595話 荒原か山か
「お! もういるんだな!」
「ウウ~」
「なんか懐っこくて可愛いです!」
アカリとともにホームへと戻ってきた俺たちは、早速ホームへと出現した幽鬼に出迎えられていた。
幽霊の怖い感じはほとんどなく、ちょっと透けた白装束の美女って感じだ。まあ、髪の毛のせいで目は見えないから、美女かどうかはいまいちわからんけど。
顎や口や鼻の造形は整っている。きっと美人に違いない(願望)。
「ウウ~」
「バケー」
「幽鬼とオバケは仲良しか」
河童とコガッパも仲がいいみたいだったし、関係がある同士は仲が良くなる傾向にあるのだろう。
幽鬼は、河童と同じで畑仕事が可能であるらしい。ただし、河童がキュウリの世話しかできないのと同じで、幽鬼は毒草や毒キノコなど、毒がある作物オンリーだった。
幽鬼たちを引き連れて、俺とアカリは居間へと向かう。実は、アカリが作ったハーブティーを飲ませてもらうことになったのだ。
以前、俺が作ったハーブティーを飲んだことで料理スキルに興味を持ち、今では色々と自分で作っているとは聞いていた。
それに興味があると話したら、互いのハーブティーを飲み比べてみようとなったのである。
炬燵に入って一息つきながら、互いのハーブティーで自信があるものを並べていく。それを飲んで感想を言い合っていると、話題は妖怪のものへと変わっていた。
「せっかく河童さんと幽鬼さんをゲットしたんだから、残りの2種類も見つけたいところですよねぇ」
「確かに」
「多分、東と西なんでしょうね」
「河童が南、幽鬼が北だったからなぁ」
東西南北に1匹ずつと考えたら、残るは東の大山地と、西の大荒原だ。で、残っている妖怪が、サトリと玉繭である。
俺は、掛け軸を取り出してみた。サトリは、毛むくじゃらの外見だ。茶色の長毛に、長い舌がダラリと垂れた、猿と犬を併せたような姿をしている。
玉繭は、燐光のようなものを纏った、白い繭だ。中は見えないが、テフテフの外見を考えれば蝶や蛾の繭なのだろう。
「サトリ、気持ち悪いです」
「これに襲われるとか、悪夢でしかないな」
「でも、おっきな蛾もちょっと嫌ですねぇ」
「俺は、玉繭のほうがましだ」
サトリは獣系、玉繭は昆虫系と考えると、どちらがどっちにいるとか予想できないか?
そう思ったんだけど、荒野と山では、そう違いがないように思えた。
「とりあえず、どっちか行ってみませんか?」
「そうだな」
実は、この後少しだけ妖怪探しに行くことになっている。それで見つかるとは思えないけど、可能性はゼロじゃないだろうしね。ただ、もう夜なので、あまり無理はできない。
「暗い中、山登りはきつそうだし、大荒原にしておくか」
「そうですね」
ということで、俺たちは早速出かけることにした。妖怪召喚を使ってみたいので、今回はパーティ枠を1つ空けておく。
ただ、フィールドに出る前に、第10エリアの冒険者ギルドへと行きたいという。
「クエストを色々と受けておく方がお得ですからね!」
「そう言えば、冒険者ギルドのクエストはあまり受けてないんだよなぁ」
獣魔ギルドや農耕ギルドのクエストなら、結構頻繁に受けている。農耕ギルドなら、ほぼ毎日だな。
どちらも、野菜や薬草を納品する常設クエストがあるので、それを毎朝こなしてるってだけだが。
普通に売った方がはるかに高いんだけど、ギルド貢献度を稼ぐためだ。戦闘系をほとんど受けないから、納品系で少しずつ稼いでいかないとランクが上がらないのである。
そのおかげで、いつの間にかどちらのギルドもランクが10を超えていた。冒険者ギルドのランクはまだ5だけどね!
「ユートさん、決まりました?」
「ああ。選んだよ」
俺たちは、大荒原で受けられるクエストをいくつか選んでいた。フィールドへと向かう途中で、互いのクエストを見せ合う。
だが、その内容はほとんど同じだ。討伐対象も、指定された納品対象も、8割くらいは被っている。違いは、指定された数だろう。
アカリが受けた依頼の方が、撃破数や納品数が多かった。
ギルドランクによる差である。高ランクの依頼の方が難しい代わりに、報酬や貢献度が多いという訳だ。
戦闘系はアカリと一緒に戦っているだけで達成可能だし、今回は積極的に受けておいた。
その代わり、採取は俺たちも手伝うしな。まあ、アカリって採取能力凄いから、役に立てるかは分からんが。
獲得アイテム数がトップのプレイヤーに贈られる称号、『紅玉の探索者』を持っているだけあり、アカリは採取系のスキルをたくさん覚えていた。
通常の採取だけではなく、素材を探すためのスキルや、採取数が増えるスキル。さらには、採取可能距離が延びるスキルなど、採取特化型と言っても過言ではないのである。
アカリは色々な場所を巡って、探索しつつアイテムをコレクションすることが好きであるらしい。図鑑登録アイテムが、プレイヤー中でトップであるというから、筋金入りだ。
正直、妖怪探索でも役立てるか不安だが、手が多いに越したことはないだろう。
「じゃ、いきますか」
「ヒヒン!」
「ヤー!」
嘶くキャロの頭の上で、ファウがビシーッと遠くを指さす。探検家気分なのだろう。まあ、ファウが指してる方にはいかないけどね!
「キャロ、あっちだ」
「ヒン」
「ヤヤー?」
大荒原は、乾燥した大地に岩と砂、低木のブッシュなどが点在する、水気の少ない荒れた土地だ。
食料が少なく、現地調達による満腹度の回復が難しいフィールドでもあった。しかも、満腹度の減りが少し早いという特徴があるのだ。
俺たちみたいに大量に持ち込んでいれば問題ないが、初期の頃は戦闘特化型のパーティが痛い目に遭っているらしい。
あとは、地下から襲ってくる敵が多いのも特徴かな。警戒しながら歩かないと、あっさり奇襲を受けるのだ。
ただ、雪林や山と違って、足元は平らな場所が多いので、そこは楽と言えるだろう。敵への警戒は、リックとアカリがしっかりと気配を探ってくれているので、俺たちは採取をメインで行うつもりだ。
「妖怪が見つかればいいけど、どうかなぁ」
「ヤー」
「ヒーン」