573話 馬の成長
「ど、どんな進化先があるんだ?」
「進化先は1つだけだね。ナイトホースから、ノーブルホースになるようだ」
騎士の馬から、高貴な馬? なんか、弱くなりそうだけど……。
だが、ジークフリードは迷うことなく、ハイヨーを進化させていた。うちのお馬鹿コンビが再び目をやられてみんなを苦笑いさせた後、そこには驚きの馬が姿を現す。
「ほほう。いいじゃないか。ハイヨー、かっこよくなったねぇ」
「ブヒヒン!」
かっこよくなったというか……。顔の造形は変わらず、少しだけ小顔になっただろう。そして、体は顔とは逆に少し大きくなった。サラブレッドとまではいかないが、スラッとした足が速そうな細マッチョ体形である。
この体この顔は、強烈な違和感だ。俺、何も知らずに道ですれ違ったら、絶対に二度見すると思う。
まあ、主であるジークフリードが喜んでるからいいけどさ。
それに、能力もかなり上昇していた。駄馬からの進化ルートはあまり強くないという話だったが、普通に単体でも戦えるレベルになったようだ。
移動用のペット枠から、戦闘用のテイムモンスター枠に変わったってことなんだろう。
勿論、今まで通り騎乗も可能だ。
ムラカゲ、物欲しそうな顔しながらこっち見んな! もう自分だけでもここに来れるんだから、自力で頑張れ!
「ハイヨーがどれだけ強くなったのか! この後の戦いが楽しみだよ!」
「ブヒヒン!」
元々強かったジークフリードだが、ハイヨーの進化によってさらに強くなったのだろう。スキルもいくつか変化しているらしく、攻撃力はかなり増したそうだ。
「じゃあ、そろそろ出発しましょうか。ジークフリードさんの新技も気になりますし」
「……うらやましいでござる」
「モグ」
「モ、モグラさん。慰めてくれるのでござるか?」
「モグモ」
「モグラさーん!」
「はいはい。もう行くぞ」
その後、俺たちは夜の見習い騎士の森を探索していった。
敵が強くなって出現する数も増えたが、コクテンたちにとっては獲物が増えただけだった。うちのパーティだけだったら負ける可能性がある相手も、彼らには楽な相手だ。浅層と同じように、道中で雑談する余裕すらあった。
素材も大量だし、本当に有益な時間だったね。
それに、中層の地図も完成した。ただ、明らかにボス部屋と思われる場所があったので、そこだけは踏み込んでいない。
コクテンたちは戦ってみたいようだったが、俺みたいな足手纏いがいては、勝てるものも勝てないだろう。そう説得して、なんとか即突撃は回避した。
ただ、現状ではここにいるメンバーしかこのフィールドには入れないし、結局は俺が手伝うしかないんだよな……。
とりあえず、時間も時間ということで、まずはお屋敷に戻ることにした。そこで見習い騎士の森へと入るための条件を聞き出そうという訳だ。
宿屋から屋敷を経由して、お孫さん探索を引き受けるルートが他の人でも使えると思うが、もっと簡単なルートがあるかもしれない。
情報収集が不発に終わったら仕方ない。俺がフィールドに招待できる残り1枠で知人をさらに連れてきて、俺たちとフルチームを組んでもらって挑むしかないかな?
お爺さんに再び面会し、コクテンの仲間を見習い騎士の森に連れてくる方法がないか聞いたんだが、その答えは芳しくはなかった。
「今のお主らに頼みたいことはないのう。じゃが、そちらの二人であれば、いくつか依頼したいことはあるぞ」
「僕たちですか?」
「拙者らということは、やはり騎乗スキルが影響しているのでござろうなぁ」
依頼の内容は、見習い騎士の森での採取や素材集めだった。やはり騎乗スキルが必要なんだろう。
ただ、ムラカゲやジークフリードが俺みたいにお爺さんに認められて、他人を招待できるようになれば、それでコクテンの仲間たちを招待してもらってもいいんじゃないか?
いや、ムラカゲはクラマスだし、クランメンバー優先か? でも、ジークフリードはソロだし、報酬と引き換えに頼んでもいいかもしれない。
俺たちはこれで暇しようとしたんだが、向こうの話はこれで終わりではなかった。
「お主ら、馬を持っておるのに、見習い騎士の森で騎獣を仲間としたようじゃのう」
「え? 拙者たちでござるか?」
「僕も?」
俺がキャロをテイムした時には、こんな会話にはならなかった。お爺さんの言葉通り、馬を2頭テイムしている状態だと発生するイベントかな?
「どちらも使うというのは難しかろう? そこで、お主らが新たに捕まえたモンスターを、儂に預けんか?」
お爺さんの話を詳しく聞くと、預けるという言葉を使っているが、実質は売るって感じになるらしい。
所有権を手放す代わりに、特殊なアイテムをくれるそうだ。それが、駄馬系統の馬を成長させる、特殊な道具であるという。
つまり、今まで可愛がってきた駄馬を、キュートホース並みの能力に引き上げてくれるアイテムであるようだった。
ムラカゲが言っていた、駄馬の成長イベントである。
ああ、因みにここで馬を預けた場合、今後二度と見習い騎士の森でテイムはできなくなるという。何度もイベントを繰り返して、駄馬を超強化とかは無理ってことだな。
ムラカゲもジークフリードも、迷わずにアイテムとの交換を決めていた。やはり、今まで育ててきた馬たちに、愛着があるんだろう。
「おお! これが強化アイテム!」
「魔法馬の証となってるね」
貰ったアイテムは、一見すると金属のプレートに見えた。装備品なのかと思ったら、使用するタイプの魔法アイテムらしい。
紋章の下位互換とかかもしれないな。進化してしまったジークフリードのハイヨーに使用できるのかと思ったが、問題ないらしい。
あくまでも、今までの姿形のままで、ステータスや成長度、スキルが強化されるアイテムだったようだ。
「これで、黒風もメイン戦力でござるな!」
「ヒヒン!」
「ハイヨーがもっと強くなるなんて、こんなに嬉しいことはないよ」
「ブヒン!」