605話 濁った池の中
「ガボガボッ!」
ルフレたちと一緒に池の中へとダイブする羽目になった俺は、とにかくパニック状態であった。
このゲームなら溺れても苦しくはならないし、HPが一瞬でなくなることだってない。水泳スキルのお陰で着衣でも重くならないし、冷静になればすぐに脱出可能なはずだった。
いや、言い訳させて? 水が濁っていて視界不良なうえ、急に水の中に放り出されたんだよ? そりゃあ慌てるし、パニックにもなるってもんだろ?
しかし、数秒ほどもがいたところで、「あ、俺って溺れないじゃん」って気が付いた。水泳スキルに加え、空気のネックレスも事前に装備している。一応水場だからね。
名称:空気のネックレス
レア度:3 品質:★9 耐久:200
効果:防御力+4、呼吸ボーナス
重量:1
この状態で溺れるのは、逆に難しいだろう。ルフレとペルカもそれが分かっているから、悪戯を決行したのかもしれない。
落ち着きを取り戻した俺は、まずはアクアラングの術を使用した。これで水中の呼吸は全く問題なくなったのだ。水中で一〇分くらいは問題なく活動できるだろう。
ただ、泥と藻による茶緑の濁りのせいで、周囲の様子は分からない。見通せるのは、せいぜい50センチ先までかな?
生き物の姿も見えないし、思いのほか深い池の底もどうなっているか分からない。
俺が確認できるのは、アイアンクローで捕まえているペルカと、ヘッドロックでお仕置き中のルフレだけだ。
それにしても、こいつら何でこんなに楽しそうなんだ? お仕置き中だぞ?
「フムー!」
「ペペーン!」
こいつらにとってはこれも触れ合いであるらしい。満面の笑顔である。
お仕置きにならないのであれば、仕方がない。
俺は二人を解放すると、ちょうど思い出した水中探査スキルを使ってみることにした。しばらく使っていなかったから、完全にその存在を忘れていたね。
ソナーのような感じでスキルが周囲を探査し、地形のデータなどを教えてくれる。池の深さは、最も深い場所で15メートルくらいはありそうだ。
モンスターはいないが、魚や貝はいる。それと、池の底に大きな物が沈んでいた。明らかに人工の何かだ。
細いフレームを組み合わせたような、機械っぽい何かである。
俺はルフレたちと共に、その謎の人工物まで近寄ってみることにした。
目の前まで近づいて鑑定してみると、それは『壊れた巨大罠』と表示される。狩猟に使う、虎バサミのようだ。サイズは5メートル以上はあるだろう。巨大なモンスター専用の罠なのかもしれないな。
俺はその罠をインベントリにしまうと、水面へと急上昇した。水から顔を出すと、アカリやポリックが心配そうに池を覗き込んでいる。
「ユートさん! 大丈夫ですか?」
「上がってこないから心配したよ」
「すまん。落とされたついでに、水中を調べてた」
一度無事を知らせるべきだったな。
アカリたちに再度頭を下げると、俺はインベントリから先程発見したアイテムを取り出した。壊れた罠を見たポリックは、嬉し気だ。
「おー、これを発見したのかい! これは洞窟の大型ボスと戦った時に、我々が使用した罠だよ!」
ボスに負けて洞窟から逃げ帰ってきたときに、誤って池に落としてしまったそうだ。この村には水中で長時間行動できる者が数人しかおらず、回収が後回しになっていたらしい。
「この罠って、ボスに通用するかな?」
「うーん、僕らの時は10秒くらいしか効果がなかったかなぁ?」
「え? 10秒も動きを止められるんですか?」
「そうだよ」
アカリが驚いた顔をしている。それは俺もだ。あれだけ巨大なレイドボスを10秒も足止めできるなら、かなり使えるアイテムと言えるだろう。
「これ、所有者は誰なんだろう?」
「もしかして、直して使うつもりかい?」
「できれば」
「だったら、猟師のヤダンのところに行くといい。彼の所有物だし、直せるのも彼だけだから」
「おー、それじゃあ後で行ってみようか?」
「そうですね!」
レイドボス戦に光明が見えてきた。この村にはレイドボスと戦うためのヒントやアイテムが色々と用意されているのかもしれない。
まあ、今は釣りだけどね。
「ルフレとペルカは貝やカニを捕まえてきてくれ」
「フム!」
「ペン!」
こいつら、俺を池へ落としておいて、満面の笑みだな。やはり、俺と楽しく遊んだという意識しかないのだろう。俺がどれだけ焦ったと思ってるんだ。まあ、可愛いから許すけどさ!
「さらに、こいつだ! 河童召喚!」
「グゲー」
よしよし、問題なく召喚できたな。
「河童、ルフレたちと一緒に水中で採取とかできる?」
「グゲ!」
「おお、可能か!」
能力に採取や釣りが表示されないので不安だったが、可能であるらしい。そりゃあ、河童が水中で行動できなけりゃ、おかしいもんな。
一応、河童の能力は、プレイヤーでも覚えることが可能な河童相撲、魂抜きの2つに加え、水中活動、皿作成という物がある。
この水中活動に、水中での採取なども含まれるのかもしれない。そして皿作成って……。まあ、その内工房で作ってもらおう。
「頼むぞ」
「グゲ!」
「ペペン!」
「フームムー!」
水中コンビ改め水中トリオは、仲良さげに池へとダイブしていった。飛び込み方が、高い橋の上から川にダイブする地元の子供のテンションである。
水辺にいるだけで楽しいんだろう。
「で、俺たちは釣りだ」
「ムム」
「モグモ」
「フマー」
どんな魚が釣れるかね?




