602話 レイドに挑むために
レイドボスを見て逃げ帰ってきた俺たちは、洞窟の入り口でグーっと伸びをしつつ体をほぐしていた。別にアバターの体がコリを覚える訳じゃないんだけど、狭い場所から出ると無意識にやっちゃうんだよね。
「いやー、気の抜けない洞窟だったな」
「ですねぇ」
久々に、緊張しっぱなしだった。しばらくは遠慮したい。
宝箱は魅力的なんだけどね……。こういった洞窟では宝箱はランダム配置で、帰りは1つも発見できなかった。行きで2つも発見できたのは、奇跡に近かったのかもしれない。
ボス部屋の扉が開くかどうかドキドキしたのも、今となっては笑い話だ。あれも、戦闘が始まるとロックされてしまうんだろう。
「それで、どうします? レイドボスなんて見つけちゃいましたけど……」
「どうすっかねぇ絶対強いよな?」
「ですねぇ。鑑定結果は、サーベラスライオン。参加可能人数は5パーティ、最大30人だそうです」
レイドボスというのは、初回撃破がメチャクチャ難しい仕様だ。1回倒されると弱体化するんだが、弱体化前はどのボスもプレイヤーを相当手こずらせる。
俺たちが参加するようなレベルのボスじゃないだろうし、これは情報をアリッサさんに売るのが吉かな?
そんなことを考えていたら、アカリが違うことを言い出した。
「仲間を集めましょう」
「うん? 仲間?」
「あのボスに挑戦するための仲間ですよ!」
「え? 挑むの?」
「そりゃあ、せっかく自分たちで見つけたんだから、挑んでみたいじゃないですか」
さすがトッププレイヤー。普通に倒すという方向に思考が向かうんだな。でも、考えてみたらこれが普通の反応なのかもしれない。
少しの間情報を秘匿して、まずは自分たちでクリアを目指す。うむ、これぞあるべき本当の攻略組の姿だろう。
まあ、俺だって情報を広めたいわけでもないし、お金には困ってない。アカリがしばらく秘匿したいなら、それもいいかもしれん。
「でも、あれだけ強そうなボスだし、フルメンバー揃えないと厳しいよな?」
「そうですね」
「アカリ、29人もあてがあるのか?」
俺の言葉に、アカリがキョトンした表情を見せる。
考えてみたら、馬鹿な質問だったな。まともな付き合いのあるフレンドが少ない俺と違って、アカリは前線組にも伝があるはずだ。戦闘職29人くらい、あっという間に集まるんだろう。
だが彼女のキョトン顔の理由は、そこではなかった。
「え? 計算間違ってませんか? 29人じゃなくて、23人ですよね?」
「定員は30人だったよな? じゃあ、29人で間違いないと思うけど」
「もしかしてユートさん、参加しないつもりなんですか?」
「はぁ? いやいや、俺があのレイドボス戦に? 無理無理!」
アカリは俺もレイドボス戦に参加するつもりだと思っていたらしい。しかも、フルパーティで。
さすがに役に立てんだろう。俺が1パーティ分枠を使い潰したら、勝てるものも勝てなくなってしまう。
俺が1人だけで参加させてもらうのも、寄生みたいで申し訳ないのだ。
そう説明すると、アカリは大反対である。
「寄生だなんて、そんなことありません! むしろ、ユートさんがいてくれる方が、助かります! 遥かに勝率が上がりますよ!」
「えー? 勝率が上がるはないだろ?」
「ユートさんとモンスちゃんたちがいるとなれば、みんな超がんばりますから! 私もモンスちゃんたちにいいとこ見せるため、気合が入っちゃいますよ!」
チアリーダー的な役割ってことか? まあ、俺が心置きなく参加するために大げさに言ってくれているんだろう。ただ、そこまで言ってくれるんなら、参加してみようかな?
「わ、分かったよ。俺も参加する」
「やった!」
「それで、メンバーはどう集める? フレンドで固めるか?」
「そうですねぇ。ユートさんには心当たり有りますか?」
「うーん。俺が呼べる中で、戦闘力が高いとなると……」
まず出てくるのは、コクテンたちとジークフリードだろう。トップ攻略者たちだからね。あとは、マルカたちに、サッキュンやムラカゲも呼べれば頼りになるだろう。
アリッサさんたちだって上位陣と言えるか? まあ、純戦闘職じゃないけど。
ああ、リキューたち3人娘に、ソーヤ君も上位陣だよね。さらに言えば、アシハナ、ふーか、タゴサック、スケガワたち生産プレイヤーだって、戦えないわけではないだろう。
アメリアやウルスラ、オイレンシュピーゲルたちテイマー陣を仲間に加えるなら、パーティ枠はあっという間に埋まるしね。
「ってな感じかな?」
「す、すごい人脈ですね!」
「え? そうか?」
「はい。さすがです」
さすがとか言われてもねぇ。知り合いが凄いだけだし。まあ、アカリにも当てがあるようだし、2人でメンバーを集めれば、結構強い布陣になるかもしれない。
しかし、気が付いたら結構フレンドが増えてるよな。始めた最初の頃はどうなることかと思ってたけど、結構ちゃんとゲームやれてるかもしんない。俺。
「どうする?」
「考えたんですけど、先にレイドボス戦に慣れてる人に相談してみませんか?」
「レイド戦に慣れてる人なんか、いるか?」
「モンスター狩猟部の部長のコクテンさんですよ。あの人たち、倒されたレイドボスにわざわざ挑んでるんですから」
「そう言えば、巨大モンスターと戦うためにゲームやってるって言ってたもんな」
このゲーム、一部エリアの解放やダンジョンのボスなどで、レイドが発生することがある。そして、新エリアの解放を阻むエリアキーパーである場合、レイドなのは最初だけだ。
正確には、初回撃破された後は、レイドボスか、パーティ単位で挑める通常ボスかを選べるようになる。まあ、普通に考えれば、誰もが通常ボスを選ぶだろう。
何せ、通常ボスの方が遥かに弱いし、突破しやすい。しかも、レイドボスだけしか落とさないアイテムというのも確認されておらず、ボス周回するにしても通常ボスを倒す方が楽なのだ。
一応、レイドボスを皆でボコる方法と、準備万端で通常ボスに挑む方法を比較するため、検証が行われたらしい。
ドロップ率や時間効率を算出し、色々な議論がなされたそうだ。そして、やはり通常ボスを周回する方がいいという結論に落ち着いた。
何が言いたいかというと、レイドボスに無暗に挑むプレイヤーはそう多くないということだ。動画の撮影や、検証目的以外で挑んでいるプレイヤーはいるけど、かなり少ない。
その数少ない中に、コクテンたちが入っているらしい。
「じゃあ、まずはコクテンに連絡してみる?」
「そうしましょう」
風邪を引いたせいで少々執筆に遅れが出ており、次回更新は1週間後とさせてください。