559話 キュートホースとふれあい
白い仔馬は、野菜を食べ終わると周囲をキョロキョロと見回し始めた。そして、俺たちが自分を見ていることに気づいたのだろう。
キャロとよく似たつぶらな瞳で、俺たちをジッと見つめてくる。デフォルメタイプの可愛い外見だ。
木漏れ日を浴びているせいで真っ白いと思ってたけど、近づくとやや黄みがかっており、純白よりもややクリーム色なのだと分かった。聞いていた通りである。
「や、野菜美味しかった? て、敵じゃないぞ? 本当だ」
「ヒン!」
「ヒン?」
「ヒヒン!」
「ヒン!」
おお、やっぱりキャロなら同じ馬同士、意思疎通ができるっぽいぞ! キュートホースが笑顔になると、トコトコとこちらに近づいてくるではないか!
「ヒヒン!」
「な、撫でていいのか?」
「ヒン!」
「可愛い!」
「ヒヒン!」
「分かってるって、キャロも可愛いぞ!」
キュートホースは俺の目の前まで来ると、その場で俺に頭を擦り寄せた。その頭を撫でると、フワフワの鬣が気持ちいい。
キュートホースも撫でられるのが嫌いではないのか、目を細めていた。そのまま撫でていると、キャロが反対側に寄ってくる。そして、自分も撫でろという風に、ローブの端をハムハムと咥えた。
俺が空いている手でキャロを撫でてやると、こちらも気持ちよさそうだ。体を左右に揺すって、声を上げている。
両手に花――いや、両手に馬だ。左右の手で、白と黒の馬を撫でる。似ているようで微妙に違う毛の感触が、気持ち良過ぎだった。
「野菜、もっと食うか?」
「ヒン!」
その後、俺たちはキュートホースと楽しい時間を過ごした。俺は頭だけではなく首や背中、足なんかを撫でさせてもらい、うちの子たちはキュートホースに乗って遊んだ。
20分くらいは、キャッキャしていたかな?
「ちょ、キュートホースさん? どうしちゃったの?」
「ヒヒーン!」
突如として、キュートホースが立ち上がっていた。しかも、その体が薄く光っている。
輝きを放ちながら、大きく嘶くキュートホース。何が起きてる?
「ヒン」
「あれ? キュートホースさん、行っちゃうの?」
「ヒヒーン」
光が収まるとともに、この触れ合いイベントも終了ってことなんだろう。スクッと立ち上がったキュートホースは、最後に皆に鼻面を軽く押し付けると、尻尾を振って木立の向こうへと去っていった。
多分、キャロがいなかった場合、ここでキュートホースをテイムできていたんだろう。
「もう終わりかぁ……。にしても、光っただけか?」
触れ合いの終わりを告げるにしては、かなり派手だった。ただ光るだけ? それとも、何か変化があるか?
ステータスを確認しても、変化はない。ただ、インベントリを確認した時、驚くべきアイテムが入っていた。
「疾駆の紋章だと!」
なんと、超レアアイテム、紋章をゲットできていたのだ。ボスの激レアアイテムだと思ったのだが、こんな入手方法もあるのか!
「こ、これは、すんごい情報なんじゃないか? 絶対高く売れるだろ!」
紋章は未だに激レアアイテムであるはずだ。それを確実にゲットできる可能性があるとなれば、誰だってこの情報を欲しがるはず。つまり、超高額!
「情報売りに行こう! いや、でも、もう少し検証するか?」
人で溢れかえってしまう前に、何周かしておきたい。紋章なんて、いくつあってもいいからね。
そう思って俺はキュートホース探しを再開した。再び幻影を見つけるため、見習い騎士の森を歩き回る。
「見つからないなぁ。みんな、空から見てもダメか?」
「フマー」
「デビー……」
「ヤヤ!」
アイネたちに上空から捜索してもらったが、飛行三人衆でも新たな幻影を見つけることができなかった。これだけ歩いても見つからないってことは、1回しか遭遇できないとか?
とりあえず入り口に戻って、一度この森から出てみることにした。広場に転移してから、即森へと転移し直す。
これでモンスターの出現テーブル的な物がリセットされるといいんだけどな。
あまり期待はせずに探索を始めると、なんとすぐに幻影を発見することに成功していた。一度出て入り直すことで、リセットした扱いになったようだ。
その後は、さっきと同じ流れである。
俺が準備した野菜をキュートホースが美味しく頂き、その後は楽しい触れ合いの時間だ。アイネやリリスがその背に乗せてもらい、リックやファウが尻尾にじゃれつく。俺も、モフモフの毛皮を堪能した。
そして、名残惜しくも楽しみな、お別れの時間がやってくる。
キュートホースが光を放ち、去っていったのだが……。
「うーん。紋章ないな」
インベントリに入っていたのは、仔馬の柔毛というアイテムだった。どうやら、必ず紋章がもらえるわけではないらしい。
初回のみという可能性もあるだろう。これは、もう少し情報が欲しいな。
その後、俺は見習い騎士の森に何度も出入りし、キュートホースとの触れ合いイベントを繰り返した。
その結果、紋章は最初の1つだけで、あとはキュートホースの素材しか手に入らなかったのである。やはり紋章は、初回のみのボーナスだったのだろう。
「残念だけど、1つゲットできただけでも十分だって思わなきゃな」
それに、キュートホースとは心行くまで遊べたし、満足なのだ。
「さて、キュートホースの毛皮も堪能したし、そろそろ帰るか!」
「ヒン!」
「ヤー!」
俺と同じように満足げなモンスたちと一緒に、森の出口を目指す。だが、そんな俺を引き留めたのは、何故か呆れ顔のドリモだった。
「モグモ!」
「そんな強く俺のローブ引っ張って、どうしたんだドリモ?」
「モグ」
「森の奥がどうかし――あ!」
そうだった。俺たちのメインの目的は、キュートホースじゃなかったっ!
「お孫さん、探してるんだった!」
「モグモ……」