょうってだけだった。
むしろボスの情報を得るため、最初はあまり変則的なことはしないことになっている。前衛が壁となり、後衛が攻撃。支援職がバフデバフを使う。
あと、俺たちが用意した罠などは最初使わず、ある程度相手の能力が見えてから使用することになっていた。
レイドボスまでの道のりは、非常に簡単なものである。レイドパーティを組んでいると、洞窟では敵が出現しないらしい。
ギルドでは、たくさんの人間の気配に驚いて逃げていくと言ってるが、レイドボスへ挑むプレイヤーへの配慮なのだろう。
いやー、有難いね。残念がっているのはコクテンたちくらいだろう。彼らも、もうすぐでレイドボスだということを思い出して、すぐに立ち直っていたけどね。
「あの扉が、大広間へ通じる扉ですか?」
「そうだ。くぐった先に、レイドボスがいる」
「では、ここからは隊列を組みましょう。壁役は前へ」
「おう!」
「わかったよ!」
タンクは、コクテンの仲間のバイデンと、3人娘のクルミ、ホランドである。オルトもやれると思うんだが、俺のパーティは後ろで支援を頼まれた。
まあ、トッププレイヤーたちに交じってタンクをするのはきついと思ってはいたし、有難いけどさ。
ジークフリードとレー、KTKは遊撃として、広間を駆け回る予定である。どんな攻撃を見せてくれるのか、今から楽しみだ。
「それじゃあ、いくぞ!」
「「「おう!」」」




