590話 今度は大雪林
生産を一段落させた俺は、色々な準備を整えてから第10エリアにやってきていた。北の大雪林に面する、緑都だ。
「さて、リアルじゃ夏なのに、俺たちはこれから雪中行軍だ」
「ペペン!」
「デビー!」
実は、メイプルからあるイベントの情報を購入したのである。その発生地が、北の大雪林であった。
「緑都の周辺ならマシだけど、大雪林の奥にいくと雪が凄いって話なんだよな」
移動が相当阻害され、騎乗していてもあまり速くは進めないそうだ。本当は流派クエストのためにもキャロに乗って戦いたいけど、ここだと無理かな?
そもそも、ギリギリの戦闘が続く第10エリアで、撃破数を稼げるとも思えないし。ここで3時間戦うよりも、始まりの町の周辺で30分戦う方がはるかに撃破数を伸ばせるだろう。
雪上戦闘などのスキルがあれば問題ないそうだが、俺だけが雪の上で戦えるようになってもね……。
そこで、今回のメンバーは雪上でも問題ない軽量級のリックに、スケートのスキルで雪の上を滑れるペルカ。飛べるファウ、リリス、アイネに、土魔術による遠距離攻撃も可能で、雪を掻き分けてガンガン移動できるパワータイプのドリモだ。
「じゃあ、目指すは大雪林の奥地にある祠。着くころには夜になるから、慎重にいこう」
「ヤヤー!」
「キキュ!」
「フマー!」
ちびっ子たちの元気がいい返事が、逆に不安だぜ。本当に分かってる? ペルカとリリスも妙に張りきってて、やらかしそうな雰囲気満々だし。
「ド、ドリモ! 頼りにしてるからな?」
「モグ」
「ドリモさーん!」
安定のサムズアップ最高っすよ!
「モグモ」
「そうだな。遊んでないで出発しないとな」
「モグ」
俺はドリモに励まされつつ、緑都を出発した。道中の雪をドリモが掻き分けてくれるおかげで、付いていく俺は非常に楽だ。
いやー、ドリモが頼りになり過ぎてツライ。
「キキュ!」
「む、敵か?」
雪の中を進んでいると、不意にリックが警戒したように鳴き声を上げる。その直後、闇の向こうから3匹の猿のようなモンスターが現れていた。
白い長毛の、子供サイズのゴリラって感じだ。
こいつらはミニイエティ。その長い腕で雪玉などを投擲して攻撃してくる、この大雪林でも最も有名なモンスターだ。
ただ、俺たちだってそれなりに強くなっている。いくら最前線だからと言って、3体程度に負ける訳はなかった。
ドリモやアイネに壁役をこなしてもらいつつ、他の皆で一斉攻撃だ。それを繰り返せば、ほとんどダメージを受けずに勝てる。
まあ、トッププレイヤーはこいつらを瞬殺するらしいけどね。
そうして、ちょっとずつ先へと進んでいくと、途中のセーフティゾーンで珍しい相手と再会を果たしていた。
「あれー。ユートさん?」
「アカリか? 久しぶりだな」
「はい! モンスちゃんたちもお久しぶりー」
「ヤヤー!」
「キキュ!」
三称号仲間の1人。紅玉の探索者の称号を持つ、ソロプレイヤーのアカリだ。雪のないセーフティゾーンにゴザを敷いて、サンドイッチを齧っている。
「素材集めですか?」
「あー、いや。ちょっと目的があってさ」
「あれ? もしかして、同じ目的ですかね? この先ですよね?」
「浜風関連か?」
「そうです!」
なんと、アカリも俺たちと同じ場所を目指していたらしい。
俺が大雪林にやってきたのは、河童に続く第10エリアの妖怪に出会うためだ。こちらも浜風が発見して、情報を早耳猫に売ったらしい。
広い上に歩きにくいこの大雪林で、妖怪を発見しちゃうんだからさすが浜風である。妖怪関係は、浜風の情報ばかりなのだ。
「事前準備はどうですか? 薬とか」
「それはバッチリだ。自分で作ってるし。まあ、戦闘が皆無じゃないから、そこで負けたら終わりだけど」
「そうですか……」
河童よりはマシなんだけど、戦闘要素があるんだよね。俺の言葉にアカリが何やら考え込んでいる。
「あの、ユートさん。チームを組みませんか?」
「え? アカリと? でも、今言ったみたいに、うちは戦闘面が不安だぞ?」
「私はその逆なんですよ。戦闘は何とかなりそうなんですけど、回復手段がちょっと不安でして」
「なるほど。だから手を組もうってことだな」
「はい。どうでしょうか?」
「俺としてはむしろありがたい」
これから向かう先で発生するイベント戦闘は、少し特殊な内容になる。敵が、直接攻撃してくることが極端に少ないのだ。
その代わり、様々な手段で状態異常を付与してくるらしい。
回復手段を大量に用意して、一定時間耐えることが、妖怪と友誼を結ぶための条件だった。
そのため、河童戦よりは俺でも突破できる可能性があるのだ。そこにアカリが加わってくれれば、突破確率は跳ね上がるだろう。
「じゃあ、お願いします! ユートさんたちは必ず守りますから!」
「俺も、できるだけサポートするよ。だから、よろしく頼む」
「はい!」
心強い仲間を手に入れた俺たちは、意気揚々と大雪林を進んだ。そして、目的の場所へと辿り着く。
「えーっと、竹林の中心部ってこの辺のはずだよな」
「少しだけ大きな竹の根元だって言ってましたよね?」
「ちょっとだけ太い竹が密集して生えてるって話だが……」
「あ、これです?」
「よく気づいたな。太いっちゃ太いが、本当に少しだぞ……。ま、とりあえずこの根元を掘り返してみるか」
「モグモ!」
ドリモが穴掘りの要領で、雪をガンガンどかしていく。すると竹の根元に、目当ての祠を発見していた。その直後、俺の前にウィンドウが現れる。
『幽鬼の掛け軸を使用しますか?』
そう言えば、初めてアカリに出会った時も、ゴーストにやられそうになってた時だったよな。不思議な縁だ。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。俺が掛け軸使っていいか?」
「はい。お願いします」
「よし! 幽鬼とバトル開始だ!」
過労とストレスで逆流性食道炎になってしまいました……。
ちょっとだけ休養をいただこうと思いますので、次回更新は4/7の予定です。