575話 ジークフリードと叫ぶ猫耳
「さて、まずは宿屋の情報からですかね?」
「へ、平然とまずはって言うわね……。き、聞かせてもらおうじゃない」
「第5エリアの裏路地なんですが、そこで面白い宿を見つけまして」
「宿? どこらへん?」
「えーっと、この辺ですねぇ」
地図を見せて場所を説明すると、アリッサさんは自分でも地図を表示して確認する。
「うーん、私も知らないわね。完全に初耳だわ。何か、特殊な条件が必要なのかしら?」
「多分、トリガーになってるのは騎乗スキルだと思うんですよね」
馬房付きの宿屋だし、それくらいしかないだろう。ただ、アリッサさんは他の可能性も考えたらしい。
「あとは、騎乗モンスを連れているかどうかも関係するかもね。騎乗スキルだけなら、持っているプレイヤーはいるもの。それに加えてモンスの好感度とかも関係してるかも。じゃないと、今まで全く発見されなかった理由が分からないわ」
普通のプレイヤーの場合、俺みたいに町中で騎乗モンスを連れ歩くことは少ない。毎回のように連れているなんて、俺以外だとジークフリードくらいしか見たことがないのだ。
しかも好感度が必要となると、確かに発見されないのも無理はなかった。
もしくは、発見できていても路地裏の宿なんて普通は使わない。見逃がしているプレイヤーも多いのかもしれなかった。
「それにしても、騎乗モンスの好感度が上がるかもしれない宿ね……。それだけでもかなり凄い情報だわ」
「で、そこでクエストの切っ掛けが発生したわけですよ」
「クエストではなく?」
「はい」
俺は宿の少女からお願いを聞かされ、屋敷への紹介状を貰ったこと。そこで、孫を探してほしいと頼まれ、見習い騎士の森への立ち入り許可証を貰ったということを語った。
「え? 許可証? マ、マジで?」
「マジっす。多分、流派クエストとは違うルートだと思います」
「それは凄いわねっ! さ、さすがユート君! この情報は高く売れるわよ!」
「喜んでもらえて嬉しいです」
「それで、ジークの情報は――」
「あ、まだあります」
「え……? あ、そうなの?」
「はい。本命はこっちなんで」
「ほ、本命っ?!」
アリッサさんの声が裏返った。ふふふ、驚いてくれてるな!
いや、もしかして驚いてるフリか? 考えてみたら、ちょっとわざとらしい感じだもんな。さすがアリッサさん。こっちを乗せるのが上手いね。
「ふっふっふ、そうなのですよ。本命です」
「本命……!」
「君たち、楽しそうだね」
「き、聞かせてもらおうじゃない! ユート君の本命とやらをっ!」
「いいでしょう!」
「アリッサ君って、こんなにリアクションがよかったんだねぇ」
何故か苦笑いのジークフリードを横目に、フィールドでの情報を語っていった。スクショなども併せて、キュートホースの事や、ボスの事を解説する。
「これ、スクショです」
「キュートホース……! この可愛さは絶対に欲しがる人がいるわ!」
「そうでしょう。で、これが――」
「疾駆の紋章! ま、まさかこんな――」
「しかもこれが――」
「ボスが――」
「こんな――」
5分ほどかけて全ての情報を説明し終えると、アリッサさんがいきなり崩れ落ちた。
「ぐふっ……」
「ア、アリッサさん?」
「はぁ……はぁ……」
カウンターにもたれかかるようにして、床にぺたんと座り込むアリッサさん。そして、肩を上下させながら、荒い息を吐いている。なぜか、全力疾走でもしたかのような状態だ。
「だ、大丈夫っすか?」
「はぁ……はぁ……っ。こ、今回は、今回こそは、叫ばずに済んだわ……!」
アリッサさんは猫耳を震わせながら野太い声で「ウオォォォ!」と叫んでいる。
「おめでとうございます?」
「ふふふふ、ギリギリだったけど、今回は私の勝ちよっ!」
結構凄い情報のつもりだったけど、今回は「うみゃー」お預けか。焦らしますなぁ。
アリッサさんは息を整え、再び口を開く。
「駄馬の強化アイテムとか……。一部のプレイヤーが何を犠牲にしてでも、見習い騎士の森を目指すでしょうね」
ジークフリードやムラカゲのような、馬好きプレイヤーは見習い騎士の森に行きたがるだろう。
「そして紋章……。ユート君が転移陣の出入りを繰り返してるって噂になってたけど、キュートホースの検証を行っていたのねぇ」
「え? 噂?」
「ええ。あなた、転移門に入ってはすぐに戻ってきて、また入るって行為を何度も繰り返してたでしょ? 凄く目立ってたわよ」
そ、そりゃそうだよな。うちのモンスたちはちょっと有名だし、知ってる人は知っている。その主が、転移門で奇行を繰り返していれば、目立ってしまうだろう。
やべー、全然気にしてなかった!
「へ、変な奴って言われてますかね?」
「検証のために、出入りを繰り返すプレイヤーはいるから、そこまでは言われてないわ。ただ、目立ってただけかしらね」
「そ、それならまあいいか……」
色んな人に、「あいつ、なんか変なことやってるぜ? 不名誉称号持ちは、やっぱ変なんだな! はははは!」みたいなこと言われてないなら、気にせんとこう。
「じゃあ、次は僕の情報だね」
「……そ、そうだったわね。まだあんたがいたのよね。でも、山場は乗り切ったわ……! きなさい!」
「あ、ああ。アリッサ君、なんかいつもと違うねぇ」
ジークフリードが戸惑いながらも、疾駆の紋章を使ってハイヨーを進化させたという情報を語り出す。疾駆スキルの能力や、ハイヨーのステータスも併せて提示しているな。
それを見たアリッサさんが、ワナワナと震え出す。
「ア、アリッサ君? どうしたんだい?」
「う――」
「アリッサ君?」
「うみゃぁっ! 被ったぁぁ! 二人がかりはずるいぃぃぃ!」
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ペルカ登場巻なので、ペンギン好きの方は是非チェックしてみてください。