557話 お孫さん探し
見習い騎士の森へと転移すると、以前とは様相が違っていた。前に来たときは、小さい広場に小屋が一つあるだけの場所だった。
だが、今回転移してきた場所は、以前よりも数段大きい。
転移時に選択が可能で、以前の広場が休憩所。こちらが入り口広場というらしい。
「あるのは雑貨屋と鍛冶屋か」
雑貨屋では回復アイテムだけではなく、魔物除けの薬や、食料なども売っていた。ニンジンやカボチャって、もしかしてここで捕まえることが可能なモンスの好物か?
鍛冶屋のラインナップは、普通の店と変わらない。ただ、ここでは騎乗用の鞍や手綱の取り扱いがあった。俺はもうジークフリードから譲ってもらったけど、騎乗モンスを入手したてなら役に立つ店だろう。
「じゃあ、いくか! キャロ、頼むぞ」
「ヒヒン!」
今日は最初からキャロに乗っていく。
騎乗する場合、キャロは少しずつスタミナを消耗するし、お腹が減る速度も上昇する。自然回復もしなくなるし、いいことばかりではないのだ。
そのため、普通は乗りっぱなしにするのではなく、探索中は降りて進み、戦闘中は乗るという感じにしていた。
ジークフリードなんかはソロなので、普通のフィールドでも乗りっぱなしらしいけどね。うちの場合だと、他のモンスを置き去りにしてしまうので、探索中に乗るのは無駄が多いのだ。
それでも、わずか数日で俺の騎乗スキルのレベルは9まで上昇していた。町中などで少し乗ったりはしたけど、やはりボス周回が大きかったのだろう。
消耗の関係で、キャロは全部に参加したわけではない。水場で機動力が削がれてしまう大渦獣戦なんかは、参加してないしね。
それでも、格上のボスとの戦い中に騎乗していたおかげで、短時間でスキルが育っていた。もう少しで、目標のスキルレベル10だ。
今日は戦闘中以外でも騎乗して、一気にレベルアップを狙うことにした。
「それじゃ、しゅっぱーつ!」
「ヒヒーン!」
キャロが元気いっぱいに嘶くが、ダッシュはできんのだよ。皆で一緒に進むからな。
「ヒン!」
「キキュー!」
「ヤー!」
並足でも、皆で歩くのは楽しいらしい。頭の上のチビーズと一緒に声を上げながら、スキップのように歩いている。
「うーん、お孫さんはいないな」
「デビー」
「モグ」
皆で目的のお子さんを探すけど、全然発見できなかった。もっと奥に行っちゃってるのか?
道中に出現するモンスターを倒しながら、見習い騎士の森を進む。以前に完成させた地図を見ながら、怪しそうな場所を考える。
「いくつか広場っぽい場所があるから、とりあえずそこを巡ってみようかね」
そう思って最初の広場にやってきたんだが、そこには誰もいなかった。半径10メートルくらいの原っぱでは、低い草が風に揺られているだけだ。
「うーん、人影はなし。何か手掛かりはないか? みんな、探してくれ」
「フマー!」
「キキュー!」
うちの子たちがワーッと広場に散っていく。宝探し感覚なんだろう。
俺も広場を探索してみたが、手掛かりはなかった。モンスたちもしょんぼりした感じで戻ってくる。
結局、お孫さんの手掛かりは見つからなかった。それに、もうひとつの目的の相手も発見ならずである。
そう。今回、俺には依頼以外に、もうひとつ目的があった。それは、前回発見できなかった、キュートホースを見つけることだ。
もうキャロがいるからテイムはできないけど、一目見てみたいのである。
ムーンポニーがあれだけ見つけづらかったわけだし、キュートホースも何か条件を達成せねば出現しない可能性があると思う。
そこで、いくつか考えてきた方法を試してみるつもりなのだ。
「じゃじゃーん! ニンジン~!」
「フマ?」
「これをこうして、こうするわけだ。アイネ、その木の上に結んでくれるか?」
「フマ!」
俺が考えたのは、好物であると思われるニンジンを使って、キュートホースをおびき寄せるということだった。
仕掛けは単純で、紐を巻いたニンジンを木の枝に吊るすだけだ。少し放置して、戻ってきたときに何か変化があればラッキーだろう。
一番いいのはこのニンジンを食べるために姿を見せてくれることだが、そう上手く行くわけはないのは分かっている。
ただ、少しでも齧られていれば、付近にキュートホースがいる可能性があるのだ。それが分かるだけでも、探索の手掛かりになるだろう。
「みんなー、次の広場行くぞー」
「デビー!」
「モグー」
それからさらに2つの広場を巡ったが、お孫さんもキュートホースも発見できなかった。もしかして、探し方が悪いか?
お孫さんは、近づけばマーカーなどですぐ分かると思っていた。だけど、そうじゃない可能性が出てきたぞ。もしかしたら隠れているかもしれない。
だとすると、もっと丁寧に探さないとダメかもしれなかった。
「みんな、作戦変更だ。もっとしっかりじっくりと探索するぞ。周辺の草むら全部かき分ける勢いで!」
「キキュ!」
「ヤー!」
やはり遊び感覚らしい。まあ、飽きずにしっかり働いてくれるなら、宝探し気分でもいいけどさ。
「お孫さんやーい! どこだ~?」
「デビー!」
「フマー!」
飛べる子が多い編成だし、探索力は意外とあると思うんだよね。