561話 フォレストウルフ
謎の咆哮の主から逃げつつ、迎え撃てそうな場所を探す俺たち。
道中では、今まで出現していたダッシュバードなどの雑魚エネミーの姿がない。最初は運がいいと思ったが、明らかにそういう仕様なのだろう。
やはり、何らかのイベントが始まっている。
ただ、通常の敵は出現せずとも、イベントエネミーが明らかに距離を詰めてきていた。
「ガウガウ!」
「ガルルルッ!」
メチャクチャ獰猛さを感じさせる咆哮と共に、後方の茂みがガサガサと激しく揺れている。これ以上逃げ続けるのは、難しいだろう。
俺は、目の前に現れたやや狭めの広場で敵を迎え撃つことにした。
「よし! ここで戦う! ドリモ、先頭で頼む!」
「モグモ!」
俺たちが布陣したのは、中層の入り口にほど近い広場であった。本当はこの先にある、もっと大きい広場まではいきたかったんだがな。
ただ、ここも足元はしっかりしているし、戦いにくいということはないだろう。
まあ、それは相手にとってもだけど、狭い道で奇襲を食らうよりはマシだ。
「ファウはバフの後は敵にデバフ! リックとリリスは左右の警戒、アイネは後ろの見張りだ! キャロは攻撃よりも回避重視で動いてくれ!」
「ヒヒン!」
回避はキャロに任せれば、俺は攻撃に専念できる。水魔術を詠唱しながら、敵が出現するのを待つ。
緊張しながら、杖を構えること数秒。
「きた!」
「ガガウ!」
やはり狼であった。仔牛ほどもある体格のいい狼が3体。茂みから飛び出し、こちらを睨んで唸り声を上げている。
体毛の色は明るい緑で、名前はフォレストウルフとなっていた。
「やるぞ!」
「モグモ!」
「デビー!」
奴らが様子見をしている隙に先制攻撃を叩き込む。
「アクア・ショック!」
「ギャン!」
「グルル!」
ちっ! 範囲魔術で2体同時に狙ったのに、普通に逃げられた! こっちの魔術の発動を察知して、跳び退ったのだ。
ただ、当たった方は一撃で倒せた。攻撃力が低いアクア・ショックで一撃ってことは、HPや防御力は低いらしい。
回避重視なんだろうな。
「モグモ~!」
「ギャン!」
ドリモはさすがだな。狼の動きを先読みして、キッチリ一撃で仕留めている。
残り1匹。俺が指示する前に、モンスたちが倒していた。リックが相手の注意を惹きつけ、リリスが横からグサッといったのだ。
リリスの槍がフォレストウルフのHPを削り飛ばす。ドリモよりは攻撃力が低いはずだが、それでも1発か。想像以上にフォレストウルフたちは脆かった。
こんなに弱いんだったら、あの場で戦ってもよかった――。
「グオオォォ!」
「ガルルル!」
「うわ! またきた!」
狼は3匹だけじゃなかったらしい。茂みを突き破って、次々とフォレストウルフが駆け寄ってくる。
「ガウ!」
「やっべ!」
いつの間にか回り込まれていたらしく、後ろからもフォレストウルフが襲ってきていた。接近戦が雑魚な俺が、素早い狼の攻撃を躱せるわけもない。
杖で受けることができたらラッキーくらいに思いつつ、何とか即死は避けようと身を捩る。カスあたりになってくれ!
「フマ!」
「た、助かったぞアイネ!」
「フマー!」
ただ、狼の牙が俺に届く直前、アイネが割って入ってくれていた。手に持った針で、狼を弾き飛ばす。
そこに俺の魔術が炸裂して消滅させるが、これで危機が去ったわけではなかった。
新たに現れた3匹が再び倒される中、さらに5匹の狼が広場に飛び込んでくる。これは、もしかして無限湧きか?
だとすると、いちいち攻撃魔術で1匹ずつ倒すのは効率が悪いかもしれない。俺は狼たちの足を止めるべく、樹魔術を発動した。
「ハルシネイトマッシュ!」
俺が術を使った直後、周囲にキノコが生えてくる。紫地に白い斑点が浮かぶ、毒を持ってなきゃおかしいってくらい毒々しいキノコだ。
そして、キノコが一斉に緑色の胞子を噴出した。
いくら動きが速くても、周辺を覆い尽くす霧のような胞子は躱せまい!
「ギャオォ!」
「ガルゥゥ?」
案の定、狼たちは胞子を浴びて、悲鳴を上げた。ただ、ダメージは一切ない。これは、一定確率で相手を混乱状態に陥らせる、状態異常付与の魔術なのだ。
「混乱したのは2匹か。意外と効くな」
状態異常への耐性が低いのかもしれない。1匹でも混乱させれば楽になると思っただけなんだがな。
俺が感心している間にも、混乱狼たちが仲間に襲い掛かった。都合よく、それぞれが混乱していない狼へと向かって行く。
これで、完全に狼たちが足を止めた。最後は混乱狼ごと攻撃して、撃破する。少々酷い気もするが、これも俺たちが生き延びるためなのだ。
狼は全て倒れたが、新たに湧く様子はない。
「これは勝ったか?」
思わずフラグっぽいセリフを呟いてしまったのが悪かったのか? 狼の群れが途切れたかと思った直後、ついに奴が姿を現す。
「ウルルルルルゥゥゥゥ!」
「デ、デケェ!」
一番最初に聞いた、巨大な咆哮の主だろう。それは、体高が木立ほどもある、巨大な緑の狼であった。小型の狼たちが若葉を思わせる綺麗な色なのに対し、巨大狼は暗い樹海をイメージさせるような深い緑であった。
名前は、フォレストウルフチーフ。どう見ても、強い。弱いはずがない。
その金色の瞳が、俺たちを捉えている。
「ウゥゥ……グルアァァァ!」
「くるぞ!」