594話 久々の「やっちまった」
俺たちはホームに戻る前に、妖怪召喚スキルの試し打ちをしてみることにした。
始まりの町の周辺で、敵を探す。
「あ、ユートさん! あそこに牙ネズミがいますよ!」
「あんな遠くの、よく見つけたな」
「視力を上げるスキルを取ってますからね!」
さすが紅玉の探索者だな。
牙ネズミはまだこちらに気づいていないし、この距離ならいいカモでしかないのだ。
「じゃあ、ユートさんお願いします!」
「俺が先でいいのか?」
「はい! バーンとやっちゃってください!」
「おう! 任せとけ!」
俺は意気揚々と前に出ると、右手をバッと突き出しながら叫んだ。
「妖怪召喚、スネコスリ!」
「スーネネー!」
ポワンという効果音とともに煙があがり、スネコスリが現れる。
「攻撃しろ!」
スネコスリが使える能力は、念動のみだ。どれくらいの威力なのかね?
「スネー!」
「え?」
あれ? なんで?
スネコスリがなにもせずに、消えてしまった。不可視の攻撃を放つはずなんだが、牙ネズミには何も起きていない。
それとも、攻撃が外れた?
MPを見ると、消費している。スキルを使った扱いにはなっているようだが……。
「何があったんでしょう?」
「わからん」
「他の妖怪ちゃんも召喚してみたらどうですか?」
「そ、そうだな!」
俺は再度妖怪召喚を使用してみた。今度呼び出したのは、河童である。
「河童召喚!」
「グゲー」
「攻撃を――ってなんでだぁ!」
河童さんはその場から動くことなく、スネコスリと同じように消えて行ってしまった。水術と相撲が使えると書いてあるんだが……。
水術がバフやデバフ系だったとか? でも、誰もそれっぽい状態にはなっていない。
情報を買う時に、河童の能力ももっと聞いておくんだった。妖怪召喚を取得するつもりがなかったから、情報をあまりゲットしていないのだ。
使役系のスキルをいくつも取ると、どっちつかずで両方中途半端になるって言われているから、俺もテイム以外に使うつもりはあまりなかったし。
「召喚! ブンブクチャガマ!」
「ポンポコ!」
「ぬおぉ! チャガマもかーい!」
どういうことか分からんが、妖怪召喚が機能しないようだった。攻撃どころか、何の行動もせずに送還されてしまう。
なんでだ? バグ?
「わ、私が使ってみますね」
「た、頼む」
土下座ポーズで嘆いていたら、アカリが自分が試すと言い出した。ちょっと引いてる? デカいリアクションをし過ぎたか?
でも、仕方ないじゃん? 折角取得したスキルが、使えないんだもんよ。8ポイントもしたのだから、無駄になってほしくない。
「妖怪召喚! スネコスリちゃん!」
「スネー」
「出た! 出ましたよ!」
アカリの言葉に応えて、スネコスリが登場する。あまり姿に差異は感じられない。妖怪は個体同士の個性みたいなものが薄いようだ。
あと、あの超絶くすぐり地獄を、アカリも耐えたんだな。スネコスリにくすぐられて、爆笑するアカリの姿を幻視してしまったぜ。楽しそうだね。
ただ、問題はこの後である。
「スネコスリちゃん! 攻撃よ!」
「スネネネー!」
「やたっ! 成功ですよ!」
スネコスリの念動によって、牙ネズミが吹き飛ばされた。牙ネズミ程度であれば一撃で倒せる威力があるようだ。プレイヤーの使う念動スキルよりは、攻撃力があるのかな?
不可視の攻撃なので、牽制にはちょうどいいだろう。
使えれば、だけどね!
「なんでアカリは成功してんだ?」
「うーん? なんででしょうねぇ?」
「スネネー?」
「スネコスリちゃんが答えてくれたら一番早いんですけどねぇ」
「スネ?」
「喋れませんもんねぇ」
「スネー」
アカリと見つめ合うスネコスリが、コテンと首を傾げる。めっちゃ可愛いな。
「っていうか、なんでスネコスリがまだそこにいる?」
「え? あ! そう言えばそうですね。何でですか?」
「スネ?」
アカリのスネコスリは、送還されることなくその場にとどまっていた。
「もしかして妖怪召喚って、完全召喚だけなのか?」
「あ! なるほど!」
サモナーの魔獣召喚には、モンスターを一瞬だけ呼び出して能力を単発で発動してもらう瞬間召喚と、パーティメンバーとして呼び出す完全召喚がある。
完全召喚の場合、当然ながらパーティの枠が空いていなくてはならない。
どうやら妖怪召喚は完全召喚のみのスキルであるらしかった。当然ながら、パーティ枠が空いていない俺ではうまく使えるはずがない。失敗の理由が分かったね。
「マジかー……。やっちまったなぁ」
「ごめんなさいっ! 私がスキルを取ろうなんて言ったから……!」
「いや、よく確かめもしなかったのは俺の方だ」
掲示板をチラッと見れば分かる情報だったのである。完全に俺のミスだった。
「……ボス戦とかなら使う場面もあるだろうし、大丈夫だよ」
と言いつつも、これからどうしようかね。呼び出せないんじゃスキルの熟練度も稼げないし、パーティ枠を1つ妖怪用に使うか?
「うーむ」