599話 獣人の村
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イマイチ見覚えのない天井だが、すぐに思い出す。
「あー、そう言えば獣人村でログアウトしたんだったな」
そこは、獣人村唯一の宿屋だった。昨夜、ウェリスに紹介してもらったのだ。
フィールドの中に隠れた小さな村なのに、商店やギルド、宿屋などが普通に存在していた。プレイヤーが利用することをしっかりと想定して作られているらしい。
「デビー?」
「ヤー!」
「クマ」
「おはようみんな」
起き上がろうとしたら、無理でした。リリスとクママが左右から抱き付き、ファウが俺の腹の上で寝ていたのだ。
いつの間にか、狭いベッドに潜り込んできたらしい。この感じも久々だね。
俺はモンスたちを起こして、宿から出た。チャガマの姿はない。妖怪は、ログアウト時に送還されてしまうようだった。
「アカリは――いたいた。おーい!」
「ユートさん、おはようございます」
「おはよう」
今日もアカリと一緒に行動することになっている。お互いに、寝坊せずに済んだらしい。
「モンスちゃんたちもおはよう!」
「スネー」
「――♪」
「ヒヒン!」
アカリはすでにスネコスリを召喚している。従魔を連れ歩けるようになったことが、余程嬉しいらしい。
「じゃあ、行こうか。店とギルドを回りつつ、村のマッピングでいいよな?」
「楽しそうなので異議なしです!」
ということで、皆で連れ立って獣人村を歩き回る。店の場所は聞いていないけど、どうにかなるだろう。
建物自体は100棟くらいしかないし、根気さえあれば全部回ることは難しくないのだ。
それに、地下にある村ということで、歩くだけでも楽しかった。
地下なのに、何故か明るい。これは、光苔が天井にビッシリと生えているからだ。不思議なことに、夜になると光が弱まるらしい。うちで育てている光苔と同じものだろうか? それとも別種?
どこかで手に入れたいところだ。
あと、村の中央には小さな泉が湧いており、水も簡単に手に入る。水自体は普通の水だけど、補給できるのは有難かった。
昨晩も人はいたんだが、明るくなるとさらに多くの村人たちが家から出てきている。当然ながら、村人は獣人ばかりであった。
その種族は様々で、狼、猫、熊などのよく見かける獣人だけではない。イタチやコアラ、アザラシといった珍しい種族もいた。
プレイヤーが選べるような基本種族以外にも、色々な獣人がいるんだな。人によってはああいった珍しい種族になりたがる人もいると思うが、プレイヤーには選べないのかね?
親子連れなんかを見ると、猫の父と犬の母の間に、馬の子が連れられていたりする。獣人は、生まれてくる子供の特徴がランダムという設定であるらしい。
「あ! あそこ看板出てます!」
「ほう? 鍛冶屋かな?」
看板の掲げられている建物に近寄ってみると、金物屋であった。武具類に食器に雑貨類と、村で必要になりそうな金属製品は何でも置いてあるらしい。ただ、珍しい品物はなく、町に行けば手に入る製品ばかりだ。
その後に回った店も、ほぼ同じような商品ラインナップである。商品は広く浅くという感じで、ここだけのレアアイテムはなかった。
品質は第10エリアなだけあって、それなりに高い。補給にはもってこいだろう。
ただ、面白いお店もあった。1つが、獣人専用の装備品販売店だ。様々な獣人用の武具が売っている。
狼獣人が装備した時だけ、攻撃力が上がる剣とか、猫獣人が装備した時だけ敏捷が上がる靴とか、見ているだけでも面白い。
しかも、毛皮や草木を使ったワイルド系の見た目で、獣人にさぞ似合いそうな外見だった。さすが獣人の村だね。
でも、こんな種族限定の装備なんてあったんだな。それとも、俺が知らないだけで、普通に出回ってるのか?
ハーフリング用の装備とかあったら、ぜひ欲しいね。まあ、戦闘力が上がってもあまり意味ないから、器用か知力にボーナスが付く装備がいいけど。
もう一店あった珍しい店が、スキン専門店である。アバターに被せて外見を弄るだけのアイテムだが、ここでは獣耳や毛皮装備などが売られている。やはり、獣人の村ならではなのだろう。
だいたい村を歩き回った後、俺たちは冒険者ギルドに向かうことにした。この村特有の依頼などがないかと思ったのだ。
「これとか、どうです? この村にしかないってわけではないですけど……」
「キノコ採取? でも、荒原にキノコなんかほとんど生えてないよな?」
「多分ですけど、この洞窟で採取しろってことなんじゃないですか?」
「え? ここって、先があるのか?」
「もしかしたら、ですけど。だって、荒原でキノコ20個採取って難易度高すぎじゃないですか?」
「言われてみりゃそうか」
他にも鉱石やモンスター素材の納品依頼があった。モンスターは、ダークラットにブラックバット、闇虫といった、大荒原では見かけないモンスターばかりだ。
やはり、この洞窟には先がありそうだった。
俺たちは冒険者ギルドの受付のお姉さんに、素材が採れる場所を聞いてみる。すると、あっさりと場所を教えてくれた。因みに、受付さんは鹿獣人だ。
「村の奥に、池があるのは知ってますか?」
「そう言えば、小さい池があったな」
歩いている最中に見かけたのだ。村中央の泉と違ってやや濁っていて、飲み水にはならなそうだった。ただ、魚は釣れそうだったな。
「その奥に、見えづらいけど細い道があるんです。その先にいますよ」
やはり、この洞窟の中であった。これは行ってみるしかないだろう。
「ユートさん!」
「ああ、そうだな」
アカリも乗り気だし、今日は洞窟探検になりそうだった。