61話 火属性付加生産技能孵卵器
俺は新しい錬金セットを手に入れるために、アリッサさんの店を訪ねていた。
だが、広場を見回しても、いつもの場所にアリッサさんの屋台はない。うーん、今日はやってないってことか。まあ、毎日ずっとこの場所に居る訳じゃないだろうし、仕方ないか。
どうしようかな。錬金ギルドに行けば買えるんだろうが、そのためだけにギルドに登録するのも躊躇われる。
「そうだ! ソーヤ君に聞いてみようかな」
錬金術師だし、売っている場所を知っているかもしれない。というか、依頼したらいいんじゃないか?
フレンドリストを確認すると、幸いソーヤ君はログインしているようだ。とりあえずフレンドコールを飛ばしてみた。
「はい。どうしたんですか?」
「実は錬金セットを探していてさ。簡易セットじゃ物足りなくなってきたから、1つ上の奴が欲しいんだけど。ソーヤ君はどっか買える場所知らない?」
「というか、まだ初期セット使ってたんですね」
「まあ、錬金術師じゃないからね」
「だとしても、普通はすぐに買い替えるものなんですが……」
え? そうなの? 詳しく話を聞いてみると、NPCの専門ショップに行くと、初心者セットという簡易セットの1つ上が誰でも買えるらしい。なので、普通の生産者は最初の数日で買い替えるのが当たり前なんだとか。
というか、NPCの錬金ショップなんてまともに見たこと無かったな。普通の生産者が購入するような素材は大抵自前だし。水軽石等はアリッサさんの店の方が安いし。
他のNPCショップも似たような理由で利用してこなかった。これは一度NPCの店をきっちり見てみた方がいいかもしれないな。
「それにしても、急にどうしたんですか?」
「いやー、孵卵器を作りたくてねー」
「え? レシピが手に入ったんですか?」
「そうなんだよ」
「素材を持ち込んでくれたら僕が作りますよ?」
「まじ? お幾らくらいかね?」
「作る物の価値にもよりますけど……。そうだ、交換条件はどうです?」
「交換条件?」
「はい。自分でハーブティーを作りたくてハーブを結構集めたんですけど、結局料理スキルが無いと無理じゃないですか? なので、余っちゃってるんですよね。そのハーブを乾燥させてくれませんか? その代わり、孵卵器は僕が作りますから」
ソーヤ君が作った方が絶対に良い物が出来るし、お願いしちゃおうかな。ハーブティーの茶葉を作るのなんて簡単だし。
「分かった。それでいいよ。今、露店?」
「はい」
「じゃあ、そっち行くよ」
ということで、俺はとりあえずソーヤ君の下に向かう事にした。
「やー、昨日ぶり」
「いらっしゃいませ。それで、孵卵器ですか?」
「そうなんだよ」
俺はソーヤ君にレシピの内容を話して聞かせた。
「そもそも元となる孵卵器が必要だったとは。これは普通にやってたらレシピが手に入らない訳ですよ」
「で、材料は孵卵器に、これとこれね」
「うーん」
「どうしたんだ?」
「いえ、すんごい貴重な素材ばかりで、緊張してきました」
そう言ってソーヤ君はアイテムウィンドウを見ている。アイアンインゴットに火結晶だ。ま、どっちも現時点では貴重なアイテムらしいからね。
とは言え、このゲームはオート製作を使えば失敗はしない。なので、素材を無駄にする心配はしていなかった。
「どう? 行けそう?」
「そうですね……。あ、レシピが登録されました。初心者セットでも作れるみたいです」
良かった。あとはオート製作でどのくらいの品質の物が作れるかだな。
「じゃあ、頼む」
「はい。じゃあこれがハーブです」
「確かに」
俺は15個のハーブを受け取った。
「素材の下処理なんかもありますから、30分くらいはかかりますよ? どうします?」
「下処理?」
「結晶は研磨できますし、インゴットは熱して叩けば品質を上げられるかもしれません」
乾燥は10分もかからないんだよな。
「じゃあ、ハーブを乾燥させたら錬金ショップに行ってみようかな。場所を教えてもらえるか?」
「いいですよ。すぐ近くですから」
10分後。
俺はソーヤ君に教えてもらった錬金術店にやってきていた。
「いらっしゃい」
「初心者錬金セットが欲しいんですけど。あります?」
「ああ、あるよ。1つ2000Gだね」
うーん。あっさり買えてしまったな。店主の老人に2000G払い、錬金セットを受け取る。
これ以上のセットが欲しければ、錬金ギルドに登録してギルドランクを上げなくてはいけないらしい。
まあ、3段階目の生産セットはアシハナがようやく手に入れたレベルらしいからな。ソーヤ君も未だ入手してないらしいし、俺には遥か先の話だ。
俺はその足で、ここまでの道中に見つけた調合ショップ、料理ショップを覗いてみた。案の定、初心者調合セット、初心者料理セットが売っている。これは買いだ。
「生産セットが全部新調できたな」
今後の生産活動が楽しみだ。さて、目的も達成したし、ソーヤ君の店に戻ろうかな。
「あ、ユートさん、買えました?」
「うん。ソーヤ君のおかげでバッチリ」
「こっちもバッチリですよ。はい」
「おお! レア度4! しかし、なっがい名前だな」
名称:火属性付加生産技能孵卵器
レア度:4 品質:★5
効果:孵卵器。誕生するモンスターの初期ステータスがランダムで+4。初期スキルにランダムで生産技能が追加。初期スキルに火属性スキル、火耐性が追加。
能力が凄い。品質のおかげなのか、初期ステータスが+3から+4にアップしているし。効果を信じるなら、生産スキル、火属性スキル、火耐性の3つも追加されるってことだぞ? でも、元の孵卵器が2万G、結晶が3万G。アイアンインゴットも貴重となれば、このくらいのレベルは当然なのかね?
何が嬉しいって、生産技能の追加も残った事だよな。
「ソーヤ君、これの依頼がタダとか、申し訳なさ過ぎるんだけど」
「いや。こっちこそお礼を言いたいです。良い素材を使ったおかげで経験値が凄かったみたいで。作ってる間に錬金術のレベルが2も上がったんです。驚きましたよ」
ソーヤ君のレベルが2も上昇したのか。それは凄いな。
「じゃあ、貰っていくよ?」
「はい、良い仕事をありがとうございました」
早速納屋に戻って、孵卵器を設置しよう。待たせたな卵よ!




