582話 琥珀削り
畑を確認した俺は一度ホームに戻ろうとしたんだが、オルトはまだ俺を連れて行きたい場所があるようだった。
案内された先には、これまた見たことのない植物が生えている。
「ああ! オークションで落札した謎の種か!」
「ムム!」
謎の種って成長にメチャクチャ時間かかると思ってたから、まさかもう収穫できるとは思ってもいなかった。
「しかし、綺麗な植物だな。光ってるぞ」
「ムー」
その植物が放つ光が、俺とオルトを青白く照らす。見た目は、細い葉の先端に小さな丸い実をつけたシダ植物って感じだろうか。その実が光を放っているのだ。
新たな蛍光塗料の素材になるか?
ただ、鑑定してみると塗料どころの話ではなさそうだった。
名称:魔力強化の霊草
レア度:6 品質:★1
効果:素材。
なんと、レア度が6だ。精霊の実などと同じランクの素材なのだ。しかも、名前が魔力強化である。
どう考えても有用だ。効果がどれほどなのかは分からないが、魔力を一時的に上昇させるような効果があるのなら誰でも欲しがるはずだった。
「これは凄いな! オルト、育てられるか?」
「ム」
魔化肥料などが必要かと思ったが、普通の畑でも問題なく育てられるらしい。これを量産できたら、色々な実験ができるぞ!
「これも頼んだぞ」
「ムム!」
これで本当に、新作物は打ち止めらしい。俺は今度こそホームに戻って、生産作業に勤しもうとした。だが、不意に思い出してしまう。
「霊草って、他に持ってたな」
俺が思い出したのは、以前のイベントで手に入れていた、琥珀である。
俺はアンモライトなどと一緒に飾ってある、琥珀を確認してみた。
名称:琥珀・霊草
レア度:4 品質:★9
効果:素材。観賞用。
名称:琥珀・植物
レア度:4 品質:★6
効果:素材。観賞用。
「植物が入ってるのは2種類か」
これって、上手く中の植物だけ取り出したら、株分けできるんじゃなかろうか? 霊草入りは1つしかないけど、植物入りはいくつかある。
インテリアとして確保していたけど、作物が増える可能性があるとなれば別だ。
とりあえず植物入りで試してみて、いけそうなら霊草にチャレンジかな?
「肥料の前に、こっちを試そう」
問題は、どうやって琥珀を割るかだよな。彫刻刀? ノミ?
「ヒム?」
「――?」
「お? 2人とも、もう相撲はいいのか?」
「ヒム!」
「――!」
居間の炬燵の上に琥珀を出して唸っていると、ヒムカとサクラがやってきた。そして、琥珀を不思議そうに見つめている。
「実は、中に入ってる植物を取り出せないかと思ってさ。2人は取り出す方法分かるか?」
ヒムカとサクラは、うちでも特に器用な2人だ。それに、鍛冶と木工という、削ったり叩いたりが得意な二人でもある。
植物を取り出す方法を相談すると、なんと2人とも自信有り気に頷いたではないか。
「え? やれんの?」
「ヒム」
「――」
ヒムカもサクラも、琥珀をどうにかできるようだ。だったら、とりあえず植物の方を取り出してみるか。
俺はヒムカたちを連れて地下の工房へと向かい、そこで作業を見せてもらうことにした。
「じゃあ、これで頼むな」
「ヒムム!」
「――!」
同時に作業に取り掛かる2人だが、やっていることはほとんど同じだった。ヒムカは金属細工用の金槌とノミで、サクラは木工用の彫刻刀やノミで、琥珀をガリガリと削っている。
専用道具は、違う作業には使えない。同じように見える道具でも、鍛冶用のノミと木工用のノミでは全く違う道具なのだ。
だが、琥珀はどちらでも削れている。考えてみると、琥珀は樹液や樹脂の化石だったっけか? つまり、植物でもあり、鉱物でもあるということなんだろう。
削り終わりは、サクラの方がやや早かった。木工・上級と、緑の手が仕事をしたのだろう。ただ、ヒムカも20秒ほどしか遅れていないし、十分早かった。
「――♪」
「ヒム!」
「お疲れ様。えーっと、サクラの方が薬草で、ヒムカの方が麻痺草か」
琥珀に入っている時には小さなシダ植物風だったのだが、取り出すと違う形に変化するようだ。
どちらも品質が低いし、あえて琥珀を壊してまで欲しいアイテムではない。
ただ、同じものが出ないって言うのがね……。もしかしたら、凄いレアな草が入っているかもと思うと、ちょっと宝探し感があった。
インテリア用にいくつか残して、削っちゃおうかな? 俺も練習しておきたいし。
「サクラにお手本見せてもらったし、俺も挑戦してみっか!」
「――♪」
サクラが胸の前で両拳を握り締め「がんばれー」とでもいうかのように、俺の作業を見つめている。
ヒムカが琥珀削りに再度チャレンジする横で、俺も琥珀にノミを当てた。
「なんか、やれそうな気がする!」
「――!」
まあ、失敗したけどね! やってみると意外に難しく、琥珀に意図しない大きなヒビが入って砕けてしまったのである。
それで一気に薬草を取り出せたらよかったが、琥珀と一緒に中の草まで砕けてしまったのだった。
「この作業は、サクラとヒムカに任せようかな」
「――!」
「ヒム!」