57話 アカリの理由
アカリに助けられてから10分後。
俺たちは無事にセーフティーゾーンに辿りついていた。注連縄が掛けられた大木の周辺がセーフティーゾーンらしい。
フレンドコードは既に交換済みである。
道中、オルト達の可愛さに抗いきれず、モンス達を撫でたいという理由だけでフレンド登録してほしいと頼まれたのだ。
アシハナと言いアカリと言い、それでいいのか? 俺としては強いプレイヤーとフレンドになれるんだから構わないんだけどさ。
「本当に助かった。ありがとう」
「いえ、私も可愛い子達と触れ合えて大満足ですから!」
そう言って笑うアカリの手は、サクラと繋がれている。肩にはリックを乗せて、本当に満足そうにニコニコと笑っていた。
「改めて、ソードレンジャーのアカリです」
「テイマーのユートです。さっきも気になったんだけど、ソードレンジャーなんていう職業あった?」
一応、初期の職業は全部頭に入ってるんだが、ソードレンジャーというのは聞いたことが無かった。
ランダムだけで登場するレア職業とかなのか?
そう質問したら、なんと2次職らしい。
レンジャーの職業レベルが20に到達すると、転職できるんだとか。
「普通だとミドルレンジャーっていう職業になるんですけど、剣スキルを上げてたらソードレンジャーっていう2次職が派生したんです」
という事は、テイマーもいくつかに派生したりするのか? 掲示板で調べよう。まあ、まだ10レベルの俺がジョブチェンジできるのは遥か先だけどね。
ソードレンジャーは、レンジャーの探索能力を持った剣士というイメージらしい。ただ、剣士のような重装備が身に着けられないので、前に出るのが危険なんだとか。
「これでも結構有名なんですよ? 紅玉の探索者とは私の事です」
「え? それって、あの称号の?」
「はい」
マジっすか! 俺の白銀の先駆者と同じく3称号とか呼ばれてるあの称号か?
初めて出会ったな。ドヤ顔で胸を張るアカリは確かに赤い髪だ。
そんなことを考えていたら、アカリが顎に手を当てて何やら思案顔をしている。
「銀髪のテイマー。ノームを連れてる……」
あ、これって――。
「もしかして白銀の先駆者さん?」
「ど、どうしてそう思った?」
「だって、噂通りですし」
「そ、そう?」
「はい! ぜひお会いしたかったんです!」
「え? なんで?」
「だって、折角3人しかいないシークレット称号持ち同士なんですよ? どんな人か興味あるじゃないですか」
俺は全然興味なかったけど……。どうせ馬鹿にされるだけだと思ってたし。まあ、貰ったのが不名誉称号じゃなければアカリみたいに思ってたかもしれないが。
「それで、ユートさんが白銀の先駆者さんなんですか?」
「……まあ、ね」
「やっぱり! 感激です!」
馬鹿にする様子もなく、めっちゃ喜んでくれている。いやー、こんなニコニコされたらこっちも嬉しくなっちゃうね。
「ふふ」
「どうした?」
「いえ、3称号を貰った人は、全員ソロプレイヤーなんだなーと思って」
「もしかして、もう1人の紫髪の冒険者とも知り合い?」
「はい。ジークフリードさんという騎士のロールプレイをしている人です」
騎士プレイとは、また面白そうな人じゃないか。俺もちょっと興味出てきた。でも、こんなあっさりと個人情報を教えちゃうのか?
「ジークさんは辻ヒーローをいつもやってるんですが、去り際に自分の名前を相手に教えますし、すっごい有名ですよ?」
そういうタイプか。面白そうだけど、あまりお近づきにはなりたくないかもしれんな。
「ユートさんはこの後どうするんです?」
「え? 一旦ログアウトして、朝になったら町に戻るつもりだけど?」
「なるほど」
「まあ、とりあえずはここを利用しながら薬草とか採取して、ポーションを作らなきゃならんけど」
「あ、手持ちがないんですか?」
「サヴェージドッグ戦で使い果たしちゃって」
「そうですか……。私もそんな沢山は持ってないんですよね。この辺ならそんなに苦戦しないし」
2次職とは言え、ソロで第2エリアを動き回れるのは凄いな。俺なんかとはプレイヤースキルが違うんだろう。
「町まで一緒に行けたら良いんですけど、目的をまだ果たしてないんですよね」
「目的?」
「はい。実は防具を作るための素材を集めるために、サヴェージドッグを周回してまして」
「周回って、全身サヴェージドッグの装備にするつもりなのか?」
頭、体、足、盾、インナー、アクセサリ。それらを作るには相当数の素材が必要だろうな。
だが、どうやらそうではないらしい。
「私が欲しいのは足装備だけなんです。サヴェージドッグ・レガースという装備なんですが、それを作るのにサヴェージドッグの尻尾というレアドロップが4つも必要なんですよ」
「ボスのレアドロップが4つ? そりゃあ難易度高いな」
「そうなんです。他のプレイヤーから買い取ったりもして、何とか3つまでは集めたんですが……。あと1つを中々落としてくれなくて。もう40回くらい戦ってます」
「40回? ソロで?」
「はい。おかげでサヴェージドッグと戦うのが上手くなっちゃって」
そりゃあ40回も戦ってればな。
「サヴェージドッグをソロで倒せるとか、凄いな。俺には絶対無理だ」
「えー、でも慣れてくれば簡単ですよ? HPが減れば減る程動きが速くなりますけど、その分防御力も下がりますし。咆哮後は結構危険だけど、咆哮対策してればむしろチャンスですから。咆哮中に大技を叩き込めば倒せることもあったりしますよ」
「さすが、40回も戦っただけあるな」
「ユートさんもサヴェージドッグを倒したんでしょ? 尻尾、持ってません?」
言われてから気付いたが、そういえばサヴェージドッグのドロップを確認してなかったな。セーフティゾーンに辿りつくことしか考えてなかったよ。
まあ、持ってるわけないだろうけど。初勝利でレアドロップが手に入ってたら、誰も苦労はしない。
「……あるな」
「え? 持ってるんですか?」
「あ、ああ」
アカリが驚いた顔で聞いてくる。俺も驚いたよ。インベントリを見たら、サヴェージドッグの毛皮×2、サヴェージドッグの牙、サヴェージドッグの爪と共に、サヴェージドッグの尻尾が入っていたのだ。
「あの~、それを譲ってもらったりとか……?」
うーん。どうするか。
「勿論、色も付けます!」
「じゃあさ、値段は適正価格で良いから、始まりの町まで一緒に戻ってくれないか?」
「護衛ってことですね! いいですよ!」
よし、これで何とか町まで戻れそうだ。
「じゃあ、一旦ログアウトして、夜明けとともにログインで良いですか?」
「俺は構わないけど、時間大丈夫か?」
「平気ですよ! 高校は夏休みですから」
どうやら学生さんだったみたいだな。
 




