587話 メイプルの畑
「この布、効果も凄いけど光ってるなー」
「フマー」
アイネが霊草で染色した布は薄い緑色の光を放っており、非常に美しかった。光沢があるとかいうレベルじゃなくて、布自体が輝いているのだ。
「これで何か作ったら綺麗――いや、綺麗だけど、目立ちそうだな」
「フマ?」
夜の森とかで、狙われたりするんじゃなかろうか? 隠密状態でも目立つかもしれんし。そう考えると、これで装備作るのっていいことばかりじゃないかもしれない。
ぬいぐるみとか作ったら可愛いかもしれないが、それだと効果が無駄になる。やはり、何らかの装備品がいいんだけどな……。
「これで、あまり目立たない装備品って作れるか?」
「フママー?」
「やっぱできない?」
「フマ」
アイネが俺の言葉に大きく首を振ったり、コクリと頷いたりして答えてくれる。やはり、これだけ光ってる布を全く目立たないようにはできないらしい。まあ、仕方ないよな。
「だったら、せめて俺かうちの子が装備できる装備品に加工できるか?」
せっかくアイネが作ってくれた貴重な布だ。うちで使えるアイテムにしたい。すると、アイネが布を高々と掲げ、胸を反らせた。
うむ、可愛い。いや、違う。多分、任せとけってことなんだろう。
「じゃあ、装備品つくりも頼むぞ!」
「フマ!」
アイネは早速布を裁縫台の上に広げると、針でチクチクとやり始めた。霊糸を使っているようだ。
布を折ってヒダヒダを作ると、それを縫い合わせ、また折ってヒダヒダを作ると縫い合わせる。餃子の皮にヒダヒダをつける作業にちょっと似ているかも?
リアルで裁縫仕事なんか見たことがない俺からすると、凄まじい速度で作品が出来上がっていく。
「すごいなアイネ」
「フマー!」
思わず最後まで見入ってしまった。そうして出来上がったのは、布でできた大輪の花である。
「コサージュってやつか!」
「フマ!」
名称:霊布のコサージュ
レア度:5 品質:★3 耐久:380
効果:防御力+20、MaxHP+8、体力+3
装備条件:精神10以上
重量:1
結構強いんじゃないか? HP+8はおまけみたいなもんだが、体力+3は後衛には結構大きいだろう。
凄く強いわけではないが、十分使える装備品である。問題は、俺が付けるには可愛すぎる外見であるってことだろう。
だって、綺麗に光る、緑色の花形のコサージュだよ? 多分、牡丹をモチーフにしているのだろう。どう見ても女性ものです。
「フマー」
アイネがメッチャ期待した目で俺を見ている。これって、俺に装備してほしがってる?
「これ、誰に着けて欲しいとかあるか?」
「フマ!」
「ですよねー」
アイネにビシッと指さされてしまっては、逃げるわけにもいかん。有用な装備品であることは間違いないんだ。装備してやろうじゃないか!
「ど、どうだ? 似合うか?」
「フマー!」
ま、まあ、アイネが喜んでくれているんならいいや。
「さて、気を取り直して、もう1つの霊草どうすっか?」
こちらもアイネに任せてもいいんだが、できれば同じものじゃない方がいい。
「よし、アリッサさんにレシピがないか、聞いてみよう」
ただ、確認するとアリッサさんはインしていない。どうしよう。待つか?
でも、リアルで15分休憩するだけでも、ゲームの中では1時間経過する。これがお出かけでもしてようものなら、しばらく戻ってこないかもしれない。
「うーん。できれば今日中に霊草の使い道を決めたいところだが……」
いや、待てよ。いつもアリッサさんから情報を買ってたけど、他の人から買っちゃいけない理由があるわけじゃない。知らない人と情報のやり取りをする気になれず、アリッサさんとばかり情報の売り買いをしてきたが……。
早耳猫にも何人か知り合いがいる。その人たちから情報を買ってもいいんじゃないか? ルインは鍛冶専門だと言っていたが、メイプルにカルロにハイウッドと、心当たりは何人かいるのだ。
「一番可能性が高そうなのは、メイプルか?」
元々ファーマーで、霊草に関する情報を知っている可能性は高いだろう。ログイン中なので、コールをしてみる。
『はーい? もしもし? お久しぶりですー』
「今時間いいですか?」
『もちのろんですよー。どうしたんですか?』
「情報を買いたかったんだけど、アリッサさんがログアウト中でして」
『あー、なるほどー。じゃあ、私からでいいのならお売りできますよ』
おお! やった!
俺はさっそくメイプルと合流して、情報を売ってもらうことにした。
3分後。
「お邪魔しまーす」
「ムムー」
「いらっしゃいませー。私の畑にようこそー」
畑を出て少し歩けば、メイプルの畑なのだ。本当にすぐだったね。
メイプルの畑には、かなり雑多に色々な作物が植わっている。儲け度外視で、色々な実験を行っているのだろう。
「ムムー」
「ムー!」
「ム?」
「ムム!」
オルトが、メイプルさんの畑にいたノームと楽し気に遊び始める。最近は、色々な畑にノームがいるよね。
ファーマーの間にノームの有用性が広まって、テイムスキルを取得する人間が増えてきたのだ。中にはノームが複数いる畑もある。
同じノームでも微妙に髪型や顔が違うから、畑区画を歩くだけでも色んなノームが見れて楽しいんだよね。
「うちのレムレムくんが、オルトちゃんと戯れてるぅっ……! し、至高の光景がー!」