583話 霊草
「色々出たな!」
「――♪」
「ヒムー!」
琥珀を削り始めて30分。
俺の前には様々な植物が並べられていた。薬草や毒草などのどこにでもある素材から、霊草などの珍しい植物まで、そのレア度はピンキリだ。
一番珍しいのは、やはり霊草だろう。赤い葉をした小ぶりなシダ植物で、これもうっすら光を放っている。品質★9の琥珀・霊草から削り出したものだ。
名前からして琥珀・霊草というだけあって、削ったらしっかりと霊草が取り出せていた。まあ、頑張ったのはサクラだけどね。
名称:筋力強化の霊草
レア度:6 品質:★1
効果:素材。
まだ詳しいことは分からないが、間違いなくいいものだろう。だって、筋力強化だよ? 絶対に攻撃力が上昇するだろう。
もしかしたら、体力や敏捷などにも影響があるかもしれない。そうだとしたら、速さやHP、防御力にも影響してくる。
いやー、今から楽しみだ。まあ、1つしかないから、株分けして育てないと実験はできんけどね。
「で、もう1つの霊草が、筋力低下か」
「――!」
名称:筋力低下の霊草
レア度:6 品質:★1
効果:素材。
相手に使用することでデバフが発動するタイプの素材だろう。バフだけではなかったらしい。しかも、驚く点はそこだけではない。
なんと、この霊草は琥珀・霊草の方ではなく、品質が★6の琥珀・植物の方から出たのである。そもそも、琥珀・霊草は1つしか持っていなかったからね。
あとは、浄化草が1つある。うちの畑で採れたものではなく、琥珀から出てきたのだ。
低確率でレアな植物が出るらしい。まさに琥珀ガチャである。
「うーむ。これは、琥珀を大量に仕入れて、削るべきか?」
金ならあるのだ! 必要とあれば成金ムーブも辞さないぜ。
いや、待てよ。そもそも、俺と同じことを試した奴はいないのだろうか? だって、琥珀の中に植物が入っているのは、誰だって見れば分かる。
イベント終わりに琥珀を入手していた人は多いだろうし、持ち帰った人も多いはずだ。アリッサさんから情報を買ってみようかな? もしかしたら、他の霊草の情報もあるかもしれん。
いや、その前にお隣さんに聞いてみるか。
俺は霊草をオルトに渡して後のことをお願いすると、一度畑を出た。そして、目の前の畑へと向かう。
「おーい! タゴサック!」
「うん? ユート、何か用か?」
トップファーマーのタゴサックの畑だ。さっき挨拶をしたから、いるのは分かっていた。
「聞きたいことがあってさ。れいそ――」
「ちょっと待った! 落ち着いて聞くから、俺の畑入ってこいよ」
「うん? そうか?」
「おう! ヤバイ情報が流出したらまずいしな」
「え? 何?」
「いや、俺も最近ハーブティーに自信が出てきたから、ユートに試してもらおうと思ってな」
「へー、そりゃあ楽しみだ」
実際、タゴサックが出してくれたハーブティーはかなり美味しかった。色々なブレンドを試しているんだろう。
来た目的を忘れそうになるほどだったのだ。
「それで、どうした?」
「おっと。そうだった。実は作物のことで聞きたいことがあって。霊草って聞いたことあるか? こういう奴なんだが」
俺はスクショやデータを見せつつ、タゴサックに霊草について尋ねてみた。すると、俺が表示したスクショを睨むように見つつ、その動きが止まる。
「おいおいおいおい……」
「琥珀を削って取り出したんだけど」
「おいー! サラッと爆弾投下すんな! ていうか、超重要な情報聞いちまったよ! た、対価どうすりゃいいんだ! つーか、中に招き入れておいてよかったー!」
タゴサック曰く、琥珀を削った者は多くいるが、低品質の琥珀から霊草が手に入ったなどという話は聞いていないという。そして、高品質の琥珀から入手できた霊草の存在は知っていても、育てることができたという話も聞いていないらしい。
「え? マジ?」
「おう。植物が入った琥珀なんて、好きそうなやつらがいるだろ? 検証班でも色々と実験が進んでて、取り出すところまでは成功してるようだぜ」
★6の琥珀・植物はほぼ失敗せずに成功する方法が確立しているそうだ。ただ、出てくる植物は低レアのものばかりで、有用な植物が入っているなどとは聞いていないらしい。
「霊草に浄化草なんて未知の植物が出るなら、絶対にもっと話題になっているはずだ」
「うーん。じゃあ、レアな草が出たのは奇跡的な確率ってことか」
「もしくはユートだけが何か特殊な条件を満たしたかだろう」
俺だけの条件? サクラが削ったってことだが……。モンスが削るってことが条件だったら、テイマーに有利過ぎる。でも、木工・上級が理由だとは思えん。プレイヤーにも所持者は多いはずだし。
「本当に分からん」
「浄化草も問題だが、やはり霊草がヤバい。俺の知り合いのファーマーでも霊草を育てようとしたやつがいたけど、失敗したって聞いてるぞ」
「うーん。うちの場合もまだ成功してはいないけど……。ただ、オルトは育てられるって言ってたんだよな」
オルトがあれだけ自信満々で、失敗するとは思えない。それとも、ついにオルトでも失敗する作物の登場か?
「霊草を育てる方法が分かったら、教えてくれよ。対価は払うからよ。まあ、その前に今回の情報の対価払わんとな……」
「いやいや、いらないって」
「だが、結構凄い情報だったぞ?」
「これで対価もらったら、当たり屋の所業じゃんか!」
自分で勝手に情報を喋っておいて対価もらうとか、酷すぎるだろう。ただ、タゴサックも気が済まないっていうことで、今日飲ませてもらったハーブティーをちょっと貰って、手打ちということになったのであった。
「とりあえず、霊草をちゃんと育てられるのか、オルトにもう一度確認しておこうかね」
で、琥珀を大量購入して、サクラに削ってもらおう。霊草をゲットしたのはサクラだし、何か特殊な要因があるのかもしれん。