581話 久々の実験成功
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「うーん。いい朝だ!」
マスコットやモンスたちがワチャワチャと遊ぶ庭に、遠くでそよぐ稲穂。そして、俺の目の前で手を挙げている河童。
「グッゲー」
「やっぱ来たか」
スネコスリの時もそうだったし、今回は浜風の情報も聞いていた。確実に、ホームに姿を現すだろうと思っていたのだ。
妖怪がホームに現れる条件は、やはり好感度であるらしい。今回の場合、河童を傷つけずに友誼を結んだ結果、最初から好感度が高いようだった。
もしかしたら、他にも友誼を結ぶ方法があり、そちらは好感度が低いのかもしれない。
それに、俺の場合は妖怪懐柔というスキルも所持している。これは妖怪の好感度が上がりやすくなるというスキルなので、河童の好感度はかなり高いと思われた。
「なんか、雰囲気変わったな」
「グゲ?」
戦闘時のような不気味さが消え、むしろ愛嬌がある感じになっている。一番の違いは目だろう。
昨晩の鋭い感じとは違い、クリっとした大きな目をしているのだ。髪の毛はキューティクルツヤツヤだし、鉤爪もちょっと丸みがある。
声もドスが効いた感じがなくなり、間抜け可愛い感じになっていた。ちょっとアニメのキャラっぽい感じだ。
「とりあえずこれをどうぞ」
「グッゲー!」
キュウリを渡してあげると、嬉し気にシャクシャクと齧り始める。日本家屋らしい仲間は、久々かもしれん。
因みに、河童は畑仕事ができるそうだ。キュウリ限定で。うちの場合、庭のキュウリを任せてみればいいだろう。
オルトたちに比べて育成能力が高いか低いか分からないので、まずは少しからなのだ。
キュウリを食べ終わった河童は、モンスたちとの遊びの輪に戻っている。今は相撲をしているようだ。
「ヒムー!」
「グゲー!」
あれ、大丈夫か? 負けたら尻子玉取るとかないよね?
「ヒッムー?」
「グッゲゲー!」
ほっ。大丈夫っぽい。
河童に投げ飛ばされたヒムカは、楽しげな顔で再び挑みかかっている。あくまでも遊びの範疇ってことなんだろう。
河童が馴染んでいることを確認した俺は、畑へと向かうことにした。
「ボス周回と見習い騎士の森で、素材は大量に集めてきたからな。今日は肥料を作りまくって、畑に撒くかね」
今日の予定を考えていると、オルトが駆け寄ってくるのが見える。珍しく、本気のダッシュだ。
そんなに俺に会いたかったのかと思ったら、違っていた。
「ムーム! ムムー!」
「ちょ、オルトさん!?」
ローブをめっちゃ引っ張ってくる。この反応は、畑に何らかの異変があったということだろう。
俺はオルトの後について、畑に向かった。
「おー! なんか、畑に変なの生えてるじゃんか!」
「ムー!」
微炎草の中に、青っぽい花が咲いた不思議な植物が混じっていた。それを見ている内に思い出す。
「属性肥料と栄養剤を撒いた奴だな」
「ム!」
実験が成功したらしい。俺は謎植物に近づいて、鑑定をしてみた。すると、氷結草と表示される。
「そう言えば、微炎草に水属性の肥料と栄養剤を撒いたんだよな?」
火と水で、氷? 納得できるようなできないような?
「変化してるのは1つだけだな」
肥料と栄養剤は1セットで畑の4分の1ほどをカバーできる。だが、氷結草になっているのは1株だけであった。
確定で変異する訳ではなく、ごく低確率でってことなんだろう。
名称:氷結草
レア度:4 品質:★1
効果:素材
「よし、これは株分けして育てるぞ。頼んでいいか?」
「ムー?」
「え? だめ? もしかしてここでは育たないとか?」
「ムム」
「うん? 育てるのはオーケー? ああ、品質が最低にしかならないってことか?」
「ム」
詳しく話を聞くと、どうやら普通の畑では★1の物しか育たないらしい。しかも水属性肥料と栄養剤が必要になるようだった。
とは言え、珍しいものであることは間違いない。とりあえず、畑の一角を使って少しずつ育ててもらうことにした。
「ふむ。ここで氷結草が生み出されたってことは、他のところでもか?」
「ム」
「マジか! 案内してくれ!」
「ムムー!」
変異を起こしたのは、氷結草だけではなかった。あの日、実験してみた草のほとんどが、新たな作物に生まれ変わっていたのだ。
空気草に風属性を与えたものが、呼吸草。暴風草に土属性で、砂漠草。薬草に聖属性で、浄化草に変異している。
アリッサさんから聞いていたものもあった。なるほど、属性肥料の可能性が凄まじ過ぎるね。
「失敗したのはランタンカボチャだけか」
「ムー」
ランタンカボチャに火属性を与えたんだが、こちらには全く変化がなかった。既に品質が最高なため、本当に変化なしである。
野菜に使っても意味がないのか?
とりあえず今日は肥料と栄養剤を量産するから、それを色々と撒きまくってみよう。
「畑を一つ実験用に空ける。ハーブの畑には何も植えずにいておいてくれるか?」
「ムム!」
最近は冒険しっぱなしだったからな。たまには生産だけの日もいいだろう。