592話 酔いどれオルト
「ウアアアァァ!」
「きゃぁぁ!」
「くっ! 毒った!」
10分経過し、幽鬼のパターンが変化したな! 雑魚を呼び出す頻度が少しだけ増し、絶叫の回数も増えた。しかも、状態異常確率が上昇しているのだ。
さらに厄介なのが、絶叫に付与されている固定ダメージ効果だ。たった20ダメージだが、6、7回も喰らえば瀕死である。
毒と合わさると、想像以上に早くHPが削られてしまう。
ここからは、さらに回復を意識しなければならない。俺はここで、パーティメンバーを入れ替えることにした。
リリスとペルカ、リックを送還し、回復役のルフレとHPの高いクママ、オルトを召喚する。今後は、ダメージや状態異常の回復をメインで行い、クママたちには壁役に専念してもらうのだ。
そうして、幽鬼の絶叫と小型ゴーストの猛攻に耐えながら戦っていると、幽鬼にさらなる変化が現れた。
赤黒いオーラを纏いだしたのだ。
「情報通りだな!」
「そうですね! 私も頑張りますよ!」
「クックマ!」
「ムムー!」
他のボスでいう発狂モードだ。今まで絶叫以外に攻撃をしてこなかった幽鬼が、攻撃を放ち始めるらしい。
これがかなりの弾幕ゲーになるので、ある意味ここからが本番とも言えた。
「アアアアアアアア!」
「きた!」
「なんかバッチいです!」
「見た目はな!」
幽鬼が口からエクトプラズムのようなものを吐き出し、飛ばしてくる。見た目はアレっぽいというか、まんまアレだ。
アカリが嫌がるのも分かる。
しかも、こちらを僅かに追尾してくるのだ。小型ゴーストに対処しつつ、状態異常を回復し、さらに幽鬼のエクトプラズムにも対処しなければならない。
かなり大変だった。
だが、これでも河童シューティングを生き残った実績がある。この程度の弾幕で絶望しないのだ!
「アアアアア!」
「ぎゃぁ!」
「モグモ!」
ドヤってたら、普通に当たった! まじめにやるから怒らないでくれドリモ!
「ムームムー」
「うえ?」
「ムムー」
腰にドシンという衝撃を感じて振り返ると、真後ろからオルトが抱き着いてきていた。その顔は真っ赤で、頭の上から泡みたいなエフェクトが出ている。
これは、花見などで見覚えがある症状だった。
「ムー」
「酔っぱらってんのか!」
「ムム」
俺の言葉に、オルトは首を横に振る。さらにラジオ体操風の動きをして、酔ってないアピールだ。だが、足元がふらついている。
「はいはい。酔ったやつほど酔ってないって言うんだよ。これ飲もうな~」
酩酊状態のオルトに、回復アイテムを渡しておく。さすがに飲むくらいはできるだろう。
最初は毒、麻痺、出血のみだった異常も、時間を追うにつれて種類が増えてきている。初期の3種に加えて、睡眠、火傷、氷結、暗闇ときて、さらに酩酊も加わったようだ。
酩酊状態だと攻撃が上手く行かず、仲間などを攻撃してしまう可能性もある。ただ、オルトの場合は直接攻撃が下手なので、俺に攻撃が当たっても問題なかったらしい。
酩酊したのがオルトでマジ助かった。
「確か、この後は魅了も加わるんだよな?」
「浜風さんは、魅了が原因で4回も死に戻ったそうです!」
パーティメンバーと一緒に幽鬼に挑んだ浜風は、魅了での同士討ちで全滅しまくったという。
このゲーム、基本的には仲間同士ではダメージが与えられない。ギスギスにならないための仕様なのだろう。だが、ボス戦中に魅了や酩酊にかかった場合だけは、フレンドリーファイアが解除される。
だから、いつもは仲間の攻撃に全く注意を払っていないせいで、いきなり魅了状態になるとトップパーティでも大混乱に陥るらしい。
魅了を使ってくる敵はかなり珍しく、対処方法も広まっていないのだ。
攻撃力が高い仲間が大技を使ってきた場合、後衛は一撃死もあり得るだろう。いやー、恐ろしいね。
うちだと、ドリモとかが魅了されたら大惨事になりかねん。竜血覚醒使われたら、普通に俺なんか死に戻るだろう。クママもまずいな。
「入れ替えるか」
どうせ攻撃をしないんだし、ここは攻撃力の低い面子で固めてしまうことにした。
オルト、ルフレ、アイネ、ヒムカ、ファウ、キャロの面々だ。最悪、魅了状態にされたとしても、被害は最小で済むだろう。
攻撃を一切せず、逃げるだけの俺たちだから可能なやり方だ。友誼を結ばず、倒してドロップを得たいプレイヤーだったらできない戦法である。クママは、呼び出したばかりなのにすまん!
「アアア!」
「ヒームー!」
「きたな!」
ヒムカが魅了状態だ! 俺に殴りかかってくるが、当たってもほとんどダメージがない。
やはり入れ替えて良かった。そうして戦い続けていると、幽鬼が今まで以上の大声を発する。
「アアアアアアアアアアア!」
「最後の大技か! かわせ!」
「ヒヒーン!」
「フマー!」
10発ほどのエクトプラズムが乱射され、俺たちは気合を入れて防御していく。そして、誰も死に戻ることなく耐えきった直後、幽鬼の姿が変化していた。
突如、美女に変身したのだ。まあ、白装束に白い三角のやつを着けている、お岩さん風の姿だけどね。
隈の濃い鋭い目で、こっちを見ている。だが、マーカーは敵対ではないし、攻撃の手も止まっている。
『幽鬼との戦闘が終了しました』
「ふぃ~、なんとかなったか」
「お疲れ様でした~」
ダメージは大したことなかったけど、メッチャ疲れたよ。
3回目のワクチン接種の通知が来ました。
次回更新は18日の予定です。ご了承ください。