560話 中層の敵
俺たちはお孫さんを探しながら、さらに進んだ。
「失敗したな~。お孫さんの名前とか、全然聞いてなかったぜ……」
あの緊張するお屋敷を早く出たすぎて、情報を詳しく聞かずに出発してしまったのである。分かっていることは、金髪で男。あとは馬を探しにきているという情報だけだった。
「キキュ~……」
「ヤヤ~……」
俺の両肩から、チビーズの溜め息が聞こえる。同じタイミングで溜め息吐きやがって!
「お、お前らだって、お爺さんの迫力にビビッてただろ!」
「ヒヒュー」
「下手な口笛でごまかされんぞ」
ゲームの中でもお偉いさんのオーラに緊張するなんて……。小市民過ぎる自分が恨めしい!
そもそも早く退出したかった理由には、おまえらが悪戯をし始めないか気が気じゃなかったってのもあるんだからな!
「名前とか外見の特徴とか性格を、もう少し聞いておくべきだった」
「モグ」
「慰めてくれるのかドリモ?」
「モグモ」
そんなこんなでワチャワチャと探索を続けていくと、見覚えのある場所にやってきた。
「キャロを仲間にした広場まできちゃったな」
「ヒン!」
見習い騎士の森の浅層では、一番深い場所になる。ここからさらに先へ進むと、中層になるだろう。
そこで、気づいた。
「そういえば、お孫さんが向かったのは浅層だとは言われてないよな?」
馬って言われたからキュートホースの事だと思ってたけど……。違うのか? 中層や深層には、違う馬がいる可能性もあった。
だとしたら、この辺をいくら探しても無意味ということになるだろう。
「仕方ない。もっと進もう。ちょっと怖いが、お孫さんを見つけなきゃ依頼失敗だしな」
「モグモ」
「そ、そうだよな。ドリモたちがいてくれるし、大丈夫だよな?」
「モグ」
ドリモが頼もしい! 悩んでいた俺の背中を、物理的にも精神的にも押してくれるのだ。
「よし! いくぞみんな!」
「ヤヤー!」
「デビー!」
ということで足を踏み入れた中層は、見た目からして浅層とは違っていた。非常に薄暗く、見通しが悪いのだ。ただ、ムーンポニーの生息地としては悪くない。
やはり、キャロは中層のモンスってことなのかね?
「じゃ、どんな敵が出るか分からないし、ゆっくり進もう。ドリモ、先頭は頼む」
「モグ!」
とりあえずキャロからも下りて、ドリモさんの後ろに隠れながら慎重に森を歩く。すると、すぐに敵と遭遇した。
「クケェェ!」
「ダッシュバード? いや、毛の色が違うな!」
出現したのは2匹のダチョウ型モンスターだ。一見するとダッシュバードに似ているが、体毛の色が全く違っている。
1体は純白で、もう1体は灰色に黒斑という配色だった。ダッシュバードの進化種が出現するのか? 少し奥にきただけで、急に強くなりすぎじゃね?
ビビリながら鑑定してみたんだが、意外な結果が映し出されていた。
「あれ? ダッシュバードじゃん」
出現したモンスターは、浅層と同じダッシュバードであった。体毛の色が違うだけ?
ただ、戦闘をしてみると、こちらの方が微妙に強い。ドリモの一撃では倒せなかったのだ。多分、レベルが高いのだろう。
「ドロップ品は同じか……。品質は高いけど、労力に見合うとは言い難いな」
その後、俺たちはお孫さんを探しながら中層を徘徊したが、やはり出現するモンスターは浅層と同じだった。ただ、レベルが高いらしく、こちらに出現する方が強い。
それに、騎乗可能モンスであるダッシュバード、ブランチディアーは、その体色に様々なバリエーションがあった。
個性を出したいなら、中層で捕まえろってことなのだろう。
「敵の強さは第8エリアくらいか?」
探索できないほどではないが、無傷無消耗ではいられない。余裕をもってマッピングするとまではいかなかった。
それでも、なんとか中層の半分ほどまで進んだ時である。
「ルオオオォォォォン!」
「うわっ! な、なんだぁ?」
「ヒン?」
突如として、凄まじい咆哮が森の奥から聞こえていた。まだ遠くにいるようだが、俺たちを狙っているのか?
逃げるかどうか迷っていると、再び咆哮が響く。
「ウオオォオォォン!」
「アオオオォォン!」
最初の咆哮と比べると、迫力は少々劣る気がする。しかし、距離は相当近かった。しかも、複数だ。狼系な気がするが、今までこの森で狼系のモンスターには遭遇していない。
敵の種類も数も分からないのは、かなり怖いのである。
ど、どうしよう。戦って勝てるか? それとも、安全優先で逃げるべき? いや、これがイベントに関係あるんなら、勝利しないとお孫さんを発見できないかもしれん。
「ええい! 仕方ない! 広い場所まで戻って、迎え撃つぞ!」
「デビ!」
「モグモ!」
「ファウたちは敵が近づいてきてないか、警戒してくれ!」
「ヤヤ!」
「フマ!」
ボスなのかイベントモンスターなのかは分からないけど、あんま強くないといいな~。
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