572話 紋章の効果
ムーンポニーと遊んでいると、お別れはキュートホースと同じであった。軽い輝きを放った後は、広場から立ち去ってしまったのだ。
素材がもらえるのも同じだ。ただ、こっちは月小馬の柔毛である。ムーンポニーの毛ってことなんだろう。
紋章はゲットならずだ。元々ムーンポニーからはもらえないのか、条件を満たしていないのか。もう少し繰り返してみないと分からないな。
「やっぱテイムはできなかったか」
「そうでござるなぁ」
「もうキュートホースを手に入れたからね」
「キュートホース手放せば、ムーンポニーをテイムできるけど、どうする?」
「いや、いいよ。僕にはハイヨーがいるから」
「拙者も黒風から乗り換えるつもりはござらん」
思いがけないムーンポニーとの出会いの後、コクテンが口を開いた。
「この後どうします?」
「どうって?」
「まだ余裕があるなら、探索を続けませんか? せっかく戦力も揃っていることですし」
「僕は賛成かな。自分でここに来る時にも、地図があれば便利だし」
「拙者もでござる」
おぉ……。みんな元気だね。普通にこの後も探索を続けるつもりであるらしい。
俺、もう夜だし、帰る気でいたんだが……。でも、自分たちだけでここを探索するのは難しいし、この機会は有効に生かさねば。
「分かった。俺も一緒に行かせてもらうよ。ただ、ボス戦でメンバー入れ替えちまったし、あんま探索向きじゃないかも?」
現在はドリモ、クママ、リック、ペルカ、ヒムカ、アイネである。回復役もいないし、魔術攻撃もちょっと弱い。
まあ、コクテンたちがいればどうにでもなるだろうが。
「ただ、少し試したいことがあるんだ。コクテン君、5分ほどでいいから、休憩してもいいかい?」
「勿論ですよ」
「拙者も異論はござらぬ」
ということで、ボスと戦った広場で少し休んでいくことにした。
他にすることもないので、回復速度上昇効果があるお茶菓子と、ハーブティーを皆に振舞う。みんな美味しそうに食べてくれるので、振舞った甲斐があるのだ。
「相変わらず美味しいですね」
「美味いっす」
「薬草茶も素晴らしいでござるな」
薬草茶? ああ、ハーブティーのことか。忍者してるねぇ。さっきはドロップって言ってた気もするけど。
「そういえば、ジークフリードがやりたいことって何なんだ?」
「実は、これを使ってみようと思ってね」
「おいおい、それって紋章じゃんか」
ジークフリードがインベントリから取り出したのは、先程入手したばかりの激レアアイテム。疾駆の紋章であった。
赤みがかった金色の六角形のプレートだ。掌サイズで、中央には駆ける馬の意匠が彫られている。
「それが噂の紋章でござるか」
「綺麗ですね」
「色々な使い方ができるっていうけど、それをどうするんだ?」
ほぼすべての生産活動で使用可能で、自分やモンスに使用すればスキルが習得可能であるらしい。
紋章って名前のスキルもあるが、それとは別物である。紋章ごとに、習得可能スキルは違うそうだ。
「もしかして使うのか?」
「ああ、そのつもりさ。僕はメインで生産をしないから、取っておいてもあまり意味ないしね」
「思い切りがいいな!」
「ユート君に言われるとくすぐったいね。君の方がよっぽど思い切りいいと思うがね?」
「そうか?」
「そうさ。まあ、今回は僕がお先ってことで」
そう言って笑ったジークフリードは、ハイヨーを撫でながら迷うことなくウィンドウをポチッと押した。
その直後、エンブレムが光り輝く。さすが激レアアイテムなだけあり、演出が派手だ。いや、だいたいこんなもんか? ただ、久々に不意打ちで眩しいのである。
「グマー!」
「ギキュー!」
うちのお馬鹿コンビが目を押さえている。一番光が苦手そうなドリモは、全く眩しそうではなかった。あの小さいサングラスが、ちゃんと遮光の役目を果たしているらしい。
「モグモ」
「キュー……」
「クマー……」
ドリモはヤレヤレってした後、転げ回っていたクママたちを落ち着かせ、立ち上がらせてやっていた。
「な、なんかすまないね」
「こいつらが迂闊なだけだから」
興味があるからって、近寄り過ぎなんだよ。俺たちはちょっと目を細めるくらいで済んでいるんだからな。
「ふーむ。何か変わったか?」
「ヒヒン?」
ハイヨーのことをじっくり観察してみるが、どこかが変わったようには見えない。いつも通りのブサ――愛嬌のある顔だ。
「外見的には特に変わっていないようだね。ただ、スキルが追加されているようだ」
「へー? どんなスキルだ?」
「そのまま、『疾駆』というスキルだよ」
聞いたことがないスキルである。どうやら、走行速度や跳躍力を上昇させ、突撃の威力を上昇させる効果があるようだ。
「あと、進化できるようになっているね」
「え? 進化? アイテム使っただけでか?」
「うん。レベルなどを無視して進化可能になったようだ」
それは聞き捨てならないんだが。
紋章ならなんでもいいのか? いや、早耳猫で教えてもらった情報に、進化に関するものはなかった。
ハイヨーだけなのか、疾駆の紋章だからなのか。それとも、色々な条件が重なった結果?
ただ、見習い騎士の森で手に入れた紋章で、馬が進化。これが全くの無関係とは思えなかった。
「ど、どんな進化先があるんだ?」
レビューをいただきました。ありがとうございます。
安心して読めるという部分は重要視している部分ですので、褒めていただき本当に嬉しいです。
業の深いキャラは、書いていて楽しいのですよ。キャラが立ってると言っていただけて、ホッとしてますwww