607話 レイドメンバー集め
コクテンにメンバー集めをお願いした翌朝。
ログインした俺たちは、早速コクテンと情報を交換していた。場所は、アカリの強い希望によってうちのホームだ。
「きゃー!」
「ムッムー!」
「フマー!」
アカリは少し早めにきて、モンスたちと遊んでいる。さっきまでは隠れんぼだったが、今は鬼ごっこをしているらしい。
縁側でまったりする俺とサクラの前を、アカリとモンスたちが駆け抜けていった。アカリは普段からよく笑うタイプだけど、今は妙に幼い印象だ。
モンスに引っ張られて精神年齢が下がってるのかもね。まあ、気持ちは分かるけど。俺もモンスとワチャワチャしてる時、どう考えてもテンションが変なことがあるし。
結局、アカリとモンスのハイテンション鬼ごっこは、コクテンがくるまで30分近く続いたのであった。
「アカリさん、大丈夫かい?」
「はぁはぁ、大丈夫です!」
息を荒らげながらサムズアップするアカリに、コクテンがちょっと引いてるぞ? それでもすぐに何事もなかったかのように話を進めるコクテンも大人だ。さすがのスルー力。
「それで、こちらが連絡が返ってきたメンバーのリストです」
「えーっと、どれどれ?」
「あ! ジークさんオッケーだったんですね!」
「アミミンさんとマッツンさんは不参加か。まあ、人見知りだって言うしなぁ」
「ムラカゲさんも参加オッケーですか。でもアヤカゲさんは用事が……」
やはり急な誘いだったため、参加できない人もいた。
今のところ決まっているメンバーは、ソーヤ君、ジークフリードとハイヨー。ムラカゲ、サッキュン、アシハナ、ふーか、スケガワ、KTK、の、計9枠である。
KTKはコクテンの推薦だね。普段は数人の知人以外とは組まないソロプレイヤーだって話を聞いていたんだけど、了承を貰えたようだ。さすがコクテン。
残り8枠は、予定していたアミミン、マッツン、アヤカゲといった面子に断られてしまったので、空いている。
因みに、生産職の面々は支援だけが目的ではなく、戦闘職とは違う視点でボスの情報を収集するために加わってもらっている。
俺たちもコクテンも、1発でレイドボスを突破できるだなんて思っていないのだ。何せ、過去のエリア解放レイドでも、1発突破はなかったしね。
そこで、初回挑戦は情報収集も兼ねたメンバーとなっている。その後のことは、ボスの強さ次第になるだろう。
メンバーたちにもそのことは告げてあるそうなので、場合によっては最初の1回だけの面子になるかもしれない。
「それで、残った枠はどうするんだ?」
「まずは、リキューさんたちを誘おうと思います」
「お、結局あの3人か」
「はい。フィルマ君は槍士としても強いですから、なんとかなるでしょう」
リキュー、フィルマ、クルミの3人娘の名前は最初から出ていたのだが、結局コクテンは選ばなかった。
リキューは無軌道だし、フィルマは陸上だと真価を発揮できないし。あと、口には出さなかったが、コクテンがどうもリキューが苦手であるらしい。どう接していいか分からないのだろう。
高いスルー力を持ったコクテンでさえ戸惑わせるとは、リキューやるな。
「あと、ジークフリードさんから、1人推薦がいるんですよね」
「ジークから? 騎士か?」
「はい。騎士ですね。現状、騎士の中でもかなり目立っている人物だそうです。実力は保証すると」
「へぇ! それは凄いな!」
自身もトップ層のジークフリードが強いと言うからには、かなりの実力者なのだろう。
「少々性格に難はあるが、確実に役に立つので連れて行ってはどうかということでした」
「俺は問題ないな。アカリはどうだ?」
「私もいいと思います!」
「なら、2枠はこのジークフリードさん推薦の騎士とその愛馬で埋めちゃいますね」
これで残り3枠だ。
「それと、私からも1人推薦したい人物がいるのですが、どうでしょうか?」
「そりゃ、コクテン推薦なら文句ないけど、俺が知ってる人?」
「どうでしょう? 職業は吟遊詩人系なのに、動きがシーフ以上だと有名なプレイヤーですね。名前はニャムン」
「ニャムンちゃんかよ!」
「おお、知っていましたか」
知ってるもなにも、お前んところのセキショウに連れられてブースまで行ったわ! メッチャ詳しくなっちゃってるからね!
「ニャムンちゃんて、強いの?」
「はい。どういうステ振りなのか分かりませんが、超高速で敵の攻撃を回避しながら演奏を途切れさせない立ち回りが有名です」
「そりゃあ凄い」
このゲームで楽器を使う際、システムのアシストがあるのでリアルよりは上手く演奏可能だ。しかし、激しく動きながらでは指を正確に動かす事が難しく、戦闘中ともなれば超高難度と言えるらしい。
それが可能なのは、現状ではニャムンちゃんしかいないそうだ。うちのファウなどはそれができるけど、プレイヤーに比べて演奏の効果は劣るからね。
「敵の攻撃をとんでもない機動と身のこなしで回避しながら歌い続けるその姿から、跳ね猫、ジャンピングキャット、超時空要塞猫、愛を覚える猫などと言われていますね」
「後半2つ!」
超高機動と歌から連想されたんだろうが……。回避も歌も自分でやるなら、初代じゃなくて7の方でしょうが!
「あと2枠ですね。これは、ホランドさんとヒューイさんを誘ってみようかと思うんですが、どうですか?」
「おー、さすがコクテン。人脈も凄いな!」
「つまり、2人の参加オッケーということですか?」
「え? そりゃあ、反対する理由なんかないけど」
俺がそう告げると、コクテンが何故かホッとした顔をしている。あれ? 俺ってホランドたちとの不仲説が流れたりしてたか? そんなわけないよな? そもそも、ろくに絡んだことないわけだし。
「ただでさえ最高のプレイヤーと言われているホランドさんですから。ここでエリア解放に加わっていれば、その名声は盤石なものになるでしょう。それでもいいのですか?」
「いいもなにも、俺が気にすることか?」
「さ、さすが白銀さん。懐が深いですね」
いや、だって、俺に関係ないじゃん? トップ層に追いつける可能性のあるパーティなら、ホランドたちに先にいかれてしまうことに焦りを覚えるのかもしれない。
でも、俺みたいな一般人が、トップ争いのアレコレを気にしたってしょうがないだろ?
「そもそも、他のパーティメンバーを差し置いて参加してくれるのか? 普通に6人パーティなんだろ?」
「それは問題ないと思いますよ? エリア解放レイドボスはそれだけ魅力的ですから。むしろ、1人でも参加したいという筈です。後々、パーティでの攻略にも役立ちますしね」
「ならいいけど」
さて、メンバー集めはコクテンたちに任せるとして、俺もやれることをやりますかね。




