表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/856

6話 東の平原

 畑に植える草を求めて俺がやってきたのは、東の平原だ。出現モンスターが弱く、初心者向けと言われるフィールドである。平原に足を踏み入れて、直ぐに緑マーカーに気づいた。茂に紛れて生えていたのは、紫色の毒々しい色をした草だ。


「毒草か」


 触り難い色だが、触っても平気だろうか。俺は恐る恐るその草を鑑定してみる。


名称:毒草 

レア度:1 品質:★1

効果:服用者に低確率で毒効果。


 触っても平気みたいだな。これ単体だと大した効果は得られないが、調合で毒薬にすると色々と使えるらしい。これも育てられたら便利そうだった。モンスターに出くわさないよう、慎重に歩く。


「お! 麻痺草だ!」


 数分後に見つけたのは、黄色い葉の、タンポポに似た草だ。これも調合に使える草の一種、麻痺草である。


名称:麻痺草 

レア度:1 品質:★1

効果:服用者に低確率で麻痺効果。


 調合、料理スキルのお蔭で、8つの調合レシピを初期から取得できている。ポーション、傷薬、携帯食、狩猟薬、毒薬、麻痺薬、蜜団子、サラダの8つだ。


 レシピがなくても自分で材料を混ぜて薬を作ることは可能だが、失敗する恐れもある。レシピからのオート作成は、品質は低いが100%成功というメリットがあった。


 どちらも一長一短だが、俺としては自分で調合して、ガンガン新レシピを開発したいところだ。その方が面白そうだし。


 次に見つけたのは、緑マーカーすら出ていない木の棒だった。このゲームは基本的にどんな物も採取可能だが、特殊効果の無い物には緑マーカーが出ない仕様である。


 これに目を付けたのは、形が杖っぽかったからだ。今の俺は無手だからな。できれば何か武器になるものが欲しかった。


「杖の代わりにならないかな?」


名称:木の棒

レア度:1 品質:★1 耐久:30

効果:攻撃力+1 耐久回復不可

重量:1


 なんと装備できてしまった。まあ、何も無いよりはましだろう。本当に気休めだが。



 30分後。


 俺は平原を駆けながら、一瞬だけ腰をかがめて足元の草をもぎ取った。これで採取品は6つめだ。


「はぁっはぁっ! また傷薬草かっ!」

「ギュウゥゥ!」

「うわっ。あぶねぇ!」


 俺に飛びかかってきたのはでかいネズミだった。モルモットとかジャンガリアンとか、夢の国のマスコットみたいな可愛い奴じゃなく、めっちゃリアルで不気味なネズミだ。ドブとかにいるタイプの。しかも中型犬サイズ。


「この! この!」

「ヂュヂュ」

「今の絶対笑っただろ! チクショウ!」


 木の棒で応戦するが、全然当たらない。アーツ? 当たらねーよ! 杖アーツ『スイング』を使っても、速いネズミにはあっさりと躱されてしまうのだ。


「雑魚モンスターのくせに! くせに!」

「ギュウゥ!」

「ぬごっ」


 野郎、腹に突進してきやがった。毛玉のモフモフした感触が残ってやがる。それでいてHPが1割ほど持っていかれた。


 俺を追い詰めているネズミは、LJO最弱の魔物と呼ばれる、初期の経験値こと牙ネズミであった。ぶっちゃけ雑魚だ。そして、その雑魚に殺されかけてる。うん、俺って雑魚以下ってことだな。


 そもそも防具は売り払ったし、体力最低の後衛職。しかもLv1。まあ、紙耐久というのは俺のためにある言葉だ。


「うりゃ!」

「キュルッ」

「当たった!」


 だが、やつのHPバーは2割くらいしか減らない。


「やっぱ逃げるしかないか!」


 テイムも全然効かないしな!


 俺は再びダッシュした。牙ネズミは追ってくるが、ジグザグに走って、なんとか的を絞らせない。それでいて視線は草を探して地面を見ていた。


 自分の往生際の悪さを褒めてやりたいね。そして牙ネズミによって殺される寸前、俺は滑り込みで草をゲットし、倒れ込んだ。ふわっと浮くような感覚とともに、始まりの広場に戻ってくる。


「……死に戻り完了」


 悔しくなんかないもんね。予定通りだし。本当に悔しくなんかないんだ! とりあえず悔しさは忘れて、最後に手に入れた草を見てみる。


名称:陽命草 

レア度:1 品質:★1

効果:ポーションの素材。満腹度1%回復。


 ポーションの素材だ。これはかなり嬉しい。すでに薬草の栽培ができることは分かっているし、この草も栽培できればポーションの量産に一歩近づく。


 ざわざわ。


 おっと、死に戻りが珍しいらしく、かなり見られていた。まあ、初日に死に戻りしてくる奴なんて、俺だって見ちゃうよ。


 俺はそそくさと広場を後にする。いいさ、これが俺のやり方だ。広場から畑までは5分ほどである。近くて便利だな。


「オルト、戻ったぞ。ほら、お土産」

「ムウム!」

「どうだ、育てられるか?」

「ム! ムームームムー」


 俺が渡したのは、毒草、麻痺草、陽命草である。それぞれ1つずつ渡してみた。すると、オルトは次々と種に変えていく。


「おお、さすがオルト」

「ムッムー」

「しかし、もう見た目は完璧に畑だな」


 俺が採取に行っていた1時間ほどで、オルトは畑を耕し終わっていた。更地だった畑には形の整った畝が作られている。


「ムーム」


 オルトが畝にチョンチョンと穴を開け、種を撒いていく。やはり芽が出るのは一瞬だ。


 普通だったら芽が出るのに1日~4日。成長に1~10日程かかるらしい。だが、この速さだったら1日で収穫まで行けちゃうんじゃないか? だとしたら、毎日収穫も夢ではない。やばい、テンション上がってきたぞ。


「オルト、畑は任せた!」

「ム!」


 俺は再び仕入れだ。次はもう少しレア度の高い物が欲しいところである。


「その前に回復アイテムを用意しないといけないよな」


 回復手段があれば、もう少し長い間探索ができるだろう。だが金もないので、自分で用意しないとならない。


 俺は採集してきた傷薬草4つを、調合スキルで傷薬にすることにした。オルトが働くのを横目に、俺は井戸から水をくむ。そして、システムの指示に従い、傷薬草と水を簡易調合セットに付いていたすり鉢に移すと、ゴリゴリと混ぜていく。


 本当に簡単な作業だ。魔法も必要ないし。数十回混ぜ合わせると、傷薬草がペースト状に変化する。そこに魔力を注ぐと、すり鉢が僅かに輝いた。そして、ポンという可愛い音とともに、傷薬が出来上がっている。


ご丁寧に、薬包に包まれていた。この紙、どこから現れた。まあいい、これで傷薬の完成だ。


名称:傷薬 

レア度:1 品質:★1

効果:HPを10回復させる。クーリングタイム10分。


 下級ポーションよりも更に下位の回復アイテム。しかも最低品質だが、俺には十分だ。


「よし、行くか」


 次に向かうのは西の森だ。東の平原と同様、初心者向けのフィールドである。


 でも、その前に情報収集だ。これを忘れて痛い目に遭ったんだし。重要だ。行くのは安心の農業ギルドなのだが、今日だけで何回来てるかな。


 ゲーム内時間は17時を回っている。モタモタしていたら夜が来てしまう。夜はモンスターが増えるのだ。しかも、群れで襲ってくるらしい。俺みたいな貧弱なボーヤ、瞬殺されてしまうだろう。しかも暗いと草も探しづらいし、良いことなんて何一つない。


「夜が来る前に探索を終えないとな」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
MMOで初日に死に戻りするのは珍しいものだっけ
[気になる点] はじめまして。いつも楽しく読ませていただいております。 前々から違和感を感じていたのですが7回ぐらい読んでから違和感の正体に気づきましたので一応報告として残しておきます。 傷薬の説明…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ