585話 流派クエストの続き
始まりの町へと戻ってきた俺は、その足で第10エリアの赤都へと転移していた。実は、大事なことを思い出したのである。
「騎乗スキルが10になったの、すっかり忘れてたよ」
「ヒン!」
「ごめんごめん」
流派クエストを受けていたのだ。
流派クエスト
内容:騎乗スキルをLv10にする
報酬:1000G
期限:なし
そもそも、キャロを仲間にしたのだって、元はこの流派クエストのためだった。ただ、新フィールドとか作物に気を取られ過ぎて、忘れてしまっていたのである。
どちらかと言えば戦闘系のクエストだし、優先順位がどうしてもね?
獣魔ギルドでサジータを呼び出してもらうと、すぐに会うことができた。
「おお! 騎乗スキルのレベルを10まで上げたんだね! 素晴らしいよ。これでクエスト完了だ!」
サジータがクエスト完了を告げながら喜んでくれる。こんな喜んでくれると、忘れてた身としてはちょっと後ろめたいな。
「あ、ありがとう」
「これで、君も正式な人馬流の一員だね」
今まではまだ流派の人間としては認められていなかったらしい。
『ユートさんに、『人馬流見習い』の称号が授与されます』
「おー」
ようやく見習い扱いだ。多分、流派クエストをこなしていくと称号もアップグレードされていくのだろう。つまり、入門して終わりじゃないってことだ。
案の定、サジータからは新たなクエストが提示されていた。
流派クエスト
内容:遠距離攻撃可能なスキルをLv20にする
報酬:1000G
期限:なし
だが、すぐに達成のアナウンスが流れて、報酬がゲットできていた。以前サジータが、攻撃手段は魔術でも構わないって言っていたしね。
水魔術がLv50なので、即達成扱いだったのだろう。
『ユートさんの所持する『人馬流見習い』の称号が、『人馬流初段』に変化します』
「おお! 凄いね! これで君も見習いの肩書が取れるし、さらに精進してくれ」
「は、はい」
やばい、感慨も何もない! むしろ、見習いの状態で色々習いたかった!
「さて、それじゃあ次の試練だ」
「わ、わかりました」
流派クエスト
内容: 騎乗したまま遠距離攻撃を使用し、モンスターを500体撃破する
報酬:10000G
期限:なし
うわー、メチャクチャ面倒なクエストだ。弱いモンスターでもいいっぽいけど、それでもかなり時間がかかるだろう。
まあ、これも期限はないみたいだし、気長に達成するか。
流派クエストを一段落させた俺は、獣魔ギルドからホームへと戻り、一息つくことにした。生産三昧の日にするつもりだったのに、色々と動き回ってしまったからな。
「ポコ」
「おー、サンキューなチャガマ」
縁側に腰かけると、チャガマがササッとお茶を出してくれる。最早、敏腕執事並みのグッドタイミングだ。
「グゲ?」
「カパ?」
「河童もきたか。タロウも」
妖怪である河童と、マスコットのコガッパであるタロウが、仲良く近寄ってきた。似た者同士、仲がいいのだろうか?
そんな仲良しコンビたちと一緒に、お茶を飲んでまったりする。
右隣の茶釜の尻尾をモフりつつ、左に座るコガッパたちを愛でた。河童もコガッパも、電動削り器に入れた鉛筆のように、キュウリを口の中に呑み込んでいくのだ。見ているだけで面白い。
日本家屋に妖怪に番茶。最高だねぇ。洋風ファンタジー世界をテーマにしたゲームで遊んでいるとは思えん。
30分ほどまったりすると、俺は工房へと籠ることにした。
「サクラ、ヒムカ。新しい琥珀だ。また頼む」
「――♪」
「ヒム!」
2人は琥珀削りが意外に好きらしく、非常にやる気である。単純作業だが、中から何が出てくるか分からないガチャっぽさが楽しいのだろう。
「で、ルフレとファウは、俺と一緒に肥料作りだ」
「フム!」
「ヤヤー!」
琥珀のことは器用な2人に任せて、俺は肥料の増産だ。元々今日の目的はそれだったからね。
「フマ!」
「お、アイネも一緒に作業するか?」
「フマー!」
工房に、アイネがやってきた。どうやら、同じ部屋で一緒に作業をしたいらしい。布をチクチクとやり始めた。
自分で作った布を、裁縫で何かの商品に加工しているようだ。
今まで、布地を作ってくれたことはある。あとは、ハンカチやマフラーなんかは、試作品が結構あったはずだ。だが、今作っているのは明らかに、立体的である。
「何作ってるんだ?」
「フーマ!」
「うーん?」
アイネが手に持った布を掲げて見せてくれるが、裁縫の知識がない俺には何を作ろうとしているのか分からない。
「フマ! フマ!」
「あー、分かった。頑張ってるのは分かったから、顔に押し付けないで!」
「フマー」
ともかく、アイネが布製品を作ろうとしているのは確かである。うちの無人販売所にアイネ印の製品が新たに加わるかもね。
「じゃ、今日はみんなで楽しく生産活動に勤しみますか」
「――♪」
「ヒム!」