558話 白い仔馬
より細かく探索するため、進むペースを落として見習い騎士の森に分け入っていく。
「お孫さーん。どこですかー?」
「ヒヒーン」
そうやって草木をかき分けていたら、俺はある違和感に気づいた。なんか、数メートル先にある木立、ちょっと揺れてない?
木立っていうのは風で揺れるものなんだけど、そういう意味じゃないのだ。
まるで映像を投射したスクリーンそのものが揺れているかのような、不自然な揺れだった。デジタル的なとでも言おうか?
「えーっと……キャロ、あれ見えるか?」
「ヒン」
「キキュ!」
「リックも分かるか」
俺だけが違和感を覚えているわけじゃないらしい。幻術とかそういうものなんだろう。
森の中に出現した、不自然な幻影っぽいもの。キャロの透明化とは違うが、姿を隠すという方向性は一緒だ。
これは、見つけちゃったんじゃないか?
「どうするべきだ?」
「ヒン?」
キャロを見ると、つぶらな瞳で俺を見上げてくる。この子をテイムできたのは、下手に敵対せず、好物であるニンジンを食べさせてあげたからだろう。
つまり、無理に幻術を破ろうとしたら、逃げられてしまうかもしれない。
「とりあえず、好物で友好を示すとするか」
俺はインベントリから取り出した野菜を、幻影の前にソッと置いた。ニンジン、カボチャだけではなく、葉野菜なども大盤振る舞いだ。
「これ以上は近づかず、待つぞ」
「デビ」
「ヤー!」
キャロの時はこちらから近づいたので、今回もどうしようか迷った。しかし、下手に近づこうとすると、幻影を突き抜けたり、破壊することになるかもしれない。
それが敵対行動だと思われたら、最悪だ。キャロの時は何も知らないから大胆に行動できたけど、今回はもう少し慎重にいこうと思う。
「じゃ、俺たちはここで休憩だ」
「モグ」
「フマー!」
木立の間にゴザを敷くと、皆で食事をしながらまったりとする。俺はフレッシュハーブティーを飲みながら、クッキーを口にした。
モンスたちもおやつを食べながら、ゴザの上で寝そべっている。リリスとか、うつ伏せに寝かされたヌイグルミにしか見えん。
いつしかファウがゆったりとした音楽を奏で始め、本気で眠くなりそうだ。敵も弱いし、いよいよハイキングみたいになってきたな。
ファウが弾くお馴染みの曲を聴きながら、ふと思い出す。
そう言えば、音楽系のプレイヤーのお店がちょっとずつ増えてきたって話だよな。実際、骨董品探しの最中、オルゴールや楽譜を売る店を見かけたのだ。
もうファウのレパートリーは何周したかも分からないくらい、聞き過ぎてしまった。飽きたわけじゃないけど、また新しい曲を覚えてもらうのもありかもしれない。
楽譜を仕入れれば、新曲を憶えられる。特殊な効果のある楽曲に関しては、スキルレベルなどで習得可能数の上限が変化するらしい。
ただ、効果のない曲に関しては、100曲までは無制限。スキルレベルなどの縛りもなく、楽譜を使えば習得できるらしい。それ以上覚えさせるには、課金などで上限をアップさせる必要があると聞いている。
中には、リアルのバンドとタイアップして楽曲を楽譜化したものなどもあるそうなので、BGM代わりに通常曲の楽譜を購入してみようかな?
音楽猛者たちは自作の曲を売ったりもしているらしいし、好みの曲を探してみるのも面白そうだ。
骨董品探しと並行してみようかな?
ファウのリュートに聞き惚れていると、俺のローブがグイッと引っ張られた。
「キュー!」
「モグモ!」
リックとドリモが、左右から引っ張っている。
「どうし――出たのか!」
「デビ!」
「フマ!」
「す、すまん。ちょっと興奮し過ぎた」
「ヤヤー」
思わず大きな声を出して振り返ったら、リリスとアイネに怒られた。まさかこいつらにシーッてやられるとは……。ファウはいつの間にかリュート演奏を止めて、ヤレヤレって感じで首を振ってるし。
くっ、俺に非があるから、怒れん。俺はそっと木立から向こうを覗いた。
すると、期待通りの光景が広がっている。
白い仔馬が、ニンジンを齧っていたのだ。間違いなく、キュートホースであった。一見するとキャロを白くしただけに見えるが、その額には黄色い円形のマークがあった。
ムーンポニーが月だとすると、キュートホースは太陽属性? 幻影は、光の屈折やら蜃気楼やらで、説明ができそうだし。
キュートホースは一心不乱に野菜を貪っている。ここまで美味しそうに食べてもらうと、生産者冥利に尽きるのだ。
にしても、ここからどうすればいいだろう。
近寄って平気か? それとも、食べ終わるのを待つ?
一応、姿は確認できたし、誘き出す方法も何となく分かった。戦闘になってしまっても問題ないんだが……。
ここまできたら、あの毛並みの撫で心地をぜひ確認してみたい。今後、テイムできるチャンスがこないかもしれないし、キュートホースと触れ合える機会は貴重だろう。
「よし、もうちょっと待ってみよう。あの子が食べ終わったら、友好的にいくぞ。キャロは、敵じゃないよーってあの子に教えてあげてくれ」
「ヒン?」
無理かな? 同じ馬同士、意思疎通はできない感じ? まあ、とりあえず少し攻撃されたとしても、我慢して受け止めるぞ。こちらが敵ではない、怖くないと教えるのだ。
題して、ナウ〇カ作戦である!